ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(9-1)

12月20日(火)朝のうちは曇っていたが、その後晴れ間が広がる。

 ベアトリーチェに導かれて地上楽園から天上へと飛び立ったダンテは、月天で<誓願を果たさなかった人々>の魂に迎えられる。彼らは至高天で神とともにいるのだが、そこでの神との距離をダンテに示すために、至高天から最も遠い月天までやってきたのだという。彼はさらに水星天で<地上での栄光を追い求めた人々>の魂に出会う。その中にいた東ローマ帝国の皇帝であったユスティニアヌスの魂は世俗世界の統治権が神によってローマ帝国に与えられてきたという。次に金星に到達したダンテは、<人と人とを結びつける愛>に生きた人々の魂と交流する。ダンテの旧知のハンガリー王シャルル・マルテル・ダンジューの魂は、彼の実家であるアンジュ―家が戦争の準備のために重税を課したことで、シチリアの支配を失ったシチリア晩鐘事件を引き合いに出しながら、アンジュー家の悪しき統治(友愛に基づかない悪しき統治一般)を批判する。

美しい王妃クレメンツァよ、あなたのシャルルは
私の疑問を解くとすぐに、彼の一粒種が
こうむることになる詐欺について私に預言し、

だがさらにこうおっしゃったのだ、「沈黙を守り、年月の過ぎ行くままに任せるよう」。
それゆえ私には、あなた方の災厄に続いて
正しい罰により涙が流されるとしか話すことができない。

かくてその聖なる光に包まれた生命は
すでに彼を満たすあの太陽に向いていた、
あらゆる事物を満たすに足るあの善であるがゆえに。
(136ページ) 『神曲』の中の出来事は1300年に起きたことになっているが、この叙事詩が書かれたのはもっと後のことで、「天国篇」は1320年に完成したと考えられている。それで、1300年から1320年ごろまでに起きた出来事はすべて預言という形で表現される。教皇派の有力勢力であるアンジュー家のシャルル・マルテルと、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフの娘クレメンツァの結婚により生まれたシャルル・ロベール・ダンジューは、両派の和解によるイタリアの平和の実現への期待を担うことになったが、教皇至上主義政策をとるボニファティウスⅧ世と反皇帝・皇帝党政策をとるシャルル・ダンジューⅡ世(ナポリ王、シャルル・マルテルの父、シャルル・ロベールの祖父)は1296年に、シャルル・ロベールの王位継承権を否定した。これが詩行中の「詐欺」である。その後1315年にフィレンツェ・ナポリ教皇党連合軍がピサ・ルッカの皇帝党軍に敗れ、シャルル・ダンジューの王位を継承していたシャルル・ロベルトの弟フィリッポが戦死する。これが「罰」であると考えられている。
 ダンテとの対話を終えたシャルル・マルテルはその愛を神だけに向ける(地上において、彼はその妃を愛しすぎていたことが、冒頭の呼びかけに示されていると原さんは述べている。呼びかけは、地上に戻ったダンテによるものであるが、その背後に生前のシャルル・マルテルが妃への熱愛のために神への愛を軽んじることがあったという事情が示唆されているというのである)。
 ダンテは、地上の事物に拘泥する愛は至高善である神に背くものだという感想をもつ。

 次にダンテは、イタリア北東部マルカ・トレヴィジャーナの覇者、パドヴァの皇帝代理、ダンテが地獄を訪れた折に出会ったエッツェリーノ・ダ・ロマーノの妹クニッツァの魂と出会う。彼女は領土の拡大と勢力の拡張を図る兄の野望の犠牲になって、政略結婚を繰り返す一方で、ダンテが前煉獄で出会った騎士であり吟遊詩人でもあったソルデッロとの恋愛など、多くの恋愛を経験した。
ですが今は喜びに満ちて、この運命の変転の原因を
自ら赦しています。それは私を苦しませていないのですから。
あなた方の世界の無教養な人々にはおそらく理解しがたく見えるでしょうが。
(139ページ) 彼女は神が人間に与えた法を破り、愛を優先して人倫にもとる行為をしたが、これは、生前の結婚関係や職や血統が無効となった、神にだけ向く死後の愛の予型となっているともいえる。そこで、彼女は自分が救われていることが、「無教養な人々」、つまり神の意志に沿おうとしない人々には理解できず、また神意に基づく皇帝の平和が実現5すれば、政略結婚など必要なくなるはずなのにと、皇帝権に抵抗する人々を非難した。

 そしてクニッツァはこの後の地上の世界で起きる、戦いにおける強硬派の敗北・後退を予言する。

 ダンテの政治に対する考えは、時代遅れもいいところだと思うのだが、彼が恋多き女であったクニッツァの運命に理解を示し、彼女を天国の中に描き出しているのは興味深い。彼女の一時期の恋愛の相手であったソルデッロとは前煉獄で、彼女の兄エッツェリーノとは地獄で出会っているというのも(その後、ダンテはエッツェリーノへの評価を改めているという解釈もできると、原さんは記しているのではあるが…)ダンテの考え方を示すものではないかと思う。

 月天、水星天でダンテと話すのはある1人の魂だけだったが、金星ではすでに2人の魂と話している。後半ではさらに1人の魂が登場する。
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