ジェイン・オースティン『エマ』(3)

3月6日(月)雨

 これまでの展開
 19世紀の初めごろ。イングランド南部サリー州のハイベリー村のハートフィールドに住む地主の娘エマ・ウッドハウスは、母が早く死に、姉が嫁いだので、まだ若いのにこの屋敷の女主人として病弱な父親の面倒を見ていたが、村の人々の尊敬を集める女王的な存在である。16年間彼女とともに暮らしてきた家庭教師(ガヴァネス)のミス・テイラーが同じ村の有力者の一人であるウェストンと結婚したので、精神的な孤独感を感じ始めた。ミス・テイラーとウェストンの結婚の橋渡しをしたのは自分だと思っているエマは、村の牧師で独身のエルトンの結婚相手を見つけようと考えはじめる。隣村の大地主であるナイトリーは、エマの姉の夫の兄であるが、エマの欠点を面と向かって指摘できる唯一の人物であったが、余計な世話を焼く必要はないと彼女をたしなめる。(第1章)
 ウェストンには先妻との間にフランクという息子がいて、先妻の兄であるチャーチルのもとに引き取られている。好青年だという噂であるが、ハイベリー村には顔を見せていない。(第2章)
 ウッドハウス家と付き合いのある人々の中に、寄宿学校の校長であるゴダード夫人がいて、彼女が自分の学校の特別寄宿生であるハリエットをハートフィールドに連れてくる。ハリエットが気に入ったエマは、彼女を自分の影響力で完璧なレディーに仕立てようと思う。(第3章)
 ハリエットは最近、学校の同窓生の家に招待されて暮らしていたが、その家の主人であるロバート・マーティンという青年が彼女に思いを寄せている様子である。エマはロバートのような下層の人間ではなく、紳士階層に属する人間とつきあうようにハリエットに言い聞かせる。(第4章)〔前回も書いたが、ロバートは決して、下層の人間ではなくて、エマの属する地主階層よりも一段低いだけの、ヨーマン=自営農民であり、ハリエットの相手として不釣り合いなわけではない。〕
 エマとハリエットがつきあっているという話を聞いたナイトリーは、この交流が2人のどちらにも役立たないと警戒するが、ウェストン夫人(ミス・テイラー)は彼の考えていることが理解できない。ナイトリーはエマが父親に甘やかされて、様々な欠点を克服できずにいることを指摘する一方で、彼女のことが気になって仕方がない様子である。(第5章)

Emma could not feel a doubt of having given Harriet's fancy a proper direction and raised the gratitude of her young vanity to a very good purpose, for she found her decidedly more sensible than before of Mr Elton's being a remarkably handsome man, with most agreeable manners....(Penguin English Library, p.40)
 「エマはハリエットの想像に適切な方向を与え、彼女の若い虚栄心に感謝の気持ちを呼ぶことにかなり成功した。というのも、まえにくらべてミスター・エルトンがとてもハンサムな青年で、身だしなみもたいそういいことにはっきり気づいたのが分かったからである。」(工藤政司訳、岩波文庫版、62ページ)
 「エマはハリエットの想像力を適切な方向、つまりエルトン氏の方へ向け、若い女性の虚栄心と感謝の念をかきたてることに成功したと確信した。エマが見たところ、ハリエットは明らかにエルトン氏を、美男子で感じのいい青年だと思いはじめているからだ。」<(中野康司訳、ちくま文庫版、65ページ)
 ハリエットが自営農民のロバートではなく、牧師のエルトンに興味を持ち始めたと確信したエマは、エルトンのほうでもハリエットに興味があるようだと彼女に仄めかした。エマは2人の間に恋心が順調に芽生えてきていると信じて、疑わなかった。
 ある日、エマがハリエットの肖像画を描きたいと言い出すと、エルトンは直ぐに賛成した。モデルになることを躊躇するハリエットを説き伏せて、エマは彼女の肖像画を完成させる(第5章でナイトリーが指摘しているように彼女は、勤勉と忍耐を必要とすることが苦手で、絵には才能があるけれどもこれまで1点も作品を完成することができなかった)。絵を入れる額をロンドンまで出かけて買ってくることを、エルトンが引き受ける。〔エルトンはハリエットに興味があるのではなくて、エマの画才を評価しているから協力的であるとも受け取ることができる。なお、この時代、絵をかくことは、音楽や刺繍と並んで、女子の有力な才芸の一つであった。〕(第6章)

