ジェイン・オースティン『エマ』(9)

4月17日(月)晴れのち曇り

これまでのあらすじ
 イングランド南東部、ロンドンから遠くないサリー州のハイベリーの村に住む大地主の娘エマ・ウッドハウスは21歳。美人で頭がよく、村の女王様的な存在である。姉がすでに結婚し、病弱な父親を助けて家政を切り盛りしている。長く家庭教師をしてきたミス・テイラーが村の有力者であるウェストン氏と結婚したのは自分の縁結びのためだと思い込んで、縁結びに取り組もうとする。
 隣村の大地主であるナイトリー氏は、エマの姉の夫の兄で、エマとは16歳ほど年長であるが、そんなエマに直言できる唯一の人物で、縁結びは余計なお世話であるという。
 村にある寄宿学校の特別寄宿生であるハリエット・スミスはかわいらしくて気立てのいい女性であり、エマは彼女が気に入って誰か紳士の妻にしようと考える。村の教区牧師であるエルトンがその候補に挙がるが、野心家の彼はハリエットを相手にせず、保養地で知り合った裕福な商人の娘と結婚する。エルトン夫人はでしゃばりで自己顕示欲が強く、エマと張り合おうとする。
 ウェストン夫人には先妻との間にフランクという息子がいて、先妻の死後、その実家であるヨークシャーの名門チャーチル家で育てられていたが、父親に会いにハイベリーにやってくる。フランクはエマと親しくなるが、エマはどちらかというと軽薄な感じのフランクを友人以上の存在とは考えようとしない。村の昔の教区牧師の未亡人であるベイツ夫人にはジェインという孫がいて、死んだ父親の友人であるキャンベル大佐の家で育てられているが、ゆくゆくは家庭教師として自立するはずである。キャンベル家の都合で彼女はハイベリーに里帰りしているが、美人で才芸に秀でた彼女に対し、エマはあまりいい感情をもたない。ナイトリーはフランクがエマとジェーンの二股をかけているのではないかと疑い、彼を嫌うが、エマはフランクとジェインの間には何もないと考えている。村の主だった人々が出かけたボックス・ヒルへのピクニックでフランクはエマと恋のたわむれを続け、少し苛立っていたエマは米津夫人の娘(ジェインの伯母)でおしゃべりのミス・ベイツに失礼なことを言ってしまう。

 ボックス・ヒルへのピクニックでミス・ベイツにひどいことをいってしまったことへの後悔の念に駆られて、エマはベイツ家を訪問する。エマの訪問を知って、ジェインとミス・ベイツは隣の部屋に逃げるように入ってしまった。一人残っていたベイツ夫人はジェインは体の具合が悪いのだという。やがて出てきたミス・ベイツはジェインがエルトン夫人の世話で家庭教師として勤めることが決まったという。ジェインはミス・ベイツに詫びるためにやってきたのだが、ミス・ベイツはジェインの就職を祝うためにやってきたように受け取っている。しかし、エマはジェインが内心ではこの就職を喜んでいないのではないかと推測し、これまでジェインに不当な態度をとっていたことを後悔する。また、チャーチル夫人の容体が急変し、フランク・チャーチルが急いでリッチモンドに出発したことをエマは知る。(第44章)

 エマは沈んだ気持ちで帰宅するが、彼女の留守中にナイトリーがハリエットを連れてハートフィールド屋敷にやってきていた。ナイトリーは、ロンドンにいる弟を訪問するという。
 翌日、リッチモンドからチャーチル夫人の訃報が届く。エマは彼女の死によってフランクが自由に行動できるようになり、もし彼がハリエットを好きになってくれればいいがと期待に胸を膨らませる。その一方で、未来が閉ざされてしまったように思われるジェインへの同情心が募ってきて、手紙を書くが、体調が悪くて手紙も書けないという口頭での伝言が返ってきただけである。さらに馬車で訪問し、外出に誘おうとしたが、これも断られる。さらに薬草のクズウコンを送るが、送り返される。ところが、ジェインが一人で外出して散歩している姿を見たという話を聞く。どうもジェインはエマを避けている様子である。(第45章)

