黒瀬奈緒子『ネコがこんなにかわいくなった理由』(2)

11月9日(水)曇りのち晴れ

 前回はこの書物の第1章~第3章を紹介した。今回は残る第4章~第6章を取り上げるつもりである。
 第1章「ネコが来た道」には、人間が農耕生活を営み定住するようになると、ネズミが近づき、そのネズミを狙って小型のネコ科動物であるヤマネコが人間の近くに寄ってきたが、その中でリビアヤマネコがネコの祖先になり、家畜として飼いならされ、世界中にその分布を拡大するようになった過程が記されていた。第2章「ネコ科はどう生まれたか」は、生物進化の過程をたどり、食肉目の中でネコ科が捕食者として高度に特殊化したグループであると論じられていた。第3章「ネコはどう生まれたか」は、ネコ科の中でネコ科がどのように進化し、どのような種が属しているか、それぞれの種がどのような分布を見せているかを述べ、ネコ科の動物たちがそれぞれ巧みにすみ分けて生き延びてきたが、近年はヒトの影響で多くの種が絶滅の危機に瀕している、その中で猫だけが繁栄を続けていると指摘していた。

 第4章「ネコが繁栄した理由」はネコが家畜であることから話を始めている。家畜はその用途によって、「農用動物」、「実験動物」、「伴侶動物」に分けられるが、ネコは伴侶動物と認識されている。家畜化しやすい動物の要件として:
①群居性が強く、順位制で群れの秩序を保つ動物であること
②オスが性的に優位で、配偶関係が不定の動物であること
③大胆でヒトに慣れやすい動物であること
④草食性または雑食性で、何でも食べる公食性の動物であること
⑤環境への適応力が高い動物であること
⑥性質が温和で従順、行動が遅鈍な動物であること
まとめていうと「なんでも食べて、どこででも生きていけるたくましい動物」が望ましいということである。ネコは単独生活で肉食、気まぐれで俊敏、家畜に向いているとは言えない。しかし②の配偶関係の不定、③のヒトに慣れやすいは問題がなく、⑤の適応力については、リビアヤマネコの中の特に適応力の高い個体が家畜化されていったと考えられる。さらに⑥の温和な性質についてはヒトの努力によって都合のように改良されてきたという。「ネコはいわば「ヒトの熱意」が生みだした、、ある意味で特殊な家畜」(119ページ)であるという。
 ネコは「ふわふわで手触りがよく、成長しても目が大きく、額が広く、輪郭も身体全体も柔らかく、幼い個体に特有の「かわいい」容姿を成長しても保っていますから、養育欲や庇護欲をそそる」(121ページ)。このように見た目がかわいいだけでなく、ネコは甘え上手という特性もあり、感情が読みにくいこともかえって魅力と感じる人がいる。ネコは鳴き声やにおいの点で他のペットよりも飼いやすく、そうしたこともネコの繁栄の理由となっている。

 第5章「ヒトがつくるネコの話」では、ネコの様々な品種がどのようにしてつくられてきたかが語られている。ネコの品種は主として被毛の違いによって生まれ、イヌと比べると見た目の多様性は乏しい。これはネコが「かわいい」という動機で飼育されてきて、より「かわいい」品種を生みだそうとの努力が続けられてきたことによるものである。
 まず、シャムネコは遺伝的浮動によって自然発生したと考えられる。ネコの中で古い品種の1つと考えられているエジプシャンマウは先祖であるリビアヤマネコによく似ているが脚と尻尾の縞が異なるという。アビシニアンはインド洋沿岸部や東南アジアで進化した品種である。ペルシャネコは遺伝子の変異によって長毛になったと考えられている。尻尾のないネコであるマンクス(短毛)とキムリック(マンクスの長毛タイプ)も突然変異によって生まれた遺伝子が、隔離された環境で長い時間をかけて定着したものと考えられる。」このほか、ヨーロッパや北方の土着ネコ、どのようにしてネコの新しい品種を作り出すかという話が展開され、ネコの話としてだけでなく、遺伝学の復習にも役立つ内容となっている。
 特に興味深いのは、ネコの性格に関係する遺伝子が発見されてきているということで、外見重視で品種改良を重ねられてきたネコがその結果性格も固定される可能性があると指摘されている点である。「たとえば、スコティッシュフォールドは温和で人なつっこい甘えん坊、アメリカンショートヘアーは陽気で遊び好きなど、品種ごとにある程度、性格に特徴がある」(165ページ)と述べられているが、我が家の飼いネコであるエビはスコティッシュフォールドの血の入った雑種、タマはアメリカンショートヘアーなので、思い当たる節がある。

 第6章「ネコとヒト、その関係とこれから」ではヒトには、ネコを含む肉食動物に対する嫌悪感と自分の奥底にある衝動の投影という矛盾した感情が潜んでいると指摘したうえで、ネコが媒介する感染症についての注意、ネコ以外のネコ科の動物たちが絶滅の危機に瀕している現状、野生化したネコが生態系への脅威となっているもう一つの現状が指摘され、「ネコ問題はヒトの問題である」こと、それゆえに「持続可能」なネコとの暮らしを構築する必要があることなどが論じられている。著者はネコだけでなく、動物全般が好きだというだけあって、家畜と野外で暮らす動物の双方を視野に入れて、どちらかに偏ることなく議論を進めている。「ネコにやさしく、結果的に自分たちも豊かになれる社会を築く」(218ページ)という最後に語られている夢も説得力が感じられる。

 生物学的な知見を踏まえてネコについて概観した書物であるが、ネコが「かわいい」というのはどういうことかを客観的に記し、それがネコの品種改良に果たした役割を強調している点に特徴がある。その意味で、第5章が一番読み応えがあった。確かダーウィンの『種の起源』の中に、イヌには多様な品種があり、それぞれの差異は大きいが、ネコはそうでもないのはなぜかということが書かれていて、読んだときは納得したのだが、その後、ネコの被毛の多様性はこの動物が複雑な変異の過程を経てきたことを物語るという説に出会って、考えを変えたことがある。それにネコの大きさはあまり変わらないといっても、やはり大きいネコと小さいネコはいるのである。私の住まいの近所にアビシニアンのネコがいて、近所の人気者だったが、かなり小型であったのを思い出す。それに比べるとうちのエビとタマは大きいのである。家人は食生活のせいだと思っているようであるが、私の考えでは遺伝性のものである。そんなことを考えながら、読んでいた。第6章は著者の最近の研究の成果と重なる部分が多いようであるが、改めて別の著書にまとめてみた方がよいように思う。
 
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