ジェイン・オースティン『エマ』(10)

4月24日(月)晴れ

これまでのあらすじ
 18世紀の終わりか、19世紀の初めごろのイングランド南東部サリー州ハイベリーの村が舞台である。この村の大地主の娘エマ・ウッドハウスは21歳になるが、美人で頭がよく村の女王的な存在である。ただ1人の姉イザベラが嫁ぎ、病弱な父親の世話をしながら暮らしているので結婚の意思はないが、長く彼女の家庭教師をしていたミス・ケリーが、村の有力者の1人であるウェストン氏と結婚した際に、その縁結びをしたと信じ込んで、他にも縁を結ぼうと考えはじめる。隣の教区の大地主であるナイトリー氏はエマの姉の夫ジョン・ナイトリー氏の兄であり、エマを子どものころからよく知っていて、そんなエマの思い込みをたしなめる。
 村にある寄宿学校の特別寄宿生であるハリエット・スミスと知り合ったエマは、かわいくて気立てのいい彼女が気に入る。ハリエットにはナイトリー氏の信認篤い自営農民のロバート・マーティンが思いを寄せ、求婚さえしたのだが、エマはもっといい結婚相手を探すべきだと言って、村の教区牧師であるエルトンと彼女を結びつけようとする。しかし、野心家のエルトンはハリエットではなくエマこそ自分の相手だと言い、エマに求愛を拒絶されると、保養地であるバースに出かけて、そこで出会ったオーガスタ・ホーキンズという財産家の娘と婚約する。
 ウェストン氏にはいまは亡き先妻との間に儲けたフランクという息子がいて、先妻の実家であるヨークシャーの名門チャーチル家で養われ、その財産を継承することになっていた。気難しいチャーチル夫人の意向をおもんばかって、なかなか父親に会いにやってこなかった彼がようやくハイベリーの村を訪問する。エマはチャーチルに好感を抱くが、友人としてはよいが、結婚すべき相手であるとは思わない。そう思いながら、フランクとは表面上親しい付き合いを続ける。しかしフランクにはハリエットの方がふさわしいのではないかと考える。ハリエットがジプシーに襲われた際に、フランクが彼女を助けるという事件が起きて、その思いはますます強くなる。しかし、ハリエットはエマに、自分が恋しているのはナイトリー氏であると言い、エマはナイトリー氏こそが自分の一番大事な人であることに気付く。
 村の昔の教区牧師の未亡人であるベイツ夫人にはジェイン・フェアファクスという孫がいて、なき父親の友人であるキャンベル大佐夫妻に育てられ、家庭教師になるべく教育を受けてきたが、事情があって、祖母のもとに里帰りしている。エマと同い年で才芸に秀でた美人のジェインを、エマはライバル視する。
 エルトンと結婚したオーガスタ→エルトン夫人は自己顕示欲の強い成り上がりで、エマに近づこうとして彼女に嫌われたので、ジェーンにまといつき、彼女に家庭教師の仕事を世話しようとする。彼女がエルトン夫人の説得に負けて、家庭教師の職に就こうとしたとき、チャーチル夫人の死で養家に戻っていたフランクから驚くべき知らせが届く。フランクとジェインは秘密裏に婚約していたのであり、チャーチル夫人の死後、フランクは結婚の許可を得たというのである。この話を聞いたナイトリーは、思わず、エマに求婚してしまい、エマは、彼を失いかけているのではないかと心配していたところだったので、求婚に応じる。

 ナイトリー氏と結婚の約束をしたエマではあったが、病弱な父親が生きているうちは彼と一緒に生活するために、結婚を思いとどまっておこうと考える。この婚約がハリエットにショックを与えたのではないかと考えた彼女は、ハリエットにロンドンに住むイザベラのもとにしばらく滞在することにしてはどうかと考える。ウェストン夫人からエマのもとに出紙が届き、そこにフランクからの手紙が同封されていて、彼がジェインとの婚約を隠すためにエマに近づいていたこと、それがジェインの気持ちを損ねて、婚約を破棄するという手貝が届いたが、チャーチル夫人の死がきっかけとなって結婚を認められた次第が記されていた。(第50章)

 エマのもとにやってきたナイトリー氏はフランクの手紙を見て、厳しい意見を述べる。その後で、彼がエマとの結婚後は、エマの父親であるウッドハウス氏の邸ハートフィールドに住むことで問題を解決しようと提案する。この提案にエマは同意するが、その一方で、ハリエットのことが心配でならない。(第51章)

 エマはイザベラに手紙を書いて、ハリエットのロンドンへの招待を実現させ、ハリエットはロンドンに向かった。エマはナイトリー氏との婚約を打ち明けるのは、妊娠が分かったウェストン夫人の出産後にしようと考える。少しばかりできた空白の時間を有効に使おうと、彼女はジェイン・フェアファクスと和解に出かける。ベイツ家にはエルトン夫人がいて、2人は自由に話ができなかったが、分れる際に、ジェインはエマに心からの感謝の気持ちを述べる。そしてチャーチル夫人の喪が明けたらすぐにフランクと結婚すると伝える。(第52章)

