アキ・ロバーツ 竹内洋『アメリカの大学の裏側 「世界最高水準」は危機にあるのか?』

2月1日(水)晴れ

 1月31日、アキ・ロバーツ 竹内洋『アメリカの大学の裏側 「世界最高水準」は危機にあるのか?』(朝日新書)を読み終える。

 各種の大学ランキングの上位にその多くが顔を出し、日本の大学の「お手本」の役割を果たしているアメリカの大学をめぐり、現在、様々な異変が起きている。その異変は日本の大学が現在直面している、あるいは近い将来に直面するであろう性格のものである。日本生まれでアメリカの大学で犯罪学の研究と教育に当たっているアキ・ロバーツがアメリカの大学教育の問題点を自分の経験をもとにまとめ、それをもとに彼女の父親で教育社会学者の竹内洋が日本の高等教育の問題を考えてできたのがこの書物である。

 第1章「ランキングから見るアメリカの大学」では、アメリカの大学が教育専門誌や大学評価機関による世界の大学ランキングの中で上位を占めている現状と、大学がどのように格付け・分類されているかが語られている。大学ランキングをあげることに成功した例を通じて、評価が具体的にどのようなものかが示され、次に大学の教授たちが好むカーネギー分類がどのようなものか:
博士号授与大学(最高度の研究を行うとされる通称R1、高度の研究活動を行うとされるR2、普通レベルの研究活動を行うR3にさらに格付けされる)
修士号授与大学
学士号授与大学
学士号・準学士号授与大学(多くがコミュニティ・カレッジ)
準学士号授与大学(コミュニティあるいはジュニア・カレッジ)
 コミュニティ・カレッジから4年制の大学への編入はアメリカの高等教育の長所として理解され、紹介されることが多い(私も日本でこれに倣った制度を展開すべきだと論じたことがある)が、安易に転校する学生が多かったり、実際に4年の課程を修了するものは少なかったりするなど、現実には問題点が多いことが指摘されている。

 第2章「テニュア制(終身雇用制)のメリット・デメリット」ではアメリカの大学の先生の職階と、テニュアという制度、それがどのようにして獲得されるかが概観されている。また、非常勤講師が増えてテニュアを持つ大学の先生が少なくなっている現状も紹介されている(これが「異変」の一つである)。大学の教授にはテニュアがあるということが、世間的にいい印象を持たれていないこともあって、この制度が変化を余儀なくされているのではないかという見通しが語られている。

 第3章「庶民には手の届かないアメリカの大学」では、アメリカの大学の授業料の高さが論じられている。著者はかなり詳しく数字を紹介しているが、日本の私立の4年制大学の平均年間授業料は86万円であるのに対し、アメリカでは3万2千ドル(約320万円)、アイビー・リーグに数えられる大学の平均は約5万ドル(約500万円)であるという。しかも、授業料は高騰の傾向を見せている。なぜ高くなってきているかというと、大学の管理や専門業務に携わる職員(教員ではない!!)の増加によるところが大きいという。大学スポーツによる収入も大きいが、その一方で支出もかかること、奨学金制度が十分に機能していないこと、学生ローンをめぐる現状など愉快でない話が続く。

 第4章「アメリカの大学の受験の勝者は誰?」では、一般にアメリカの大学への入学は容易であるが(第3章で述べられているように、授業料が工面できればという話である)、一部の有力校への入学はかなり困難であり、しかも統一入学試験で高得点を取れば入学できるというものではないことが述べられている。親や親せきがその大学の卒業生である場合には「レガシー」(llegacy)と言って入学に有利になる。その一方で学力以外の要素(スポーツの実績など)も考慮するホリスティック入試の試みもあるが、貧困層やアジア系の受験生にはこの制度の恩恵はあまり届いていないという指摘もあるという。

 第5章「大学の価値って何?」では、アメリカの大学では成績のインフレが顕著な傾向となっており、これは1980年代以降に生まれた「ミレニアルズ」と呼ばれる批判されたり、怒られたりすることに慣れていない世代が学生の主流になったことでいよいよ進展した。質的な低下が懸念される一方で、大学教育にはまだまだ受けるに値する価値はあると著者は考える。大卒者はそうでない人々よりも概して高収入であり、犯罪率は低く、長生きをする可能性が高い。ますます複雑化し、異文化の遭遇が増え、転職の可能性が増す社会の中で、「本当の教養」を身に着けた、どのような事態にでも対応できる人材の必要性は増していると著者は論じている。

 第6章「アメリカを「鏡」に日本の大学を考える」は、ロバーツさんが1~5章で論じたアメリカの状況を竹内さんが日本に引き付けてその意義を考える内容であるが、「AO入試」に対する懐疑的な見解、人文社会系の危機をめぐる見通しが興味深い。

 下手な要約でどこまで伝えられたかは疑問であるが、興味深い(それなりに挑発的な)書物であった。ここでは省略してしまった部分に、かなり面白い記事があるので、ぜひこの本を買って(あるいは図書館で借りて)読んでみてください。ただ、表題が『アメリカの大学の裏側』であるのがどうも引っかかる。大学関係者による内情の観察と分析なのだから、「内幕」くらいの方がよかったのではないか。さらに言えば、この書物を読んで、対抗する意味で、正面から堂々と『アメリカの大学』の長所と問題点をまとめてくれる研究者が現われてくれれば、大いに歓迎したいと思う。 
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR