アリ・ブランドン『書店猫 ハムレットの休日』

3月15日(水)曇り

 3月14日、アリ・ブランドン『書店猫ハムレットの休日』(創元推理文庫)を読み終える。『書店猫ハムレットの跳躍』、『書店猫ハムレットのお散歩』に続くシリーズ第3作である。
 ダ―ラ・ペティストーンは大叔母の死後、彼女が経営していたニューヨークのブルックリンにある<ぺティストーンズ・ファイン・ブックス>という書店を譲られる。この書店には大学の教授だったジェイムズ・T・ジェイムズという店長のほかに、標準よりも少し大きな黒猫のハムレットがついていた。ダーラが店を引き継いでから、この1人と1匹にロバートという若い店員が加わって、店をやりくりしている。ハムレットは顧客に対しては気難しく、冗談半分に「猛猫注意」の張り紙を店に貼り出さるほどであるが、人間の言葉と考えていることがわかるかのように、これまでいくつかの事件で、ヒントになるような行動をしてきた。
 『書店猫ハムレットの跳躍』で起きた事件のために、元気をなくしていたハムレットであるが、『書店猫ハムレットのお散歩』ではダーラが出場した空手大会にいつの間にか紛れ込み、彼女の演武中にその動きをまねる動作をし、その映像がネットで拡散して一躍人気猫となった。

 今回はその人気のために、ハムレットは全米・キャット・ショーに特別ゲストとして招かれることになり、飼い主であるダーラ、その親友の私立探偵であるジャクリーン・”ジェイク”・マルテッリとともにショーが開かれるフロリダに赴くことになる。ちょうど、<ぺティストーンズ・ファイン・ブックス>は書店内にカフェ・スペースを設ける工事に取り掛かるところであり、旅行に出かければハムレットはその工事の音に神経をとがらせなくてもよくなる。さらにフロリダにはジェイクの母親であるナタリア・”ナッティ”・マルテッリが住んでいるというのも好都合である。とはいうものの寒いニューヨークから、温暖なフロリダへの道中、キャリー・ケースに押し込められたハムレットは不機嫌そのものであった。

 南フロリダのフォート・ローダーデールの空港に到着した2人と1匹は、迎えに来るはずのナッティを待つうちに、ヒスパニック(キューバ系らしい)のタクシー運転手ティノに出会う。彼のタクシーに車をぶつけかけた運転手がナッティであった。キャット・ショーの会場に隣接するホテルに到着すると、ほっとしたダーラがウトウトしたすきをついて、ハムレットは彼女がネコ用に指定したバスルームから脱走して、バルコニーの手すりの上を優雅に散歩する。前途多難である。

 ショーの参加者が多く泊まっているホテルのロビーでは来場者から注目されるのにまんざらでもない様子のハムレットにダーラはほっとしたのだが、ハムレットと一緒に食事をしていると、マーティニを飲んでいた年配の女性と、若い物乞いらしい女性との間にひと騒動が起きる。一方、母親と一緒にいたジェイクは、母親の住むマンションの管理組合でトラブルが起きているという。しかも管理組合の理事長であるビリー・ポープという人物はナッティの友人であるだけでなく、キャット・ショーの運営者でもあるという。住人の大半がビリーを疑う中で、ナッティーは彼が無実であると信じている。

 翌朝、ショーの会場であるコンベンション・センターに向かったダーラたちは猫の愛護を訴えるデモ隊に遭遇したりする。会場では猫の世話をするボランティアのミルドレッドに会う。特別ゲストのハムレットのためには小さな書店のような特別のスペースが設けられていた。この配慮に感心していると、近くで猫が逃げたという騒ぎが起きるが、すぐに逃げた猫は見つかる。ダーラはショーの運営委員会委員長で、ポープの娘だというアリシア・ティンプソンに紹介されたが、彼女こそ、レストランでのトラブルの当事者であったマーティ二・レディーであった。

 キャット・ショーでハムレットは自分の出番をきちんと終えるのか、ショーは成功するのか、デモ隊はショーにどんな攻撃を加えるのか、さらに、マンションの管理組合をめぐる疑惑は解明されるのか…、偶然に出会った運転手のティムの親戚があちこちにいたりして、ストーリーの展開には三題噺的なに強引なこじつけもみられるが、ショーの進行の中で次々に起きる”怪”事件にダーラとジェイクは次第次第に引き込まれ、例によってハムレットが手近な本の1冊を落としては、手掛かりになりそうな情報を示唆する。それよりも何よりも、ショーの描写の中で語られる猫の品種とその性質についての情報がなかなか面白い:
 「ロシアンブルーは数ある猫の品種の中でもかなり頭のいい猫なんですよ。ショーに出るのが嫌だったら、審査員の前で暴れれば早くケージに戻してもらえるとすぐに気がつく。ロシアンブルーのブリーダーに関して昔からよく言われることがあるんです。バカに育てなきゃならないってね。賢いのは、ショーに出すのがむずかしいですから」(135ページ)。昔、あるペットショップで売れ残っていたロシアン・ブルーを飼おうかどうかと家人と相談しているうちに、売れてしまったことを思い出す。

 もう一つ、この作品の魅力になっているのは、キューバ料理の描写である。例えば「付け合わせにブラックビーンズとライスがついたキューバン・サンドイッチ」は「ハムとローストポーク、スイスチーズ、ピクルス、マスタードをキューバン・ブレッドで挟み、押しつぶして焼いたこの伝統的なサンドイッチはパニーニを思い出させる」(276ページ)。作者であるアリ・ブランドンは現在、フロリダに住んでいるとのことで、フロリダはキューバからの移民が多いということもあるかもしれないが、そうした特色のプラスの面を大いに作品の魅力として生かしている。
 人生も残り少なくなってきて、フロリダに出かける機会はまずないだろうが、この本を読んでいると、合衆国の他のどこよりも、フロリダに出かけたくなるような気持ちにさせられる。この作品の世界を体験するだけでなく、1930年代にヘミングウェイが住んでいたキー・ウェストの小さな島にある家と、彼が飼っていた猫の子孫を訪問してみたいとも思うのである。
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No title

そうですよね。。
フロリダと聞いたら、やっぱり、ヘミングウェイですね。
行ったことないですが。。。

まぁ、もうアメリカには行くことはないと思います、わたし的に。。

ここで、出てきたパニーニは、私は、初めて行ったパリで
食べて、めっちゃおいしかったのを覚えています。
パリで、イタリアンも変ですが。。。

私は、老親を抱えているので
あの人らが生きている限り、海外にいけないですが、
そのうち、行けたらと思っています。

今日も、楽しい日を^^
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