 エルトンがロンドンに出かける日、ハリエットがロバートからの結婚申し込みの手紙を受け取ってエマのもとにやってくる。悩んでいる様子のハリエットに対して、エマは軽率に承諾すべきではないと言い聞かせ、断りの手紙を書かせる。エマはエルトンがハリエットの肖像画を家族に披露していると想像していた。(第7章)

 ハートフィールド邸を訪問したナイトリーは、ロバートがハリエットに結婚の申し込みをしたことを知らせ、エマはその申し出をハリエットが断ったことを告げる。口論の挙句、ナイトリーはエマがハリエットをエルトンと結婚させようとしても、それは無駄な努力になるだろうと言って去っていく。」(第8章)

 エルトンがハリエットの肖像画を額に収めて、ロンドンから戻ってきた。エマの居間に飾られたその絵を見て、エルトンは何度も賞賛し、ハリエットはエルトンへの恋心を募らせた。
 エマは読書を通じてハリエットの知性を向上させようとしていたが(ここでも彼女に勤勉と忍耐とが欠けているというナイトリーの指摘通り)、おしゃべりに時間をとられてしまい、進捗はしなかった。エマとハリエットにエマの父親のウッドハウス氏も加わってなぞなぞ集の作成が取り組まれたが、ある日、エルトンが彼の友人が恋人に送ったというシャレード(謎かけの詩)をもってやってくる。解読に取り組んだエマは、これが彼のハリエットへの求愛の詩だと解釈する。〔物語のこれまでの展開から、謎詩の中のready wit(機敏な知性)はハリエットよりも、エマにふさわしいものではないかと思う方が自然である。〕(第9章)

 ハリエットを同行して慈善訪問に出かけたエマは、ハリエットからなぜ結婚しないのかと質問を受ける。村には、昔の教区牧師の娘で独身のミス・ベイツという女性がいるが、エマは彼女を軽蔑している。彼女は貧乏であるが、自分は裕福なので、結婚しなくても世間的な体面を保てるとエマは考えている。ミス・ベイツにジェイン・フェアファックスという姪がいることがここで明らかになる(物語の重要人物の1人である)。道を歩いていると、エルトンに出会ったので、エマは芝居をしてエルトンとハリエットを2人きりで話させようとする。そして、初めて牧師館に招き入れられるが、エルトンとハリエットの間の恋が深まったという兆候をつかみことはできなかった。(第10章)

 エマの姉であるイザベラ、ジョン・ナイトリー夫人が夫や子どもたちとともにハートフィールド邸を訪問する。一家の話し合いの中で、フランク・チャーチルのことが話題になる。(第11章)

 ハートフィールド邸での晩餐にはジョンの兄のナイトリーも同席し、ロバートとハリエットの結婚問題をめぐって対立していたエマとナイトリーは和解の機会を得る。ウッドハウス氏を中心とした健康談議が、口論になりそうになった時に、イザベラがジェイン・フェアファックスの噂を始める。〔イザベラはエマにくらべると鈍重な女性として描かれているが、ジェインがエマにとって格好の話し相手となるはずだという彼女の洞察は正しいことが物語の進行を通じてわかってくる。〕(第12章)

 今のところ、エマが仕掛けているエルトンとハリエットの「恋」の行方が物語の関心事であるが、第8章でナイトリーがエマと口論した際に、エルトンは野心家で貧乏な娘と結婚するつもりはなさそうだといっていたのが気になるところである。気が付いた限りで注記しておいたが、55章からなるこの小説の12章まで来て、まだ噂だけで登場しない人物や、この後で突如として登場してくる人物がいる。そういう人物を加えて、物語は複数のロマンスが錯綜する展開を見せる。とはいえ、会話の部分が多く、その中で登場人物の性格が描き分けられているが、全体としてはのんびりした展開である。
 オースティンの他の小説のヒロインたちとは違って、エマは結婚するつもりはないという。一つには、病身の父親の面倒を見なければならない(この父親の相手をするのは大変だと思うような人物に描かれている)ことがあるが、取り組む仕事はいくらでもあるという(しかし、何をやっても中途半端に終わるのは、ナイトリーが指摘するとおりである)。確かに、エマ自身がどういう恋愛をして、どのような運命をたどっていくのかが読者にとって最大の関心事になるはずである。

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