ジェイン・オースティン『エマ』(5)

3月20日(月)晴れたり曇ったり

これまでの展開
 ロンドンに近いイングランド東南部のサリーのハイベリーの地主の娘である21歳のエマは、病弱な父を助けてハートフィールド屋敷の経営を取り仕切り、その美貌と才知も手伝って村の女王的な存在であるが、彼女の住み込み家庭教師(ガヴァネス)を長く務めてきたミス・テイラー(→ウェストン夫人)が結婚して、身近な話し相手がいなくなった。結婚相手のウェストン氏は村の社交好きな紳士で、最初の結婚相手との間にフランクという息子を儲けたが、その息子は亡妻の実家であるヨークシャーの名門チャーチル家に養われている。
 ミス・テイラーとウェストン氏の結婚の橋渡しをしたのが自分であると思い込んだエマは、自分には男女の仲を取り持つ才能があると思い込み、村の教区牧師であるエルトンの結婚相手を見つけようと考える。隣村の地主で、エマの姉の夫の兄である(ジョージ)・ナイトリーはそれは余計なお世話であるとエマをたしなめる。彼は、エマの欠点を指摘できる数少ない人間の一人であるが、エマは彼の助言に耳を貸さない。
 エマは村の寄宿学校の特別寄宿生であるハリエット・スミスという若い女性を紹介され、彼女がすっかり気に入る。ハリエットはナイトリーの信任の篤い農夫のロバート・マーティンという求婚者が現われたのだが、エマは2人が身分違いであると言って、ロバートの求婚を拒絶させる。もっと身分の高い男性と結婚すべきだというのである。ハリエットこそ、エルトンの伴侶にふさわしいと思って、いろいろと工作をするが、エルトンが思いを寄せていたのは、実はエマであった。野心家のエルトンにとって、財産を持たないハリエットはまったく問題にならない相手だったのである。

 もともとエマの思い込みの激しさにあおられてエルトンへの思慕を募らせていたハリエットは、エルトンが自分のことをまったく気にかけていないと知って、落胆するが、なかなか彼への想いを断ち切ることができない。何か手を打たなければならないと思ったエマは、2人で、もとの教区牧師の未亡人であるベイツ夫人とその娘のミス・ベイツを訪ねる。村の人々の生活に関心を寄せるのは地主の娘としての義務であるが、エマは村の二流・三流の人々ともしきりに付き合い、人気を集めているこの母娘が(特に娘のミス・ベイツのおしゃべりが)苦手である。エマはベイツ夫人の孫(ミス・ベイツの姪)であるジェイン・フェアファックスが体調が悪いのでハイベリーに里帰りするという話を聞く。(第19章)

 ジェイン・フェアファックスはベイツ夫人の末娘がフェアファックスという陸軍中尉と結婚して儲けた一人娘で、両親が若くして世を去った後、祖母と伯母によって育てられていたが、死んだ父親の上官で親友であったキャンベル大佐がその境遇を知って引き取り、自分の娘と一緒に育てていたのである。ジェインは成長して美しく、才芸に秀でた娘となったが、キャンベル大佐には自分の娘に譲る以上の財産はなかったので、その才芸を生かして家庭教師(ガヴァネス)として生計を立てるはずであった。キャンベル大佐の娘がディクソンというアイルランドに住む金持ちの青年と結婚したのだが、その前後からジェインは体調を崩して、ハイベリーへと戻ってきたのであった。伯母とともにハートフィールドを訪れたジェインに会ったエマは彼女の美しさや才能を認めざるを得ない一方で、彼女の慎重で口の堅い性格と態度が我慢できず、打ち解けることができない。(第20章)

 エマとジェインが出会った場に同席していたナイトリーは、2人が仲良くくつろいでいる様子に満足したというが、エマはそれが気に入らない。ナイトリーが彼女にニュースを告げようとしていたところに、ミス・ベイツがやってきて、エルトンが(イングランド西南部の有名な保養地である)バースで出会った女性と結婚することになったと知らせる。実は、ナイトリーも同じ情報を得ていたのである。エマはこのニュースを聞いてハリエットがさらに動揺しないかと心配するが、ハートフィールド屋敷にやってきたハリエットは、雨宿りをしていた店で、ロバート・マーティンに再会したと語る。(第21章)

Human nature is so well disposed towards those who are in interesting situations, that a young person,who either marries or dies, is sure of being kindly spoken of.
人間の野次馬根性は、噂の種になりそうな人物には大変好意的で、若い人が結婚したり死んだりすると、必ず好意的に話題にされる。(中野康司訳、上巻280ページ)
 第22章はこのようにことわざ風に書き出されている。ただし、オースティンの「好意的」という観察が正しいかどうかについては疑問がある。私の経験だと、in interesting situationsにあるわけではないのに、勝手な噂をたてられて迷惑したことが何度かある。

