ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(10-1)

1月5日(木)晴れ、風が冷たい

 地球の南半球にある煉獄山の頂上の地上楽園から、ベアトリーチェに導かれて天空の世界に旅立ったダンテは月天で<誓願を果たさなかった人々>、水星天で<地上での栄光を追い求めた人々>、金星天で<人と人とを結びつける愛>に生きた人々の魂に迎えられる。これらの魂は至高天で神とともにいるのだが、そこでの神との距離をダンテに示すために、至高天から離れた世界へとやってきているのであるという。ダンテはここまでの遍歴を通じて、全き愛に発するキリスト受難により人類は原罪を赦されたこと、そのことが全人類を統治するように神に定められたローマ帝国の正統性と結びついていること、あらにその帝国を成立させている原理が友愛であることを学んできた。

 そしてダンテは太陽天に達する。
第一の、言葉で言い表すことのできない御力は、
自らと子が永遠の息吹によって在らしめる愛を通じて、
子を深く見つめることにより、

知性のうちに、そして空間のうちに回転する全事物を
あれほどの秩序のもとに創造された。ゆえに、
それを見るものにその御力を味わわせないではいられない。
(150ページ) キリスト教の神には父・子・精霊という3つの位格があり、父である「第一の…御力」は、その「御力」と子である知の両者から流出する精霊、すなわち「愛」を通じて、知により全宇宙の創造を行ったとダンテは述べる。その宇宙は内部で、「知性」を体現する天使たちが天空を回転させている、きわめて秩序だったものである。言い換えれば、知的に創造されていることが強調されている。(すでに述べてきたように、ダンテはプトレマイオスの天動説に従って、彼の宇宙を描き出している。この考えによると、各天体は猛烈なスピードで地球の周りを回るだけでなく、その回転軌道上でさらに回転軌道を描きながら運行している⇒これを周転円の説という。確かに「知的」であるかもしれないが、もっと簡単に説明のつく天体理論を見つけようとしていないのである。)

それゆえ読者よ、私とともに
視線を至高の天輪へと、その中でも
一つの運行と別の運行がぶつかるあの場所へとまっすぐに向けたまえ。

あの匠の創造の御業を観想する喜びはそこからはじまるのだ。
あの方は、ご自身のうちにあるそれを愛され
決して目を逸らされぬほどゆえに。
(150-151ページ) 東西に動く太陽の軌道である日周円、つまり天の赤道と、1年で天球上の位置を西から東へと動く黄道の交差点である春分点が「あの場所」と呼ばれている。春分は復活祭と結びつき、ダンテはまさにこの祭典のさなかに天界を旅しているのである。それだけでなく、春は地上に生命がよみがえってくる季節でもある。

 ダンテは地上世界が星の影響を必要とし、その星の影響を通じて、季節の移り変わりや世界の多様性がもたらせるとうたっている。地上世界にも神の完全性の痕跡を見出すことができるという。こうして、これまで調和の音楽として表現されてきた宇宙の完全性は、神の創造に由来することが明らかにされた。そして、これからさらに重要なことを語るために詩は難解になっていくが、必死になってついてきてほしいと読者に向かって呼びかける。

天空の力により地上世界に型押しし、
その光により私たちのために時を計る、
自然界を統べる宰相は、

前述のあの場所へと
いたり、毎朝少しずつ早く姿を現しながら
螺旋軌道上を回っていた。
(152-153ページ) 「自然界を統べる宰相」は太陽のことを言う。「あの場所」は春分点である。これらの詩句からダンテたちが太陽天に入ったことが分かる。

 ベアトリーチェはダンテに、ここまで彼を引き上げてくれた神に感謝するように命じ、その言葉に従ってダンテは神に感謝する。
すると私の愛のすべてはその方に向かい、
ベアトリーチェは忘却の中で欠けて薄れていった。
(155ページ) ベアトリーチェの存在を忘れるほどに、ダンテは神と一体化したのである。
それを彼女は不快と思わず、むしろそのことに微笑み、
彼女の微笑む目の輝きは、
その方と合一していたわが知性を複数の対象へと向けた。
(156ページ)

私は見た、圧倒するかのような烈々たる幾つもの光輝が
私たちを中心に置き、王冠を作って取り囲むのを。
声は目に映る輝きよりもさらに甘美だった。
(同上) 太陽天までダンテを迎えにやってきたのはどのような魂たちであったのだろうか?

 ここまで来て、叙事詩はいよいよ神学的な性格を強めてくるが、当方としては韻文の美しさと、ダンテの中世的な宇宙観に主な関心を向けながら読み進んでいくつもりである。
 
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