ジェイン・オースティン『エマ』(8)

4月10日(月)晴れたり曇ったり

これまでのあらすじ
 18世紀の終わりか19世紀の初めごろのイングランド東南部、ロンドンからほど遠からぬサリー州のハイベリーの村に住む大地主の娘エマ・ウッドハウスは21歳、美人で頭がよく、村の女王的な存在である。病弱で、生活の変化を嫌う父親と暮らしているために、自分自身は結婚する意志はないが、長年家庭教師を務めていたミス・テイラーが村の有力者の1人であるウェストン氏と結婚したのは自分の橋渡しのためであったと思い込み、自分には縁結びの才能があると考える。そして村の教区牧師である未婚のエルトンの妻を見つけようとする。隣村ドンウェルの大地主で、エマの姉の夫の兄であるジョージ・ナイトリーはそんなエマの思い込みをたしなめる。
 エマは新しく知り合った若い娘ハリエットをエルトンと結びつけようとするが、野心家のエルトンはハリエットを相手にせず、保養地で知り合った商人の娘オーガスタ・ホーキンズと結婚する。
 ウェストン氏には先妻との間にフランクという息子がいて、死んだ母親の実家であるヨークシャーの名門チャーチル家で育てられているが、養母が病弱なうえにわがままでなかなか父親に会うことができない。ようやくハイベリーにやってきたフランクはエマと親密になるが、エマは彼と結婚しようとは思わない。いったんヨークシャーに帰ったフランクであるが、養父母がロンドン郊外でハイベリーから近いリッチモンドに家を借りたので、ハイベリーに頻繁に来ることができるようになる。
 村の元牧師の未亡人であるベイツ夫人は善良でおしゃべりの娘=ミス・ベイツと暮らしているが、死んだ末娘の子で、やはり死んだ父親の友人であったキャンベル大佐に養われているジェイン・フェアファクスが里帰りしてくる。ジェインは才芸に秀でた美人であるが、感情を表に出さないタイプで、エマは彼女が気に入らない。
 エルトン夫人が村にやってくるが、成り上がりで自己顕示欲の強い女性で、エマは彼女を嫌う。エマと仲よくなれないと思ったエルトン夫人はジェインと親しくなり、彼女に有利な家庭教師の仕事を世話するとうるさく迫る。(第37章まで)

 ウェストン氏が計画していたが、フランクが養父母のもとに帰ったために中止された舞踏会が開かれることになる。ウェストン氏はエマをはじめ、多くの人々に会場の点検を依頼していた。「ウェストンさんの率直で開けっぴろげな性格は好きだけど、もう少し節度があった方がいい。人間として大事なことは、誰とでも親友になることではなく、誰にでも親切にしてあげることではないかしら。エマはそういう男性を思い描くことができた。」(中野康司訳、下、118ページ) エマが会うのを楽しみにしていたフランクもやってくるがなぜか落ち着かない様子である。エルトン夫人は女主人役ではないが、女主人然とふるまう。オープニング・ダンスの先頭をエマはエルトン夫人に譲ることになったが、エルトン夫人とはウェストン氏が踊ることに、二番手でエマはフランクと踊ることに落ち着く。
夜食前の最後のダンスで踊り手としてハリエットが一人余ってしまい、残っていたエルトンは彼女と踊らないことを見せびらかす意地悪をする(エマが彼とハリエットを結びつけようとしたことに対する当てつけである)。するとそれまで踊らずにいたナイトリーがハリエットの手を取って彼女と踊る。エマはそれをうれしく思い、夜食の後のダンスをナイトリーと踊る。(第38章)

 翌朝、エマはナイトリーとの短い会話の中で、エルトン夫妻がひどい人間だという点で意見が一致したこと、ナイトリーがハリエットの美点を褒めたことを思い出して喜んでいた。ところが、フランク・チャーチルがハリエットを連れて彼女の邸にやってくる。ハリエットが散歩中に、ジプシーの物乞いに囲まれて困っていたところを、フランクが助けたというのである。エマはこの事件をきっかけとして2人の仲が急接近するのではないかと考える。(第39章)

 数日後、ハリエットがエマを訪問し、かつて抱いていた(エマがたきつけた部分も大きい)エルトンへの思慕は思い切ったという。いまはもっと素敵な人物を恋しているが、彼との結婚はかないそうもないので、一生独身でいるつもりだともいう。(第40章)

 6月になり、エルトン夫妻は義兄で大金持ちのサックリング夫妻のハイベリー訪問の予定と、馬車での遠出の計画を話し、ジェインはまだベイツ家に滞在していた。ナイトリーは、フランクがエマに気があるような行動をしているが、実はジェインと二股をかけているのではないかと疑い、そのために彼に対する嫌悪感を強めていた。ウッドハウス家で大勢でお茶を楽しむことになった際のフランクとジェインの言動からナイトリーはますます疑惑を募らせるが、エマはフランクとジェインが愛し合っていることは絶対にないと、ナイトリーの考えを一笑に付す。(第41章)

 サックリング夫妻がハイベリーを訪問するという話は秋まで延期になる(物語が終わるまで、訪問したという話は出てこない。あるいは作者がわざと書き落としたのかもしれない。意地悪く考えると、実はサックリング夫妻はエルトン夫妻のことをそれほど大事に思っていないのではないかとも想像できる)。一方、ウェストン夫人に赤ちゃんができたということが分かり、周りの人々を喜ばせる。サックリング夫妻がやってきたら、サリー州の有名な行楽地であるボックス・ヒルにピクニックに行く予定であったが、これまでも出かけるという話はあったので、彼ら抜きでも出かけようという話になった。エマはウェストン氏と相談して、気に入った仲間で静かで控えめなピクニックをしようとする。ところが、社交好きのウェストン氏はエマの気持ちを考えずに、エルトン夫人に声をかけてしまう。「ピクニックは大勢で行かないと面白くない。多ければ多いほどいい。大勢で行けばきっと楽しいピクニックになる。エルトン夫人は決して悪い人じゃない。仲間外れにしたらかわいそうだ」(中野訳、下、171ページ)。エマは内心で、ウェストン氏のいうことには全部反対していた。
 エルトン夫人は張り切って準備を進めていたが、ところが馬車馬が足を痛めて、それが治るまでピクニックは延期になってしまう。その話を聞いたナイトリーが自分の持つドンウェル・アビーのイチゴ畑でいちご狩りをすればよいといったところ、エルトン夫人はその話に飛びつく。そして招待客などイチゴ狩りの次第を全部自分で取り仕切ろうという。エルトン夫人の思惑に反して、内心ではエルトン夫妻をひどい人間だと思っているナイトリーは、「ドンウェル・アビーの招待客をもつ既婚女性は、この世に一人しかいない」(中野訳、下、173ページ)という。それはミセス・ナイトリーだという。ナイトリーが誰を念頭に置いているかはすぐに想像できるはずだが、エルトン夫人はそれが冗談だとしか思わない。このいちご狩りの計画は多くの賛同を得、ウェストン氏は頼まれもしないのに、自分の息子(つまりフランク)も参加させると言い出す。
 そうこうするうちに、馬車馬の足が意外に早く回復し、イチゴ狩りの翌日にボックス・ヒルにピクニックに出かけることになる。
 6月の下旬にドンウェル・アビーでいちご狩りが行われ、エマはこの屋敷のすばらしさに改めて感動する。イチゴ狩りの一方で、エルトン夫人はジェインに自分が持ってきた家庭教師の話を承諾するようにうるさく迫る。食事の後、一行が邸内を見ていると、エマのところにジェインがやってきて、一人になりたいので、早めに帰ると言い出して去っていく。それから15分ほどしてフランクがやっと到着するが、不機嫌な様子であった。しかし、エマの説得で翌日のピクニックには参加するという。(第42章)

