ジェイン・オースティン『マンスフィールド・パーク』(6)

11月4日(金)晴れ、昨日に比べて雲が多く、富士山は見えなかった(大山は見える)

これまでのあらすじ
 親が愚かな結婚を認めに、貧乏人の子沢山の家庭で育ったファニー・プライスは、10歳の時に伯母の夫である准男爵サー・トマス・バートラムの屋敷=マンスフィールド・パークに引き取られる。虚弱体質で内気なファニーはもう1人の伯母であるノリス夫人のいじめをはじめ、様々な困難に耐えながら、次第に美しい娘に成長する。サー・トマスには4人の子どもたちがいたが、その中で次男のエドマンドはファニーを何かとかばってくれたので、彼女は彼を慕っている。
 マンスフィールド教区の牧師であるグランド博士の夫人の異父弟妹であるヘンリーとメアリのクロフォード兄妹が牧師館を訪れ、ロンドンの悪をマンスフィールド・パークに持ち込む。エドマンドはメアリに惹かれる。派手で個性的な美人であるメアリは、エドマンドに魅力を感じるが、彼が牧師になろうとしていることが気に入らない。サー・トマスの長女のマライアは大地主で大金持ちの(ただしあまり頭の血の巡りはよくない)ラッシュワースと婚約していたのだが、ヘンリーに夢中になり始める。しかし、結局はラッシュワースと結婚し、マンスフィールド・パークを去る。次女のジュリアも姉と行動を共にしたので、マンスフィールド・パークに残った若い女性はファニーだけになる。
 プレイボーイのヘンリーは、ファニーをからかうつもりだったのが、本気になってしまい、彼女が社交界にデビューする舞踏会の後、正式にプロポーズする。ファニーにはウィリアムという海軍の見習い将校をしている兄がいるが、ヘンリーはつてを使って、彼が少尉に昇任するように取り計らう。サー・トマスはヘンリーのファニーへのプロポーズを喜ぶが、ヘンリーのこれまでの行状をよく知っているファニーは必死で断ろうとする。しかし、周囲の人々はみな乗り気である。

第34章
 聖職叙任式を終えても、エドマンドがピーターバラの友人のもとにとどまっていたのは、メアリ・クロフォードに自分の愛を受け入れられなかったと思い、クロフォード兄妹がロンドンに戻った後にマンスフィールド・パークに帰ろうとしたためであったが、帰ってみると、兄妹に出会い、メアリから心のこもった歓迎を受けたので、驚きながらも喜んだ。彼は父のサー・トマスからファニーがヘンリーの求婚の申し込みを受けたことを聞く。ファニーの期待していたのと違って、エドマンドはこの結婚に反対ではなく、ただヘンリーがあまりにも性急に事を運ぼうとしていることが問題だと思ったのであった。

第35章
 エドマンドはサー・トマスに説得されて、ファニーに結婚に同意するように言い聞かせる役割を引き受けることになった。ファニーは「私たちは、性格も生活習慣もまったく違います」(531ページ)とヘンリーと結婚できない理由を述べる。エドマンドは性格は違う方がいいんだと説得を試みるが、ファニーの気持ちを変えることはできない。さらにエドマンドは、メアリがファニーの拒絶を怒っていること、グラント夫人もこの結婚には賛成であることを伝える。しかし、ファニーが疲れた様子を見せたので、話を打ち切るのであった。

第36章
 エドマンドは、ファニーの話を聞いて、もう少し時間をかけないと彼女の心を動かすことはできないと判断し、その意見にサー・トマスも同意する。彼らとは別に、この結婚話を進めることに熱心であったのが、メアリである。「エドマンドのことですごく勝ち誇っていて自信たっぷり」(544ページ)なメアリと2人きりで話すことをファニーは避けていたのだが、マンスフィールド・パークにやってきた彼女と2人で話さなければならなくなる。メアリは間もなくロンドンに赴くといい、さまざまに言葉を並べてヘンリーとの結婚に同意するように迫る。そして、ヘンリーとの結婚についてはメアリの意志に任せるが、彼女に手紙を書くこと、姉のグラント夫人を訪問することは約束してほしいという。翌朝、クロフォード兄妹はマンスフィールドを去った。

第37章
 クロフォード兄妹が去った後、ファニーに変わった様子が見られないことに、サー・トマスとエドマンドはそれぞれ別の驚き方をする。ファニーの兄のウィリアムは海軍少尉に昇進したばかりであったが、10日間の休暇を得てマンスフィールドをまた訪問することになり、この機会に彼と一緒にファニーをポーツマスの実家に里帰りさせることをサー・トマスは思いつく。エドマンドもこの計画に賛同する。彼はロンドンに出かけてメアリに求婚しようと計画していたのだが、ウィリアムとファニーのために出発を延期することにした。そしてウィリアムとファニーの兄妹はポーツマスに出発する。

