黒瀬奈緒子『ネコがこんなにかわいくなった理由 No1ペットの進化の謎を解く』

11月2日(水)曇り、一時雨

 11月1日、黒瀬奈緒子『ネコがこんなにかわいくなった理由 No1ペットの進化の謎を解く』(PHP新書)を読み終える。

 この書物の「はじめに」の部分で断っているように、著者である黒瀬さんはネコの専門家ではない。主な研究対象はイタチ科の動物で、食肉目イタチ科の「分子系統学」的研究で博士号をとり、その後、「保全遺伝学」さらには「保全生物学」に研究の力点を移したという。イタチ科の中でもオコジョに強い興味を持っており、ライフワークとして追い続けている一方で、二ホンイタチや、アナグマ、さらにイヌ科のタヌキやキツネ、(イタチ科の)「外来種」であるアライグマやハクビシンにも関心をもっているという。しかし、子ども時代から動物が好きで、たくさんのペットを飼ってきたし、その中にもちろんイヌやネコもいた。また野生動物にも関心を抱いていたので、「伴侶動物」としての側面と「外来種」としての側面とがあるネコについて二律背反的な気持ちを持っており、それが執筆の背景をなしているという。

 第1章「ネコが来た道」ではネコがいつ、どこで、どうやって飼いならされ、ヒトのそばで生活するようになったかがたどられている。通説では古代エジプト人が約3600年前にネコを飼い始めたとされてきたが、2004年に地中海のキプロス島で9500年前の墓に人とネコが一緒に埋葬されている事例が見つかった。人が農耕生活を営み、定住するようになると、貯蔵された食物を狙ってネズミが近づき、そのネズミを狙って今度はヤマネコがヒトに近づいて、ヤマネコがネコになり、約1万年前ごろからネコがヒトのそばにいるようになったと考えられる。小型のネコ科動物であるヤマネコはヒトにとって警戒心を与えない大きさであったことが両者が接近した理由であろう。

 ヤマネコは5つの系統に分かれて、各地に生息しているが、遺伝子解析の結果、それらのヤマネコの中でリビアヤマネコと呼ばれる品種だけがネコと区別できないほどよく似た遺伝子パターンを持っていることが分かった。リビアヤマネコはほかのヤマネコと違い、ヒトに対して比較的警戒心が弱く、またヒトになつく性質があったために、ネコの祖先になったのだと考えられる。また、その生息地域がメソポタミアであった(リビアヤマネコというから、北アフリカにすんでいるのだと思ったが、北アフリカから中近東、さらには中央アジアにまで住んでいるようである)ことも大きく影響した。そして農耕の広がりとともに、ネコも各地に移動していった。

 ネコはヒトの命令をほとんど聞かないので、ネコがヒトに近づいたのはむしろネコの方の都合によるものであったと考えられる。ネコにはネズミを捕るほかに、イヌほどではないにせよ、他の動物を近づけないという役割もあるようである。またネコには人に「飼いたい」「かわいい」という気持ちを起こさせる身体的な特徴があり、ヒトとの距離は縮まっていったが、完全に家畜化するまでには6000年ほどの年月がかかった。エジプト文明はヤマネコを飼いならしてネコにしたのではなかったにせよ、ネコのペット化を促進し、ネコを世界に広めたのである。

 日本では弥生時代の中期にネコが飼われていた痕跡がある。日本のネコというと短尾が特徴であるが、古い時代のネコは長尾で短尾のネコが多くなったのは江戸時代に入ってからのようである。しかし、最近は外来のネコとの混血が進んで、長尾のネコが増えているので、二ホンネコの保存も課題になってきている。

 第2章「ネコ科はどう生まれたか」では、原始生命から哺乳類、「食肉目」、「ネコ科」への進化の過程が分子系統解析の結果に基づいて語られている。「食肉目」はネコやジャコウネコが属するネコ亜目と、オオカミやクマ、イタチなどが属するイヌ亜目に分けられ、ネコ亜目は、ネコ科、ハイエナ科、ジャコウネコ科、キノボリジャコウネコ科、マングース科、マダガスカルマングース科の6つに分かれ、ネコ科の各動物は捕食者として高度に特殊化を遂げたさまざまな種に分かれてきたという。

 第3章「ネコはどうして生まれたか」ではネコ科に属する動物の種類や分布が概観されている。ネコ科に属する動物は37種で、イエネコをリビアヤマネコの亜種と考えれば36種となる。ネコ科の動物は8系統に分類される。大型ネコ(ライオンやトラなどの「ヒョウ系統」)、「ボルネオヤマネコ系統」、「カラカル系統」、「小型オセロット系統」、「オオヤマネコ系統」、「ピューマ系統」、「ベンガルヤマネコ系統」、「イエネコ系統」である。ネコ科動物はアジアを期限に世界中に移動し、様々な環境に適応している。それだけでなく、藪に潜むトラ、高山のユキヒョウ、樹上も利用するウンピョウというように、それぞれの好む環境や生活圏、えさの種類などを変えることでニッチをずらし、無駄な争いを避けてすみわけを実現してきた。しかし、ヒトとの衝突のために、多くの種が絶滅の危機に瀕している。その中でネコだけは減ることなく、繁栄を続けているのが現状である。(有名な「化石種」であるサーベルタイガーが実はネコ科ではないとか、ライオンがかつては世界じゅうに分布していたとか雑談用の話題には事欠かない章である。)

 残る3章の紹介はまた別の機会に譲ることにして、ここまで読んだ感想を述べると、まず、当然のことながら、非常に科学的にネコとネコ科の動物について、またその他の動物についての情報が記されているということである。先日、酒を飲んでいたら、隣の席で「アライグマはタヌキ科だ(実際はイタチ科、タヌキ科というかはなく、タヌキはイヌ科に属する)」というようなでたらめを吹聴する酔っ払いがいたが、動物の分類と進化について最新の学問的知見に基づいて概説してくれているのは、非常にありがたい。この点については、ネコ好きでなくても大いに役立つと思われる。
 このことと関連して、著者が動物全般に興味があるため、客観的にネコの特徴をとらえているところがあるということも言える。特に著者が専門とするイタチ科のフェレットが最近人気を集め始めていることをめぐっても、おそらくはネコに及ばないだろうと述べているところなどは興味深い。
 それからネコの進化をめぐっては、遺伝子解析の結果など科学的なデータだけでなく、ヒトの社会や文化とのかかわり、特に農耕文化の発展というような事柄と結びつけて議論を展開していることも注目される。ネコについての知識を増やすだけでなく、動物一般についての知識をより確実なものにし、人間と動物の関係について考え直す機会を提供する書物であるといえよう。
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