キューポラのある街

12月11日(日)晴れ

 神保町シアターで「今村昌平を支えた職人魂――キャメラマン・姫田眞左久の仕事」の特集上映から、『キューポラのある街』(1962、日活、浦山桐郎監督)、『かぶりつき人生』(1968、日活、神代辰巳監督)、『危いことなら銭になる』(1962、日活、中平康監督)を見る。我ながらよく頑張ったものである。3本まとめて論評すると、相当な量になりそうなので、『キューポラのある街』だけを取り上げることにする。早船ちよの原作を、今村昌平と浦山桐郎が脚色、浦山が監督に昇進して最初の作品であり、主演した吉永小百合がブルーリボン主演女優賞を受賞するなど、当時の話題を集めた作品である。浦山にせがまれて川島雄三がゼロ号試写を見に出かけ、新人にしちゃ、よくできたシャシンですとエールを送ったという逸話が残されている。

 この作品のテーマの一つが<境界性>である。ヒロインのジュン(吉永小百合)は中学校3年生で、子どもと大人、高校進学か就職かという境界にいる。しかも舞台が東京都荒川を隔てて境を接する埼玉県川口市である。市の経済を支えるのは景気変動の変化を受けやすい中小企業で、鋳物工場の特徴ある形の煙突(キューポラ)が目立つ。映画の最初のところで父親の辰五郎(東野英治郎)が鋳物工場から解雇されて、一家は苦しい状況に置かれる。ジュンの弟で小学生のタカユキは学校をずる休みしたり、配達された牛乳を盗んだりしている。ジュンの友人の1人は在日朝鮮人の父親と日本人の母親の子どもである(弟同士も遊び友達である)。

 もう一つのテーマは<世代間の対立>である。ジュンは高校に進学しようと、友人のユキエが働いているパチンコ屋でアルバイトを始める(これはもちろん違法)。父親と同じ工場で働いていた隣の克巳(浜田光夫)にそれが見つかり、さらに担任の教師(加藤武)にも知られるが、教師は克巳から事情を説明されて表ざたにしないことにする。そこで、出てくる言葉が「ジェネレーション」で、映画のここかしこで、自分は職人であり、労働者ではない、組合は嫌いだという父親と、戦後的な価値観を教えられて育っている娘の意見の対立が描かれる。

 さらに一つ付け加えれば、貧富の格差の問題があり、家の経済事情でジュンは進路選択に悩むことになる。ただし、もともと中小企業の多い町であるから、貧富の格差といってもそれほど大きくはないし、経営者と労働者の子どもが同じ学校に通い、経営者である父親が労働者の子どもに同情して親の仕事を世話をするというようなことも起こる。昔気質で頑固、視野の狭い父親が他人の行為や福祉の制度を理解しないために、娘は苦労することになる。

 ジュンが修学旅行に出かけられなかったり(先日見た、『現代っ子』でも同じ問題が出ていた)、同じく出かけなかった在日朝鮮人の友達と遊びに出かけて危ない目にあったり、そのこととも関連して進学問題に悩んだりするという物語に、ジュンやその弟の友達である在日朝鮮人の子どもを巻き込んだ北朝鮮帰還運動の問題が絡む。早船ちよの原作はもともと子ども向けに書かれた作品のようで、映画でもジュンの弟のタカユキとその周辺の子どもたちの行動が詳しく、また生き生きと描かれている。『にあんちゃん』における今村昌平の配役・演出と同様に、浦山はこの作品で、脇を固めて、中心部をのびのびと演技させるというやり方をとっているように思われる。

 この映画が公開された時には、私は高校生であったから、同時代をしっかり生きていたことになる(私よりも1学年上の吉永さんが中学生を演じているのには無理が感じられる)。だから世の中の変化を強く感じるとともに、この映画が描いていた時代が大きな変化の時代であったことも実感される。映画の中で、修学旅行の際の小遣いが昨年は500円であったのが、「所得倍増」で今年は1,000円ということにホームルームの討議で決まったりする場面に世相が覗くのだが、すでに述べたように、この映画はそのような世相から取り残されかかっている人々に目を向けている。

 映画の最後の方で、ジュンが大企業に就職する展望が開け、働きながら定時制高校に通うという道が暗示されている。働くものが新しい文化創造の担い手であるというメッセージが投げかけられているようにも思える。大企業に就職し、定時制高校に進学することで、ぎりぎりジュンは高度経済成長と高学歴化の進行から取り残されずに生きて行けそうである。そう書いたのは、この映画の中で肯定されている価値観のかなりの部分が、その後の社会の変化の中で意義を失ってしまっているように思われるからである。例えば労働組合の衰退で新しい文化の創造どころか、労働者の権利の擁護すら困難になっているのが現状ではなかろうか。同じ埼玉県を舞台にした記録映画『ある定時制高校の記憶』の描く世界と、この映画の間には相当な距離があって、その中間の過程をたどりなおすことにも意味がありそうである。 
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