ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(13-2)

2月23日(木)午前中は雨、午後になって雨は上がり、日が差し始めた

 ベアトリーチェに導かれて天上の世界へと旅立ったダンテは、月天(誓願を果たさなかった人々)、水星天(地上での栄光を追い求めた人々)、金星天(人と人とを結びつける愛)を経て、太陽天に到着し、神学者・哲学者たちの魂に迎えられる。ドメニコ会士であったトマス・アクィナスがアッシジの聖フランシスコ、フランシスコ会の総長であったボナヴェントゥーラが聖ドメニコの生涯を語り、ドメニコ会とフランシスコ会が創設されたのが神慮であり、この2つの修道会は教会を支える存在であることを解き、にもかかわらず現状は堕落していることを嘆く。
 神学者・哲学者の光の輪の中にいるソロモン王について、アクィナスは彼に匹敵する洞察力を持つ人間はいないと語ったが、ダンテは神によって土から創造されたアダムと処女懐胎をしたマリアから生まれたキリストこそが最も賢い人物であったのではないかという疑問を抱く。

 トマスはダンテの考えを一応肯定する。
かつて土はそのように
あらゆる生き物の中で完成にふさわしく整えられ、
聖処女はそのように懐妊される運びとなった。
(202ページ) トマスは、この個所の直前で聖霊が、最適な状態を選んで父から発する「烈々たる光」子(イデア)を質料に型押しすると「非の打ちどころのない完成」が得られると述べている。それに当てはまるのがアダムとキリストの場合であるというのである。

それゆえ私は君の意見が正しいと賞賛しよう。
すなわち人類は過去にも未来にも決して、
それら二人の人物がそうであったようには存在しえない。
(同上) では、なぜ、ソロモンについて、彼に匹敵する人物はいないとトマスは言ったのか。

しかし、今は見えていないものをはっきりとさせるためには、
それがどのような人物であったか、そして求めるよう『願うがよい』
と命じられた時、彼を動かした理由を考えなさい。
(同上) トマスはダンテの関心を旧約『列王記』3-5以下の記述に向けさせる。王位に就いたソロモンはギブオンというところで神に捧げものをすると、その夜の夢に神が現われて「何事でも願うがよい。あなたに与えよう」(列王記3-5)という。するとソロモンは「あなたの民を正しく裁き、善と悪を判断することができるように、この僕(しもべ)に聞き分ける心をお与えください」(『列王記』3-9)と答える。神はこの答えを喜んで「知恵に満ちた賢明な心」(5-11)を与え、「あなたの先にも後にもあなたに並ぶ者はいない」(同上)と付け加える。そしてさらに、富と栄光も与え「生涯にわたってあなたと肩を並べうる王は一人もいない」(5-12)といい、もし、彼が父ダビデのように神の掟と戒めを守り、正しい道を歩むならば、長寿も与えるだろうという。

私の話し方は、彼が王であり、
賢王になるために知恵を求めたことが
君にわからぬようなものではなかった。
(202-203ページ) それゆえソロモン王の知恵とは神学的な知や、論理学的な知や、自然学的な知や、数学的な知ではなく、「王者(として)の思慮深さ)」(204ページ)である。この区別立てをすれば、ダンテの考えていることと、トマスの言ったことが両立する、精神世界を指導すべきキリストの知、つまり教会が指導すべき分野とソロモンが神から授かった政治的指導者たる徳を持つべき王、つまり皇帝の知が指導すべき世俗・政治の分野とは両立するのだという。原さんの解説によると、ダンテは別の著作『帝政論』で、「帝国の権威は教会に拠らず、神に直接拠る」(566ページ)と主張しているそうである。

 そしてそのような区別を知らない、つまり方法を知らずして神の真理に近づこうとする人々の企てを非難する。
方法を知らぬのに真理を釣ろうとするものは、
無駄となる以上に、岸から離れてしまう、
出発した時のままで戻ってくる事は無いからだ。
(205ページ) さらには次のような表現も用いられている
・・・見たことがあるからだ、
船が全航路にわたってまっすぐ快調に進み、
終点の入口で沈むのを。
(206-7ページ) 

 ダンテはこの第13歌で、政治的知は神学に基礎を持つ必要はないとした。別の言い方をすると、政治学と神学はそれぞれ独立した学問分野であると主張しているようである。ダンテは神のことばかり考えているような人であったと理解されやすいし、確かにそういう面もあるが、その一方で、世俗的な問題に関心を寄せ、それらの問題は神学とは別の学問によって取り組まれるべきであると考えていたのである。『神曲』は人間の死後の世界を描く叙事詩のように見えて、実は現実の社会の改革を目指す呼びかけという側面も持っていることがわかる。
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