松尾由美『ニャン氏の事件簿』

2月21日(火)晴れ

 2月20日、松尾由美『ニャン氏の事件簿』(創元推理文庫)を読み終える。名探偵ニャン氏が活躍する短編連作集。すぐにわかるように、ニャン氏は猫である。

 大学を休学してアルバイト派遣会社から言いつかる様々な仕事を掛け持ちして糊口をしのいでいる佐多俊英君は、ある暑い夏の日、家電配送会社の仕事に出かける。その会社の社員の岡崎とのコンビで、あるお屋敷でシャンデリアを取り付け、その家に住む老婦人から不思議な話を聞く。この家には彼女の叔父が住んでいたのだが、不思議な死に方をしたのだという。そこへ、自動車が故障して、炎天下で修理の終わるまで待つわけにもいかないから、涼ませてほしいという来客がある。考えようによっては(というより、考えなくても)厚かましいお願いをしてきたこの客は、猫であった。

 彼=実業家のアロイシャス・ニャン氏は、もともとさる資産家の飼い猫であったが、その人の死後、遺言で財産を継承したのだという。ニャン氏の運転手兼秘書(兼通訳)である丸山の紹介によると「それまでのんびりと晴耕雨読、いや、晴れた日には日向ぼっこ、雨が降れば鼠のおもちゃを追いかけるといった、気ままな暮らしをなさっていましたが、責任ある身となってからはめきめきと才覚を発揮し、貿易・金融・缶詰製造などいくつかの事業において、投資ばかりでなく経営に参画。若年ながら経済界にしっかりと爪痕を残し、さらに余暇には『ミーミ・ニャン吉』のペンネームで童話を執筆するなど、多方面で活躍なさっている方です」(25ページ)。

 この屋敷の元主人の怪死事件をめぐり、居合わせた人々が様々な推理をめぐらす中、ニャン氏はさらにその上を行く頭脳の働きを見せて、真相を解明する…。というのが第一話である「ニャン氏登場」で、その後、佐多君が岡崎さんと組んで出かけた猫目院家で起きた事件(「猫目の猫目院家」)、友人のピンチ・ヒッターで引き受けた高原のホテルでのアルバイトで、宿泊客から聞いた不思議な昔話(「山荘の魔術師」)、再び岡崎とのコンビで出かけたCMの撮影現場で出会った掛け軸の盗難事件(「ネコと和解せよ」)、佐多君の元彼女の現婚約者が巻き込まれている指導教授の絵葉書紛失事件(「海からの贈り物」)など、なぜか、突然現れたニャン氏がニャーニャー言うのを、丸山が通訳して解決していく。

 実は、佐多君には、大企業の創業者=会長の祖父がいるが、両者の関係は必ずしも良好ではないという事情があって、それが彼の休学=アルバイト生活の原因にもなっている。一方、丸山からは自分はもう年齢的に引退したいので、佐多君に跡を継いでほしいという申し出をされている。ニャン氏はどうも佐多君が気に入っているようなのである。最終話「真鱈の日」はその祖父の周辺で起きた事件について話を聞いていると、ニャン氏が現われる・・・。

 「真鱈の日」には、読み始めからコナン・ドイルの「まだらの紐」の話が出てくるのだが、「まだら」ということだともう一つ思い出してもいいかもしれないことがある。この連作集での佐多君とニャン氏のいつも不思議な出会い方から連想されるのは、クリスティのクイン氏ものにおけるサタースウェイトとクイン氏の出会いである。クインという主人公の名前がHarlequin(ハーレクイン、フランス語Arlequin アルルカン、イタリア語のArlecchino アルレッキーノ)の後半部分からとったとられていることはご承知かもしれないが、イタリアの即興喜劇に登場する道化役の下男であるアルレッキーノは菱形の多色のまだらの入った衣装と黒い仮面をつけているのがお決まりである。

 ニャン氏にクイン氏を重ねるのは、私の独りよがりの深読みかもしれないが、クリスティのクイン氏に探偵としての相貌のほかに道化役の面影が残っているのと同様、ニャン氏も名探偵である一方で、「かわいいような、図々しいような、何も考えていないような、賢いような、まあどこにでもいる普通の猫」(188ページ)という面も持ち合わせていて、そこがこの作品の魅力にもなっている。「ミーミ・ニャン吉」というペンネームなどに著者の遊び心が覗かれて読んでいて楽しい。「真鱈の日」でこの連作は完結という形をとっているようであるが、何かの形で続編の執筆を期待したい気持ちが残る。
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