ジェイン・オースティン『エマ』(6)

3月28日(火)晴れのち曇り

これまでのあらすじ
 19世紀の初めごろ、イングランド東南部のサリー州ハイベリーの村に住むエマ・ウッドハウスは、村一番の大地主の娘で、美人で頭がよく、村の女王様的な存在である。早く母を失い、姉は結婚してロンドンで暮らしている。母親代わりを務めていた家庭教師のミス・テイラーが村の地主の1人であるウェストン氏と結婚したので、善良だが病弱で、凡庸な精神の持ち主である父親と二人暮らしになった。父親の面倒を見なければならないので、本人は結婚する意志はないが、ウェストン夫妻の結婚に至る縁結びをしたのは自分だと信じている彼女は、さらに別の縁組をしようと考え、村の牧師で独身のエルトンに目をつける。
 物事が自分の思い通りになってきたために、自分の力を過大評価する傾向のあるエマに対して、その欠点を直言できるただ一人の人物が隣村であるドンウェルの大地主で、エマの姉のイザベラの夫ジョンの兄であるジョージ・ナイトリーであるが、彼はエマのそんな思い付きを余計なおせっかいであると止めようとする。
 村の寄宿学校の特別寄宿生であるハリエット・スミスと知り合いになったエマは、かわいくて気立ての良い彼女がすっかり気に入り、彼女とエルトンとを結びつけようとする。しかし、野心家のエルトンが結婚相手として念頭に置いていたのはエマの方であり、エマに求婚を断られたエルトンは、保養地であるバースに向かい、そこで知り合ったミス・ホーキンズと婚約する。
 村の元牧師の未亡人であるベイツ夫人にはジェイン・フェアファクスという孫娘がいて、陸軍士官だった死んだ父親の友人のキャンベル氏に引き取られてロンドンで暮らしていたが、キャンベル夫妻が結婚した娘の嫁ぎ先であるアイルランドを訪問している間ハイベリーに里帰りする。ジェインはエマと同じ年頃で、才芸に秀でた美人であるが、慎重な性格でエマは彼女が気に入らない。
 一方、ウェストン氏には死んだ前妻との間に儲けたフランクという息子がいて、ヨークシャーに住む前妻の実家のチャーチル家で養われている。養家の事情からハイベリーにやってくる事は無かったフランクがとうとう父親に会いに村を訪問する。エマは明るい性格のフランクが気に入り、すぐに打ち解ける。ウェストン夫妻はフランクとエマを結びつけようと考えている様子である。
 エマはフランクがロンドンに散髪に出かけると聞き、驚き、彼の軽薄さにあきれる。(実は、散髪は口実で別の用事があるのかもしれないが、なぜか彼女の想像力はそういう方向に働かない。) 村で2番目の金持ちである成り上がりのコール氏からのディナーの招待状を受け取ったエマは、出席を断るつもりであったが、周囲の人々の勧めもあって出かけることにする。(以上25章まで)

 エマの心中を知ってか、知らずにか、フランクは上機嫌でロンドンから戻ってくる。心ならずもコール家のディナーに出席することになったエマは、それでもフランクに会って、彼を観察するのを楽しみにしている。ハイベリーの主だった人々が皆招待されている会の中で、エマはジェインのもとにロンドンの楽器店からピアノが届けられたという話題を耳にする。贈り主が誰なのかというのがその関の話題の中心であった。ジェインの養い親であるキャンベル夫妻ではないかという意見が有力であったが、エマは夫妻の娘の嫁ぎ先のディクソン氏が送り主ではないかと想像する。ジェインとディクソン氏が人目を忍ぶ恋をしているのではないかとさらに想像を膨らませる。この話題を聴いてなぜかフランクはにこにこしている。
 お茶の時間にいつもは歩いているナイトリー氏がこの晩に限って馬車でやってきたのは、ミス・ベイツとジェインの送り迎えのために借りたのだという話題を持ち出したウェストン夫人は、ナイトリー氏はジェインとの結婚を考えているのではないかとエマに言う。エマはなぜかむきになって反対する。お茶の時間が終わって、音楽の時間になり、エマとジェインがピアノを弾く。「歌も演奏も、ミス・フェアファクスのほうがはるかに上手だということは、エマも認めざるをえない。」(中野訳、上巻、351ページ、「認めざるをえな」くても、相手の方が上手だと分かる程度には、エマの技量が進んでいるということも認めてよい。) ジェインとフランクはもともと知り合いだったようであるが、2人の様子を見ていると、以前に一緒に歌ったことがありそうである。その後、ダンスをすることになり、エマはフランクと先頭に立ってダンスを楽しむ。しかし、2曲踊ったところで、会はお開きになる。(第26章)