 ウェストン夫人は無事に女児を出産する。エマはナイトリー氏との結婚を父に認めてもらおうとする。ウェストン夫人、さらにナイトリー氏の説得があって、変化の嫌いなウッドハウス氏もようやく娘の結婚を承諾する。このニュースはやがて村中に広がり、多くの人がこの結婚を好意的に迎えたが、エルトン夫妻だけは否定的な感想を述べた。(第53章)

 姉夫婦がハリエットをともなってハイベリーに里帰りする数日前になって、ナイトリー氏がエマのもとを訪問する。そして、ハリエットとロバート・マーティンが婚約したと告げる。以前、この2人の婚約に反対したエマであったが、今回は2人の結婚を喜んで認めたのであった。父親とともにウェストン夫妻を訪問したエマは、そこでフランクとジェインに会う。エマはフランクのふるまいを許すが、「フランク・チャーチルに会えたのはうれしいし、心から友情を感じるけれど、ナイトリーさんの人格のすばらしさを今ほど強く感じたことはない」(中野訳、下、378ページ)と思う。(第54章)

 ハリエットに会い、またロバート・マーティンとも会って、エマはますます2人の結婚に賛成する気持ちが強くなった。9月末に2人はエルトン牧師の師式で結婚式を挙げた。ジェイン・フェアファクスはハイベリーを去って、ロンドンで暮らしており、11月に挙式する手はずになっていた。エマとナイトリー氏はその中間の10月に挙式したいと思っていたが、ウッドハウス氏がなかなか承諾しなかった。ところが身近である事件が起きて心配性のウッドハウス氏が身近に強い男性を必要に感じ、挙式に承諾するようになった。

 「ふたりの結婚式は、普通の結婚式とほとんど同じだった。花婿も花嫁も、派手に着飾ったり、見せびらかしたりする趣味はなかった。夫から式の様子を詳しく聞かされたエルトン夫人は、自分の結婚式よりはるかに劣ったみすぼらしい結婚式だと思った。 「白のサテンはほとんど使われていないし、レースのヴェールもほんの少しだけ。ほんとに哀れな結婚式ね! 姉のセリーナが聞いたらびっくりするわ」
 だが、そういう華やかさはなくても、この結婚式に出席した少数の真の友人たちの願いや、希望や、信頼や、期待は、新婚夫婦の完璧に幸せな姿を見て十分に満足させられたのである。」(中野訳、下、384ページ)(第55章)

 この物語では5組のカップルが結婚すると書いたが、それはウェストン夫妻(物語の終わりの方で子どもが生まれる)、エルトン牧師夫妻(ウェストン夫人が登場してからは見事な悪役ぶりを見せる。ご本人が悪役だと思っていないところが、これまたすごい)、ロバート・マーティンとハリエット(本来ならば、もっと早く結婚しているはずなのに、エマが余計な画策をしたので、延び延びになった。しかし、雨降って地固まるということもあるだろう)、ナイトリー氏とエマ、そしてフランク・チャーチルとジェインである。ナイトリー氏とエマはお互いに好意を持ってきたのだが、それが愛情だと気づいていなかった。ところが、フランク・チャーチルが現われてエマに気があるようなそぶりをしたことから、ナイトリー氏もエマも自分の愛情の向けられる相手について自覚を深めることになった。生真面目なジェーンはフランクのエマに対する言動に腹を立て、ついには絶縁するとまで言い出し、実際に手紙を送り返すという挙に出る。フランクとジェーンの秘めたる恋は、ナイトリー氏だけが気付いたのだが、注意深く読むと作者があちこちにそれらしき伏線を張っているのに気づくはずである。
 エマは欠点も多いが、それがかえって魅力になっているところがある。勘違い令嬢の巻き起こしたドタバタ喜劇となるはずのこの物語が、意外にまじめに展開してしまうのが、いかにも英国的ではないかと思う。もっと簡単に紹介するつもりだったのが、10回という長い紹介になってしまった。お付き合いいただいたことを感謝する次第である。

付記 エマの姉のイザベラが夫であるジョン・ナイトリーと住んでいるロンドンのブランズウィック・スクエアは実在の地名で、その近くをうろうろしたことがある。ジョン・ナイトリーは「弁護士」で、おそらくはbarrister(法廷弁護士)である。ハイベリーに事務所がある「事務弁護士」のコックス氏は、もちろんsolicitor(事務弁護士)である。翻訳者は、英国にこの2種類の弁護士がいることを知っていて、文脈から訳し分けているのだが、オースティン自身はこの2つの語を使っていないで、何となくそうだろうなあという書き方をしているのは興味深いことである。エマがコックス氏の2人の娘を「下品」だと言っていることに示されるように、昔は両者の間にはっきりした階級的な違いがあったが、現在ではそういうことはないそうである。ちなみに、シャーロック・ホームズものではsolicitorはよく登場し、事件の容疑者になったりもするが、barristerが登場するのは「ボヘミアの醜聞」と「ソア橋」の2篇だけ(本格的に登場するのは(「ソア橋」だけ)ではないかと思う。 
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