入試改革か教育改革か

5月11日(土)雨

 東京大学が推薦入試の導入を骨子とする入試改革案を発表した。これまでのやり方では確保できなかった個性的な学生を増やそうというのがその意図のようである。

 さらにその背景になっている事情を斟酌すると、最近、盛んになっている各種の国際大学ランキングで、東京大学は日本の大学では首位に立っているが、国際的にみると今ひとつというところなので、さらに頑張ろう、そのためには学生の質を変えて行こうということらしい。したがって孤立した試みというよりも、9月入学制への移行のような他の改革と連動する動きと見るべきである。

 物事はやってみなければわからない。今回の改革についてとやかく言うよりも、その成否を見守る方が公正な態度ではあろう。しかし、実施にあたっていくつか投げかけておきたい疑問がある。

 その第1は大学が「個性」というものをどう考えているかということである。1人1人の人間はそれぞれ他と区別される特色をもっている。それを「個性」と考えるのであれば、すべての人間は「個性的」である。「個性的な学生を増やす」という議論自体が、どうも胡散臭く感じられてしまう。

 むかしむかし、林竹二の講演を聴いていたく感銘を受けたことがある。一人ひとりの子どもはそれぞれ素晴らしい可能性をもっている、彼があるところで現場の先生を相手にそういう話をしたら、「そうはいっても先生、出来ること出来ない子がいるでしょう」と言われたというのである。

 林竹二も、現場の先生も間違ったことはいっていない。議論がかみ合っていないだけである。できる子にはできる子の、出来ない子にはできない子の可能性がある。それらの子どもの可能性は個性的なものである。それぞれの可能性を伸ばすことは本人の問題であるが、可能性に気づいて努力するのを援助することはできるはずである。それが教師の仕事であろうが、なかなかできない、それはなぜか・・・という方向に議論をもっていくべきであったのであろう。

 実は東大の推薦入試について、センター試験で一定程度の成績をとることが前提となっていて、やはりできる受験生の間での「個性」が問題になっているようである。だとすると、大学としてはもっとその「個性」の中身について具体的に説明する必要があるのではないか。

 もっとも、最近は推薦入試、AO入試についても専門の予備校ができている。大学が入試改革をすると、受験産業の方もそれに対応する。その繰り返しが続いてきたというのが真相のように思われる。今回の東大の入試改革についても、受験産業はそれなりの対応を試みることが予想される。大学が求める個性を具体的に示して、手の内を明かしてしまうと、受験産業に付け入るすきを与えることになると考えたのかもしれない。

 だとすれば、むしろ大学は入試よりも、入ってからの学生の教育に重点を置くべきである。そういう議論に対しては、大学は十分に教育の改革に取り組んできたが、どうしてもそれだけでは限界があるから、改めて入試改革に取り組むのだという反論があるだろうが、大学入学後の教育において、学生の個性にどの程度配慮がなされているのかについては疑問をさしはさむ余地がある。「個性的な学生を増やす」よりも、今いる学生の個性を発掘し、伸長することに重点を置くべきである。大学には大学の専門的な研究・教育の領域があり、それにふさわしい個性の持ち主を選びたいという気持ちはわかるが、個別の学問についての情熱に目覚めさせることこそ大学の教師の仕事であろう。その一方である種の意外性のようなものも考えに入れておく必要もあるだろう。そこにこそ新しい学問の発展の芽があるはずだからである。

 さらに言えば、人間のすることにはどんなことでも失敗はあるのであって、入学試験にも選抜される側だけでなく、する側の失敗もあることは念頭に置く必要があるだろう。間違って入ってきちゃった学生が多少いても、それは仕方がないし、大学にもそれを認めるだけの雅量があってよいのではなかろうか。間違って入ってきても、学生相互の磨き合いの中でこれまで眠っていた可能性を開花させることができるかもしれない。それでももし、そのような学生の存在を認めたくなければ、単に教育のやり方を工夫するだけでなく、学生の学習到達度についてより厳しい基準を設けて、厳正な評価をすることが必要であろう(つまり気に入らない学生はどんどん追い出せということである)。いずれにせよ、大学教育には(というよりも教育全般には)我慢比べのようなところがある。入試改革は、我慢の性格を変えるかもしれないが、依然として我慢比べが続くことは覚悟しておくべきであろう。
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