ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(10-2)

1月12日(木)晴れ

 ベアトリーチェに導かれて地上から展開へと旅立ったダンテは、月天で<誓願を果たさなかった人々>、続く水星天で<地上での栄光を追い求めた人々>、金星天で<人と人とを結びつける愛>を神への愛よりも重んじることがあった人々の魂に迎えられた。彼らの中にはダンテの旧知や、歴史的に有名な人物が含まれ、彼らを通じて、彼は地上に平和をもたらし、正義を実現する使命をローマ帝国が与えられてきたことを知る。さらに太陽天に達した彼は、光り輝く輪と甘い歌声とに囲まれる。

天空の宮廷、私がそこから戻ってきたあの場所には、
貴重で美しい数多の宝石がある、
その王国から抜き出したかのごとくに描くことはかなわぬほどの。

そしてあの光輝達の歌もその宝石の類だった。
その高みまで飛翔する翼が生えぬようなものは、
話せぬものに天上の知らせを求めるがごとし。

それらの燃え上がる太陽たちは、それほどに美しく歌いながら
両極点の近くにある星々のように
私達の周囲を三度回った後、

まるで、踊りの輪を解かずに、
耳を澄まして新たな調べが聞こえるまで
黙って立ち止まっている貴婦人達のように見えた。
(156-157ページ) ダンテは、彼が太陽天で見た光景は筆舌を絶したものであった、「その高みまで飛翔する翼が生えぬ」=天国に行けないような輩にはわかるわけがないという。

 そのような輝きが誰の魂であるのかダンテが知りたいと思っていることを察してか、光の1つが話しはじめる。
「・・・
君が知りたく思うのは、天空に昇るにふさわしい力を君に与える
その美しい貴婦人を取り囲み、恋い焦がれて見とれるこの花冠が
如何なる植物の花で飾られているかである。
・・・
(158ページ) その魂は自分の右にいるのがケルンの神学者アルベルトゥス・マグヌス(1206-80)、自分自身はトマス・アクィナス(1225-74)であるという。彼らはイスラーム経由でアリストテレスの学説を学び、キリスト教神学を体系化した人々である。さらにトマスの魂は、教会法の基礎をまとめて教会と市民生活の両方に貢献したグラティアヌス、大学で教科書として使われた『命題集』の著者であるペトルス・ロンバルドゥス、さらにはこれらの魂の中で最も美しく輝いているのが古代イスラエルの王ソロモンのたましいであるという。彼は旧約聖書の中の「箴言」「コヘレトの言葉」「雅歌」「知恵の書」の作者とされてきたが、「列王記」に登場する預言者アヒヤの言葉によれば、イスラエルの神を捨て、異教の神を拝み、神の道を歩まず、神の目にかなう正しいことを行わず、父であるダビデのようには、掟と法を守らなかったという否定的な側面も持っている。このため中世には彼が天国にいるか、地獄にいるかという議論があったと翻訳者の原さんは傍注に記している。ダンテがソロモンを天国において、「真実の書」である『聖書』の中の彼の言葉は真実のものであると述べているのは、この文脈において注目すべき見解である。

 次に彼は新約聖書の「使徒言行録」でパウロがアテネで布教した際に信者になったと伝えられるディオニュシオス(ダンテは、彼が『天使位階論』の著者だと信じていたのだが、実はこの書物はもっと後の時代になって書かれたものだとされている)、アウグスティヌスの命令でキリスト教時代を称揚する立場から「異教徒に対売る歴史」を書いたパウルス・オロシウス、『哲学の慰め』の著者であるボエティウス(480頃‐524)の魂を見る。ダンテはしばしば「中世最後の人」と呼ばれるが、ボエティウスは「古代最後の人」と呼ばれている。
 さらにセヴィリアのイシドルス、『自然物について』の著者であるベーダ、神秘神学者のリカルドゥスの魂が炎を噴き上げている姿、トマス・アクィナスと論争した神学者のブラバンのシゲルス(1226頃‐83)の魂が見える。彼は正統派神学者たちから異端とされていたのだが、ダンテは彼を天国に置いている。
 トマスの言葉が終わると、あたかも時計が時を刻むように、
・・・ 神の花嫁が起きだし、
花婿に朝の歌を届けて愛を求める刻限になると 
私達を呼ぶ時計、

その中ではある歯車が引き、別の歯車は押し、
清々しい響きでティン、ティンと音を奏でると、
善き心根で待っていた霊は愛に満たされるのだが、

栄光に満ちた輪がそれと同じように動き出し、
喜びが永遠となる場所の外では
知ることのできない調和がもたらす甘美な音で、

歌声が歌声に応えるのを私は見た。
(164-164ページ) 翻訳者の原さんは「花嫁=教会」、「花婿=キリスト」として、傍注でこの個所を詳しく解説している。ここでは当時時計が発明されたばかりであったことに注目しておこう。
 ここで第10歌は終わるが、ダンテはこの後さらに太陽天で彼を迎えたトマスの霊と対話を続ける。第9歌でダンテの政治論は一応終わったのだが、これからは神学論が本格的に展開されることになる。
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