 翌朝、ハリエットの訪問を受けたエマは、ハリエットのお茶の会での経験を話す様子から、依然彼女に求婚し(エマがその申し出を断らせた)自営農民のロバート・マーティンのことをハリエットが完全には忘れていないことに気付き、彼女の買い物に同行しようと考える。買い物先でエマはウェストン夫人とフランクに会う。2人はベイツ夫人を訪ねてやってきたという。2人からエマのことを聞いたミス・ベイツ(ベイツ夫人の娘で、ジェインの伯母。彼女のおしゃべりにエマはいつも辟易している)が、エマたちも来てほしいと誘われて、ベイツ家を訪問することになる。ミス・ベイツの話ではナイトリー氏から一家は焼きリンゴにするリンゴをたくさんもらったそうで、フランクはベイツ夫人の眼鏡を修理中だという。(第27章)

 ベイツ家を訪問したエマは、話題のピアノの贈り主をめぐってフランク、ジェインと話をする。前夜、エマは贈り主がディクソン氏ではないかとフランクに言ってしまい、それを後悔していたのだが、フランクは気にしていない様子である。ジェインは慎重な態度を崩さない。しかし、エマはジェインがディクソン氏との道ならぬ恋を楽しんでいると考える。表通りをナイトリー氏が通りかかり、寄って行けというミス・ベイツの勧めにもかかわらず、キングストンに出かける用事があると言って、通り過ぎていく。(第28章)

 コール家でのダンスの楽しい思い出が忘れられないフランクは、ウェストン家でも舞踏会を開こうと計画する。開くこと自体に反対する者はいないのだが、会場の設営がむずかしく、計画は難航する。そうした中で自分の意見を通そうとするフランクの様子を見て、エマは彼とは単なる友達のままの方がいいと考えはじめる。フランクはウェストン家ではなく、村一番の宿屋であるクラウン亭(the Crown Inn)で開くことになったとエマに知らせに訪れたついでに、舞踏会での最初の2曲のダンスを申し込む。ウェストン氏はそれを聞いて喜ぶ。(第29章)

 フランクが養父母のチャーチル夫妻からサリー滞在を許されていたのは2週間であったが、舞踏会の準備を考えるとその期間を延長する必要が生じた。例によってナイトリー氏は、この舞踏会の計画には冷淡で、またもやエマと衝突する。ところが、チャーチル夫人の病状が悪化して、フランクは帰宅しなければならなくなり、計画は取りやめになる。別れのあいさつにエマを訪れたフランクは、何か言いかけてやめてしまう。フランクが去ると、毎日のように彼と会って過ごした楽しい時間のことが思い出されて、エマは虚脱感に陥る。ナイトリー氏とジェインはなぜか落ち着いた様子である。(第30章)

 エマは自分はやはりフランクに恋をしていたのだと思うようになるが、少しずつ考えが変わって、これはほんの軽い恋だと思いはじめる。フランクはウェストン夫人あてに手紙を何通もよこし、その中に「ミス・ウッドハウスの美しいお友達」と書かれていたので、あるいはハリエットが自分の代わりにフランクの相手にならないかなどと考える。
 フランクがハイベリーから去ると、結婚式が近づいたこともあり、エルトン氏が村の話題の中心になる。この結婚によって傷ついているハリエットを是が非でも幸福にしようとエマは考える。(第31章)

 物語の進行は、エマの視線に沿っていて、複数の可能性が考えられる出来事でも、エマの解釈が強調されるが、作者はところどころに伏線を張って、エマの想像力の暴走をそれとなく暗示している。フランクのロンドンでの散髪の件や、ピアノの贈り主は誰かという謎、さらにフランクがエマに言いかけたこととは何であったのかなど、さまざまに想像できる。本筋とは関係がないようなおしゃべりの中に、実は重要な内容が含まれているかもしれず、気の抜けないところがある。ちくま文庫版の解説に引用されているサマセット・モームの発言「オースティンはきわめて健全な良識と、はつらつとしたユーモアの精神を備えていたために、ロマンティックになることができなかった」(396ページ)は、『エマ』にもっともよく当てはまるのではないかと思う(『高慢と偏見』はもう少し「ロマンティック」である)。 
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