 翌日、素晴らしい晴天に恵まれ、準備も怠りなく、ピクニックは楽しいものになるだろうと思われたが、「その日の雰囲気には、何かが欠けていた。みんな疲れた感じで、元気がなくて、一体感がなくて、その沈滞ムードをどうしても払いのけることができなかった。」(中野訳、下、193ページ) 一行はいくつかのグループに分かれてしまい、ウェストン氏がみんなをまとめようとしたが駄目だった。それでも目的地に到着し、皆が丘に腰を下ろすと、少し雰囲気がよくなり、フランクが陽気にしゃべりだしたので、エマもそれに合わせて気分を盛り上げようとした。2人は仲良く話しているように見えたが、それは「恋のたわむれ」であって、少なくともエマから見ると、本気の行動ではなかった。場を盛り上げようとフランクは、面白い話を1つ、まあまあ面白い話ならば2つ、つまらない話ならば3つを話して、エマを笑わせることを提案する。するとおしゃべりのミス・ベイツがつまらない話を3つすることなら簡単だと言い出す。常々彼女のおしゃべりに辟易していたエマはつい、「あら、でも、難しいんじゃないかしら。失礼ですけど、数が限られているのよ。一度に三つだけよ。」(中野訳、下、199ページ)といってしまう。鈍いミス・ベイツも少したってからこの毒のある言い方に気付いて傷ついてしまう。一方、ウェストン氏は「その遊びは気に入った」といい、なぞなぞを出したりするが、グループはバラバラになり、気まずい雰囲気に包まれる。帰りの馬車を待っているエマに、ナイトリーは、ミス・ベイツのような弱い立場にある人間に心無いことばを懸けたエマを非難する。エマはなぜあんなひどいことをいってしまったのかと後悔の気持ちでいっぱいになる。(第43章)

 今回紹介した部分では社交好きで、誰とでも仲良くしようとするが、個々の人間の微妙な気持ちにはあまり配慮しないウェストン氏と、誰にでも親切にふるまっているが、心の中ではかなり厳しい人間観を抱いているナイトリーの対比が際立っている。エルトン夫人がナイトリーの表面的な丁重さを額面通りに受け取って、自分が嫌われていることに気付かないのは、かなり滑稽である。エマがミス・ベイツに投げつけた言葉はかなり残酷だが、実は自分の父親の訳のわからない議論に疲れていることも影響して、こんなことをいったのかもしれないとも思う。エマの父親であるウッドハウス氏は病弱で、自分の体に悪いものは、それを食べても大丈夫な健康な人間にとっても有害だと思い、親切心からやめさせようとするような人間である。ある意味で、ミス・ベイツよりもかなりたちが悪いところがある。特に美味しい料理を御客の目の前に出しておいて、何やかやと理由をつけて食べさせないというのは困った行為である。ミス・ベイツのおしゃべりを借りると:「最初に、子牛のすい臓の煮込み料理とアスパラガスが出たけど、ウッドハウスさまが、アスパラガスのゆで方が足りないと言って、全部下げさせてしまったんですって。おばあさまは、子牛のすい臓の煮込み料理とアスパラガスが大好物なの。それでちょっとがっかりしたそうよ。でもこのことは、誰にも言わないことにしたの。ミス・ウッドハウスのお耳に入ったら気になさるもの。」(中野訳、下、133-134ページ) 誰にも言わないと言いながら、ジェインに向かってしゃべっているし、たぶん大声だから、エマ(=ミス・ウッドハウス)の耳にも届いている。というよりも、エマはそういうことを知り抜いているから、ペラペラしゃべられると気に障るということもあるかもしれない。実際に、エマは父親がごちそうを出しておいて食べさせない性癖があることを知って、いろいろと手を打つ個所があった(上巻の329ページをご覧ください)。客観的に見れば、ミス・ベイツの方がウッドハウス氏よりも他愛のない人だという気がするが、親子の情愛が絡むと判断がむずかしくなるのだろう。 
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