 チャーチル夫人の死から10日ほどたって、ウェストン氏がハートフィールド屋敷を訪ねてきて、エマに午前中のいつでもいいから自分の邸に来てほしい、ウェストン夫人が会いたいと言っているという。エマはすぐに彼とともに外出するが、ウェストン氏は用件を打ち明けない。 ウェストン氏の邸に到着すると、やつれ切った表情のウェストン夫人がエマを迎える。彼女は、フランクとジェイン・フェアファクスがすでに婚約していたと打ち明けたことを告げる。2人はそのことを他の誰にも知らせなかっただけでなく、フランクはエマに気があるようなそぶりをして、人々の目を欺いてきたのである。エマはフランクとジェインの関係についてはまったく気づいてはいなかったが、フランクから彼女の気を引くようなそぶりをされても、彼には関心はまったくなかったので、ウェストン夫妻が心配するようなことはないという。むしろ、ジェインの方がフランクの誠意を疑いはじめ、婚約を破棄して家庭教師になる決心をしていたのであった。事の重大さに気付いたフランクはチャーチル氏に婚約を認めてもらい、ハイベリーに急行してジェインの誤解を解こうとしたのであった。エマはウェストン夫妻に、ジェインを花嫁として迎えることについてお祝いの言葉を述べる。(第46章)

 しかし、エマとしてみると、ハリエットにフランクへの想いをたきつけてしまったことへの後悔が残る。形勢逆転、ジェインではなく、ハリエットを元気づけなければならなくなった。しかし、エマを訪れたハリエットはフランクとジェインの婚約を不思議がるだけで、童謡の色を見せない。彼女が思いを寄せているのは別の男性のようである。そしてハリエットは自分はナイトリーを慕っているが、あまりにも身分が違うので、結婚の望みはないものと思うと打ち明ける。その告白を聞いて、エマはナイトリーこそ、自分にとって一番大事な男性であると気づく。(第47章)

 「エマはそれを失う危機にさらされて初めて気がついた。ナイトリー氏にとって自分が一番だということ。つまり彼の関心と愛情の対象として、自分が一番だということ。それがエマの幸福に大きく関係していたのだ。一番だということに満足し、一番であることが当然だと思い、何も考えずにその状態を楽しんできたのだ。そして、その地位がおびやかされているとわかって初めて、自分にとってそれが言いようもなく大事なことだと気づいたのだ。・・・でもエマは、ナイトリーその関心と愛情の対象として一番にふさわしい人間ではなかった。小さいころからたびたび怠慢だったり、強情だったりして、彼の忠告を無視したり、わざと彼に逆らったりした。彼の長所の半分もわかっていなかったし、彼女の思い上がった自己評価を彼が認めてくれないと言って喧嘩したこともある。それでもナイトリー氏は、家族の愛情と習慣から、寛大な精神から、小さいころからエマを愛し、見守ってくれた。」(中野訳、下、272-273ページ)
 エマはハリエットに出紙を書き、しばらく彼女と二人だけで打ち明け話をしないようにすると伝え、ハリエットも同意する。ベイツ家を訪問し、ジェインと話し合ってきたウェストン夫人がエマの元にやってきて、ジェインが誤解からエマを避けていたことをお詫びする気持ちを伝える。エマはジェインを祝福する一方で、これから彼女が味わうことになる孤独を想像して惨めな気持ちになる。(第48章)

 次の日、エマが散歩していると、ナイトリーがやってくる。ナイトリーもフランクとジェインの婚約のことを既に知っていて、フランクのふるまいを批判する。エマは、フランクのことは何とも思っていなかったと言い、ナイトリーはそれを聞いて安心する。ナイトリーはエマに言いたいことがある様子で、エマはそれがハリエットとの結婚であっても、勧めようと内心で思う。
 ナイトリーがエマに尋ねたのは、彼とエマとの結婚の可能性はないのかということで、彼の真剣な目がエマを圧倒した。エマは素早く頭をめぐらして、彼の真意を理解し、結婚を承諾する。ナイトリーはロンドンでフランクとジェインの婚約の話を聞き、エマがそれをどのように受け止めているかを知りたくて、彼女を慰めるためにやってきたのだが、事の成り行きでエマに求婚してしまったのである。エマの気持ちの変化もナイトリーに劣らず、急激なものであった。(第49章)

 この物語は55章からなるが、今回紹介した第46章を軸として物語が急転する。オースティンの他の小説でもそうだが、婚約というのは当事者である男女が結婚の約束をすることであって、それ以外の人間に認めてもらう必要なしに成立する。それで、それから結婚までさらに紆余曲折がある。ナイトリーとエマの場合も、エマの病弱な父親の面倒を今後どのように見ていくかとか、二人が結婚後どこに住むかなどの問題がある。オースティンの他の小説と違って、財産の相続の問題があまり前面に出てこないのもこの作品の特色かもしれない。
 フランクとジェインの婚約が明るみに出、ナイトリーとエマの婚約が成立した。この小説では5組の夫婦が出来上がる――ということは、まだ1組残っていることになる。それが誰と誰の婚約であるかはだいたい推測がつくだろうと思う。
 この小説については、最後までを紹介するつもりなので、結末を知りたくない方は、次回はご遠慮ください。もっとも主要な登場人物の運命はほとんど決まってしまっていることは否定できない。
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