『当たりや大将』『「経営学入門」より ネオン太平記』

12月4日(日)晴れのち曇り、夜になって雨

 神保町シアターで「今村昌平を支えた職人魂 キャメラマン・姫田眞左久の仕事」特集上映から、『当たりや大将』と『「経営学入門」よりネオン太平記』の2本を見る。この特集は、今まで見たいと思っていてなかなか見ることができなかった作品が多く含まれているのがうれしい。

 『当たりや大将』(1962、日活、中平康監督)は大阪・釜ヶ崎を舞台にした作品で中平と仲が良かった新藤兼人が脚本を書いている。釜ヶ崎のガード下の小さな小屋に寝起きしている大将(長門裕之)は、普段は割れたガラス窓を修繕する職人をしているのだが、鴨がやってくると当たり屋に早変わりする。本業の方も、近所の子どもチビ勝(頭師佳孝)とコンビを組んで市内を歩き回り、チビ勝がガラス窓を割った後からやってきて直すという仕事ぶりであるが、当たり屋の方も自動車にあたってもかすり傷ひとつないという練達ぶりを見せる。

 今日も釜ヶ崎に乗り付けてきたタクシーにぶつかって乗客から金を巻き上げようとしたところ、その乗客は新任の警察署長(嵯峨善兵)であったので、無駄骨に終わる。署長を迎えて、この地域を長年担当している刑事のどぶのキリスト(浜村純)が釜ヶ崎地区の概要を説明する。同じく釜ヶ崎を舞台にして、簡易旅館を経営しながら金貸し業も営んでいる老婆とその周辺の人間模様を描いた『がめつい奴』が舞台で好評を博したのは1959年から60年にかけてのことであった(映画化もされている)。名前は知られ始めたが、その正確な姿はまだまだ分かっていないということで、地域と住人たちの暮らしが署長にことよせて、観客に説明されているのであろう。キリストはこの地域で起きている犯罪、特に大将の動向に目を光らせているのだが、地域の住人達もさるもの、なかなか尻尾を出さない。彼は犯罪を憎む一方で、住人たちが根は善良な人間であると信じてもいるようである。チビ勝の母親であるおばはん(轟夕起子)のホルモン屋は毎晩大将とその仲間でにぎわっている。客の1人であるベンテンのお初(中原早苗)という女に大将はほれ込むが、一晩2万円だと吹っ掛けられる。

 首尾よく当たり屋に成功した大将は5万円を手に入れ、そのうち2万円を懐にしてお初のところにやってくるが、一戦交える前にと始めたばくちでその2万円を彼女に取られてしまう。彼女から借用書を書いて借りた1万円を元手に、今度はばくちが行われている広場に出かけて10万円まで稼ぐが、土地の親分との勝負に負けて逆に10万円の借金を作ってしまう。
 チビ勝からおばはんが、彼を大学に入学させるために貯金をしているという話を聞きだした大将は、自分の父親は信用金庫の社長をしていると言葉巧みにおばはんをだまして、彼女の貯金18万円を引き出し、その金でお初とドライブに出かけて豪遊する。(お初に1万円は返したのだが、親分への10万円は返さないままで、これが後で尾を引くことになる。)

 大将の口から自分の金をだまし取られたことを知ったおばはんはやけ酒を飲んで、自動車にぶつかって死んでしまう。その後、大将の耳に、死んだはずのおばはんの声が聞こえてくる。何とかしようと、大将は、ばくちが行われている広場にブランコをつくって、ここを子どもたちの公園にしようとするが…

 最初の方は喜劇風に進み、あとの方になると人情劇の要素が強くなってくる。キリストはおばはんにここの連中は(大将を含めて)道徳的な観念がないという。まったくないわけではないのは、大将が金を使ってしまったことをおばはんに打ち明けたり、彼女の死後、彼女が口にしていたことを思い出して、広場にブランコを作ろうとしたりすることからわかる。ないのは、むしろ長期的な人生の計画と計画達成のために我慢していく心がけであろう(道徳性の発達のためには欲求不満耐性の発達が不可欠であるということを考えれば、キリスト刑事のいうことも納得がいく)。衝動的に快楽を追い求めるだけの生き方では、いくら生活経験を積んでも、底辺から抜け出すことは難しい。

 ホルモン屋の仕事をしながら、おばはんは「雪のふるまちに…」と、歌の最初の部分だけを繰り返し歌うのだが、この歌の歌いだしは「雪の降る街を」だったはずで、この違いを含めて、映画中でのこの繰り返しには何か意味があるのか、どうもよくわからない。中平康は高知、新藤兼人は広島の出身で雪とはあまり縁がなさそうだ。長門裕之と轟夕起子は京都だから雪が降らないわけではない土地の出身ではあるが、わざわざ何度も歌うほど雪に慣れ親しんでいるようには思えない。

 『「経営学入門」より ネオン太平記』(1968、日活、磯見忠彦監督)は今村の『「エロ事師たち」より 人類学入門』に続く「入門」シリーズ第2弾で、第1作に引き続き小沢昭一が主演している。磯田敏夫『企業防衛』が原作だそうだが、磯見自身と今村による脚本はどこまでこの原作に基づいているのかどうか。

 大阪・千日前でアルサロの支配人をしている益本利徳(小沢昭一)は巧みな宣伝と戦術で成功をしているが、家庭に帰ると元ホステスの内縁の妻(園佳也子)と喧嘩が絶えない。店の方は第2号店を出店する予定なのだが、地元の反対が起きかけている。利徳は家を出て、最近の浮気相手である双子のところに転がり込むが、相手がよく似ているもので間違えたりして…。

 この作品の面白さはストーリーよりも、配役にあって、今村昌平と小沢昭一の人脈を駆使しての出演交渉のたまものであったのか、それとも彼らの人徳に惹かれて自然によってきたのかはわからないが、ちょい役で顔を見せる出演者の豪華な顔ぶれがみものである。なかでも渥美清がゲイボーイで出てきたり、まだ若いころのかしまし娘が姿を見せたりするのが楽しい(この若さと<美貌>で「クッソ バァバァ」などとやっていたのである)。確認できなかった人たちを含めて、Movie Walkerに記されている主な出演者を列挙しておくので、興味のある方はぜひ、見に出かけてください:
西村晃、白羽大介、吉村実子、松尾嘉代、加藤武、桂米朝、小松左京、三国連太郎、北村和夫、黛敏郎、野坂昭如

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