第38章
 ファニーは兄とともにマンスフィールド・パークを離れてポーツマスへの旅路をたどるが、馬車に揺れながら、何通も届いたメアリからの手紙について思い出す。手紙にはヘンリーの添え書きがあり、さらにエドマンドが手紙を読み聞かせてほしいといい、聞いた後でメアリをほめそやすのが、彼女にとっては苦痛であった。
 一泊ののち、2人はポーツマスに到着し、実家の戸口に立つ。11歳の弟のサムが出迎えて、ウィリアムにすぐに船に戻るように伝える。彼は海軍の見習い兵として兄と同じ船に乗り込むことになっていたのである。ファニーは父母や弟妹と再会するが、実家がみすぼらしく、家族が騒々しく、だらしないことにびっくりし、落胆する。ただ、妹の14歳になるスーザンと、末っ子のベッツィーが喜んで迎えてくれたのに満足した。ウィリアムは迎えに来た軍医のキャンベルと船に戻る。ファニーは疲れ果ててその一日を終える。

第39章
 ポーツマスの実家で1週間を過ごして、ファニーの失望は大きくなる。「・・・ファニーが取り残された家は、ほとんどすべての点で、自分が願っていたものと正反対だった。…プライス家は騒音と混乱とに支配され、礼儀作法などまったくない家だった。自分の役割をきちんと果たすものは一人もいないし、家の中で正しく行われることは何一つなかった。」(594ページ) それでもファニーの言うことはよく聞いていたサムも、軍艦に乗るために家を出てしまい、ますます寂しい気持ちになった。彼女にとって、兄弟げんかが絶えないポーツマスの実家は苦痛に感じられるだけだった。
 
 今回でこの記事を終えるつもりだったのだが、物語はさらに一波乱があるので、さらにもう1回紹介を続けることにする。それにしても長い小説である。ただ、登場人物の性格と性格描写には感心するところが多く、この小説が1814年に書かれていることに驚く(もっとも、英語で『源氏物語』を読んだ人は、これが1000年も昔の話だということに驚くそうであるが…)。内気なファニーではあるが、ヘンリーと結婚できない理由をはっきりと述べる。同じ時代の日本では考えられないことである(日本では1815年に杉田玄白らによって『解体新書』が刊行された)。

 念のために整理しておくと、プライス家には10人の子どもがいる。長男のウィリアムは19歳、物語にはすでに登場して、海軍の少尉になっている。長女がファニー(フランシス)である。その次の名前だけ出てくるジョンはロンドンの役所で事務員をして働き、同じく3男のリチャードは海軍の見習い将校をしている。次女のスーザンは14歳で、家事を手伝っている。なかなかの美人で、物語の最後で多少の活躍をする。スーザンの下に、メアリという妹がいたのだが、幼いころに死に、スーザンに食器のナイフを形見として残した。そのナイフを末娘のベッツィーが勝手に使おうとするので、喧嘩が絶えないのである。4番目の男の子がサムで、海軍の見習い兵になり、5男がトム、6男がチャールズで、まだ学校に通っている。そしてその下がベッツィーで5歳ほどで、母親に溺愛されているという設定である。10人兄妹のうち1人が早世、4人が就職、ファニーが伯父一家で養育されたので、家にいるのは、スーザン、トム、チャールズ、ベッツィーの4人になっている。

 39章の終わりに、サミュエル・ジョンソンの「結婚生活には多くの苦しみが伴うが、独身生活には何の喜びもない」という言葉をもじって、「マンスフィールド・パークの生活には多少の苦しみが伴うが、ポーツマスの生活には何の喜びもない」(600-601ページ)というファニーの感想が記されている。もともとのジョンソンの言葉は、『ラセラス』第26章と注記されている。この作品は「幸福の探求」という題名で岩波文庫に収められている。アビシニアの王子ラセラスは王子たちは王位を継ぐまでは山奥の谷間に設けられた王宮で幽閉生活を送るという国法に従って暮らしていたが、外の世界を見たいと思うようになり、イムラックという経験豊かで賢い家臣の助けを得て、ここを脱出する。同じ気持ちをもっていた妹のネカヤア姫が侍女のペクアーを連れて、兄とともに旅に出る。エジプトに達した彼らは、カイロでさまざまな人々と交わって、幸福への道を見出そうとする。そのなかでネカヤア姫はさまざまな家庭を訪問して家庭生活の降伏について探るが、なかなか結論を見出すことはできない。兄との会話の中で、彼女は最後にこのような感想を述べる。(朱牟田夏雄訳、岩波文庫版、111ページ参照) ヴォルテールの『カンディード』と比較されることの多い哲学小説であるが、『カンディード』に比べるとスケールが小さく、社会への批判や風刺も穏やかである。そういうところに、著者の性格の良さが現れているように思われる。あるいは、フランスと英国の人情の違いも反映されているのかもしれない。 
 

 
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