 ハイベリー村では、エルトンがミス・ホーキンズという女性と結婚することになるというニュースが伝わると、彼女が容姿も知性もすばらしいという評判が広まった。エルトンは得意満面で村に戻ってきた。エマに求婚を拒絶された失地を回復したというわけである。エマはそのような噂を聞いても、ミス・ホーキンズよりもハリエットの方が、優れた女性であるという信念を持ち続けている。だからこそ、ハリエットに負い目を感じ、心配する思いを抱くのである。ロバート・マーティンの妹のエリザベスがハリエットを訪ねて来て、置手紙を残しという話を聞いて、エマは、ハリエットに(エルトンについての想いを断ち切らせるためにも)その返礼をさせようと考える。(第22章)

 ハリエットをマーティンのもとに連れて行ったエマは、その帰り道にウェストン夫妻と出会い、ウェストンの息子のフランク・チャーチルが今度こそハイベリーにやってくると知らせる。翌日、予期していたよりも早くハイベリーに到着したフランクに出会ったエマは、初めのうちこそぎこちなく応対していたが、次第にフランクと打ち解けてくる。フランクは知り合いだというジェイン・フェアファックスを訪問すると言い出し、ウェストンがジェインはロンドンのキャンベル一家のもとでは淑女として暮らしているが、ハイベリーで食べていくのがやっとという貧しい祖母と伯母と一緒に暮らしているのだと言い、だからと言って礼儀を欠くようなことをしてはならないと忠告する。(第23章)

 フランクはハイベリーが気に入った様子で翌日もハートフィールド屋敷を訪問し、エマと義母であるウェストン夫人との3人でハイベリーの村を散策する。フランクはエマにジェインのことをいろいろと質問する。エマはジェインとは子どものころからの知り合いで、皆が2人は仲良しだと思っているが、自分としては彼女が好きになれないと本当のことをいう。そういう話を通じて、彼女はフランクとはずいぶん親しくなったように感じ、フランクが早く結婚したがっているのではないか、そのためにはチャーチル家の財産を相続しなくてもいいと思っているのではないかと推測をめぐらす〔エマは普通以上に想像力が豊かな女性であるが、この想像は的外れではないようである]。(第24章)

 フランクに高い評価を与えるようになったエマではあるが、彼がなんと散髪のためにロンドンに出かけるという話を聞いて、その評価を少し下げる〔実は散髪にことよせて、別の用事のために出かけているのかもしれないのだが、こういうときに限って、彼女の想像力は働かないのである]。ハイベリー村に住む成り上がりのコール夫妻がディナー・パーティーを企画していて、エマは自分よりも身分の低いコール夫妻が主催するパーティーには不参加の予定であったのだが、ウェストン夫妻の勧めもあって、出席することになる。(第25章)

 この小説では結婚により5組の夫婦が成立する(厳密にいうと1組は小説の完結後に挙式する予定である)。物語の発端でエマのガヴァネスだったアン・テイラーが結婚してウェストン夫人となり、間もなくエルトンがミス・ホーキンズという女性と結婚するはずである。残るは3組である。ハリエットはロバート・マーティンを憎からず思っているようであるが、エマからこの結婚は身分不釣り合いであると反対を受けている。そしてエマと、彼女が表向き仲良くはしているが、心の中では嫌っているジェインはどのような結婚に向かっていくのか? ウェストン夫妻が望むようにフランクはエマに関心を寄せているように見えるが、ジェインのことも気にかかる様子である。ナイトリーは、そのフランクを軽薄な男だと切り捨てる。温厚で思いやりの篤い彼がこういうのは、何かの気持ちが混ざってのことかもしれない。物語はエマの気持ちに沿って語られているが、彼女が事態を正しくとらえているとは限らない…ということから物語はさらに複雑になり、そして確実に面白くなっているのである。
 ジェイン・オースティンの『マンスフィールド・パーク』のヒロインがジェインと同じような境遇で育っていることを思い出された方もいるかもしれない。エマは、ジェインの伯母のミス・ベイツが無意味に思われる長話をするのが嫌で、その彼女に「甘やかされた」ジェインを好きになれないところがある(実際には、ジェインよりもエマの方が、甘やかされて育ったところがあり、ジェインはキャンベル家で優れた教育を受けて、エマを上回る才芸を身に着けている)。あるいは、エマのジェインに対する嫌悪感には自分よりも優れたものに対する嫉妬が含まれているのかもしれない。 
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