内田洋子『皿の中に、イタリア』

11月12日(土)晴れ、気温上昇

 11月10日、内田洋子『皿の中に、イタリア』(講談社文庫)を読み終える。題名の通り、イタリアの食生活について綴った本であり、食生活の様々な場面で出会った人々との交友録でもある。
 食べて、暮らす。
 日常の断片を、パンのかけらや肉片、野菜の切り口に見る。
 何よりのごちそうは、かみ応えのある仲間なのだ。
(360ページ)と、「あとがき」で内田さんは書いている。
 
 イタリアは個性の強い地方の集合体であり、ここではそういうイタリアのごく一部――内田さんが現在、住んでいるロンバルディア、かつて住んでいたリグリアという北イタリアの2州と、しばしば出かけたサルデーニャ、それにナポリを中心とするカンパーニャ州という20州のうちの4州(11月7日付の当ブログで書いたように、南部のカラブリア州から北部に移住した人々の話も出てくる)での経験だけが取り上げられているので、これをもってイタリアのすべてが語られているというのは早合点もいいところなのだろうが、取り上げた地方の個性はしっかりととらえられているように思われる(自分が行ったことがないから本当のところはわからない)。

 この書物の「解説」で福原義春さん(資生堂名誉会長)は次のように書いている。
「内田洋子さんは不思議な人だ。
 イタリアとの仕事を始めてから、今年(2016)で38年だそうだ。日本の大学在学中に、単身イタリアに渡ってナポリへ留学、その後もずっと組織に所属せず一匹狼を貫いてこられた。日伊両国の関係性に着目し、イタリアのニュースソースと日本の関心事を結びつけ、独自に集めたイタリアの情報を日本のマスコミに売り込む通信社をつくったのもすごいが、カプリやイスキアやサルデーニャのような島をはじめ、いろんなところに住み、75年前に船大工が手作りした古い木造帆船を買って、6年間も船上生活を送られたこともあるという。通信社に必要な、急を要する連絡などどうしていたのだろう。」(362ページ)
 6年間の船上生活の話は、「船乗りの知恵」というこの本の中ほど(182-199ページ)に収められているエッセーで語られているのだが、サルデーニャ出身の船乗りとの出会いに、マグロやオリーブ油の話がまぶされている。人と、食べ物は分けて考えられないというのが内田さんの考えのようだ。

 内田さんが現在の本拠としているのはミラノであり、住んでいるのは運河地区である。ミラノというと、須賀敦子が描いた霧を思い出す。霧の主要な発生源が運河であるわけだが、その運河について、内田さんは次のように書いている:
「この運河は、町の中央に聖堂を建てるにあたり、レオナルド・ダ・ヴィンチが内地の運輸の不便を解消しよう、と考案して12世紀以来に掘られた人口の川である。内陸部にあるミラノには、他所からの訪問者を迎える表玄関がなかった。ところが運河が引かれ船着き場ができて、ミラノに<港>が誕生した。」(95ページ) 須賀さんの抒情詩的な霧の描き方に対して、内田さんは運河について散文的な説明を展開する。(もっとも、レオナルドがミラノで活動したのは16世紀であり、運河についての内田さんの説明はそのままうのみにできないところがありそうである。) 両者ともにさまざまに展開されるイタリアの個性のある部分を切り取っているのだが、この辺が両者の個性の違いであろうか。須賀さんがヴェネツィアやトリエステなど、東の方の都市に興味を寄せたのに対して、内田さんは西の方に歓心を抱いているようにも思われる。

 散文的と書いたが、食べ物に寄せて喜怒哀楽さまざまな人間の感情が書き留められている。日常的なありふれた料理の話が多く、魚料理の話が比較的多いが、肉料理も取り上げられるし、パスタやピッツァ、オリーブやワインだけでなく、パンや水にも出番が用意されている。生きる喜びを実感させるような味わいのエッセーがあるかと思うと、「遠くに立ち上る陽炎のようで、かみ締めても食感は素っ気なく、ほろ苦く、そして固くて、石をかじるようだった」(287ページ)と結ばれているエッセーもある。が、一番印象に残るのは「母の味」というエッセーに描き出された、近所のバールのデリアという名の初老の女店員がつくる各地の郷土料理を挟み込んだパニーニの話である。毎日、パンも違うし、中身も違っている。「デリアは、常連たちの故郷と懐かしい味を知っている。皆の母の味が、このバールにあるのだ。」(144ページ) イタリアの食生活と人間模様の多様性と、その中で輝く個性が、それらの一端だけかもしれないが生き生きと描かれている書物である。

〔昨日(11月12日)、横浜FCのホーム最終戦を見に出かけたのだが、不完全燃焼という気分が強く、表だけでなく、帰宅後も意地汚く酒を飲んでいるうちに寝てしまい、原稿が書けなかった。本日も、予告通り、高校サッカーの神奈川県の決勝戦、桐光学園と相洋高校の対戦を見に出かけたのだが、こちらは接戦の末に延長後半の終わり近くに決勝点が入るという 好ゲームで、まだその余韻に浸っているところである。〕
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No title

何時もご訪問有り難うございます。
※ 福原義春さん(資生堂名誉会長)は次のように書いている。

拝読してて、『福原義春』の名前に目が留まりました。
勤めていた会社が資生堂の仕事をしていて社長宛の名前を『毛筆』で書いただけですが、現役時代を思いだしました。何時も沢山の知識を頂き有り難うございます。

Re: No title

コメントをありがとうございました。こちらこそ、ご訪問、ありがとうございます。

世の中は、広いようで狭いものですね。私は毛筆書道が苦手なので、あて名を書く仕事など回ってこなかっただろうと思います。

今後ともよろしくお願いします。
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