ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(9-2)

12月27日(火)雨が降ったりやんだり

 1300年4月13日の正午に地球の南半球にある煉獄山の頂上の地上楽園から、ベアトリーチェに導かれて飛翔したダンテは、月天に達して、<誓願を果たさなかった人々>の霊に出会う。彼らは他の霊とともに至高天にいるのだが、そこでの神からの距離を示すためにここまでやってきたのである。水星天に進んだダンテは<地上での栄光を追い求めた人々⇒その分、神への思いが減った>人々の霊とに迎えられる。東ローマ帝国の皇帝であったユスティニアヌスの霊は、ダンテにローマの皇帝権が地上に正義を実現するための神与のものであることを語る。
 さらに金星天にやってきたダンテは<人と人とを結びつける愛に生きた人々⇒愛に溺れて神を忘れることがあった>の霊たちと出会う。ダンテの旧知でハンガリー王であったシャルル・マルテル・ダンジューの霊は国王たちは皇帝と教皇の権威を認め、お互いに親しく付き合うべきだと主張する。さらに生前、兄の政治的・軍事的野望の犠牲になって政略結婚を繰り返しながら、自分自身の愛を重視したクニッツァ・ダ・ロマーノに出会う。

 クニッツァが口をつぐむと、彼女の隣にいた、彼女が「この光にあふれた貴重な宝石」(139ページ)と呼んだ霊が近づいてきた。
もう一方の喜び、貴重な存在と
すでに私は知っていたが、それは太陽が輝かせる
透き通ったバラスカム産のルビーのように私の視界に入ってきた。

天空では喜びゆえに輝きが手に入る、
あたかもここ地上では微笑が手に入るように。しかし知的では
影の見かけは闇に染まる、その知性が悲しみに暮れるままに。
(142ページ) そして、その霊が13世紀前半のトロヴァドール(吟遊詩人)であったフォルケ・ド・マルセイユのものであることに気づいたダンテは、
「神はすべてをご覧になっている。…
・・・その方へあなたの視線は没入しているがゆえ、
あなたから盗み隠せる願などない。

あなたの声は六枚の翼を修道服にしている
あれらの敬虔なともしびの歌と唱和して
天空を常に喜ばせているにもかかわらず、

なぜ私の望みを満たしてくれないのか。
あなたが私の中に入っているように私があなたの中に入れたならば、
私はもうあなたの問いを待ってはいないだろう」。
(142-143ページ) パラスカムというのはルビーの産地として知られたペルシャの一地方だそうである。フォルケ・ド・マルセイユは13世紀前半の人、ジェノヴァ商人の息子で、マルセイユのバラ―ル・ド・ボーらに仕え、その妻アザレに詩を捧げた。アザレや主君らが世を去るとシトー派の修道会に入り、トゥールーズ司教となってアルビジョワ十字軍にも大きな役割を果たしたという。

 すると、フォルケ・ド・マルセイユの霊は
「大地を花輪のように囲む
・・・
大海からあふれた水の広がる最大の谷は、

対立する両岸に挟まれ、太陽の運行に逆らって、広がっている、
南中するまさにその場所には
先に水平線が通っているほどまでに。

我はその谷に注ぐエブル川とマクラ川に挟まれた
岸辺の出身だった。短い流れで
ジェノヴァ人とトスカーナ人を分けている川のことだ。
・・・」(144ページ)と、美しい言葉で自分の故郷について語り始める。「大海」は大西洋、「最大の谷」は地中海を指しているという。天空を旅する中でダンテが抱いた疑問は残らず解答を与えられるべきであるとして、霊たちがその周りをまわっている
透明な水に射し込む太陽の光線のように、
我がそばのここで輝く
この光の中にいるのが誰か君は知りたがっている。
(146ページ) 金星天で最も明るく光っている魂は、旧約聖書「ヨシュア記」に登場するエリコの娼婦で、イスラエルを率いるヨシュアがこの町に派遣した斥候をかくまって助け、その陥落に手をかしたラハブの魂である。つまり世俗的な世界に生きていたのが、神意にかなった行動をとったので、神を愛する女に変容したのである。

 世俗的な事柄への愛着を捨てて、神への愛と正義の実現に努めるべきであるが、現在の教皇庁は世俗の出来事にうつつを抜かしているという批判で第9歌は終わる。原さんの解説は、この第9歌により政治的な意味を持たせているが、それはご自分でお読みください。解説によると『地獄篇』では第9歌で前地獄が終わり、『煉獄篇』でも第9歌で前煉獄が終わっているように、ここでも「君らの世界のなす影が頂点を結ぶ」(147ページ)と、地上の影響が金星天にまでは及んでいる(ダンテが依拠したプトレマイオスの描く宇宙の姿では、地球の周りを月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星、さらに恒星が回っていることになっていた)ことが歌われていて、ここから先が本物の天国であるといわれているようでもある。
 今日は空模様が悪くて見ることができないが、今の季節西の夕空には金星が輝いている。偶然の符合ではあろうが、何となく心強い気持ちになる。次回は来年、ダンテはいよいよ太陽天に達する。 
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