マンリー・W・ウェルマン&ウェイド・ウェルマン『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』

10月10日(月)曇り

 マンリー・W・ウェルマン&ウェイド・ウェルマン『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』(創元推理文庫)を読み終える。原題はSherlock Holmes's War of the Worldsで直訳すれば『シャーロック・ホームズの世界と(異)世界との戦争』とでも訳せるだろうか。1969年から1975年までというかなり長い年月をかけて、マンリーとウェイドのウェルマン父子が書いたSF小説であり、コナン・ドイルが創造した2人のヒーロー:シャーロック・ホームズとチャレンジャー教授(『失われた世界』その他に登場)が、異世界からの侵入者と戦うという物語で、その全体がドイルの同時代人であったH・G・ウェルズの『宇宙戦争』に対する異説となっている。シャーロック・ホームズを主人公とする作品群から、ワトスンはもちろんのこと、下宿のおかみさんのハドスン夫人、大学時代の友人であったヴィクター・トレヴァ、スコットランド・ヤードのスタンリ・ホプキンズ警部(最後の方で、名前だけレストレイド警部も登場する)、「ブナ屋敷」の依頼人であったヴァイオレット・ハンターなど、思い浮かぶままに抜き出してもかなりの数の顔ぶれが登場し、チャレンジャー教授を主人公とする作品群からは冒険家のジョン・ロクストン卿が登場するほか、物語の最初の3章の記録者がチャレンジャー教授の冒険の記録者であるエドワード・ダン・マローンという設定になっている(彼が事件とどのようにかかわったのかがはっきり描かれていないのが残念である)。そして後半の2章の記録者はもちろんジョン・H・ワトスンという設定である。

 1901年の11月にシャーロック・ホームズはロンドンのグレート・ポートランド街にある骨董屋でこぶしほどの大きさの水晶の球を見つけて購入する。その水晶には不思議な風景が映し出されていることに気付いた彼は優れた自然科学者であるチャレンジャー教授に連絡を取って、翌日、彼とともに水晶を改めて観察する。他の事件にかかわっているホームズから水晶を預かったチャレンジャーは、水晶の中に映し出されている風景が地球ではなく火星のものであると考える(月が2つ出ているからである)。2人はこの発見を2人だけの間の秘密として保持することにするが、火星に都市があること、タコのような火星人があることなどを知ることになる。

 1902年の1月に2人は有名な作家のH.G.ウェルズが水晶の謎を雑誌で取り上げようとしていることを知るが、できるだけこの事件については隠し通そうとする。5月に、ウェルズの記事が雑誌に掲載され、そこには謎の水晶を「灰色の服を着た背の高い、髪の黒い男」のことが書かれていたが、それがホームズだとは断定されていなかった。同じ5月に火星で何らかの爆発が起きたことを示す閃光が観察された。しかもそれは1度限りのことではなく、何度も続いて起きたのである。

 6月6日、ホームズは外務省のパーシ・フェルプス卿(「海軍条約事件」に登場)から巨大な円筒状の発射物がウォーキングの付近に落下し、その中には生物らしい存在が認められるという電報を受け取る。チャレンジャー博士も、またそのほか多くの科学者たちも現場に急行しているようである。現場に到着すると、一部の天文学者たちが中心になり、「火星からの来訪者」たちとの話し合いをしようとしているところである。しかし、来訪者たちは決して友好的ではなく、彼らの発した緑色の煙と閃光とによって話し合いを始めようとしていた人々を皆殺しにする。それが発端となって、次々に円筒状の発射物がイングランド南部に到着し、宇宙人の攻撃によって多大な被害が出ただけでなく、ロンドンはほとんど彼らの支配下に置かれる。お互いに連絡が取れないまま、いったんはロンドンを離れたホームズとチャレンジャーであるが、落ち着きを取り戻すとそれぞれロンドンに戻り、やがて合流して、宇宙人をどのようにして撃退するかを考える…。

 異星人の襲来という物語そのものよりも、ホームズやチャレンジャー教授の冒険物語のさまざまなエピソードが、この物語とどのように絡むかという、熱心な読者であればあるほど面白く読めるはずの仕掛けがこの小説には仕組まれている。H.G.ウェルズのほかに、アルフレッド・ラッセル・ウォレス(ダーウィンとほぼ同時に進化論を唱えたことで知られる博物学者)とかフランスの作家であるモーパッサンのような実在の人物の名前が引き合いに出されたりして、物語の現実感が補強されている。「著名な急進派にして無神論者」(228ページ)などとウェルズについては芳しからざる評価が述べられているのだが、そのような否定的な評価の多くがワトスンによるものであること、この作品中ではワトスンがかなり虚仮にされているところがあることも読み取るべきであろう(大体、物語の枠組みはウェルズのものを借りているということを無視できない)。なお、ドイルは保守党から2度下院議員に立候補して2度とも落選し、ウェルズは労働党から2度下院議員に立候補して2度とも落選していることを付記しておこう(まだ、保守党と自由党が二大政党であった時代に、労働党から立候補したウェルズにはある種の先見性があったといえよう)。方や推理小説の鼻祖、こなたSF小説の先駆けと、いろいろと対照的な2人であるが、同時代人であるし、社会問題に対する関心が強かったことなど、共通点も少なくない(第一、ドイルだってSF小説を書いている)。

 実際に読んでみた時の楽しみを残すために、物語のかなりの部分を省略したり、説明しなかったりしているのだが、それでも、この物語の読み応えを感じ取っていただけたら、幸いである。ホームズとチャレンジャーは電話で連絡を取り合っているが、その一方でロンドンではまだ馬車が有力な乗り物である。このあたり、ホームズの≪正典≫と突き合わせて検討すると、面白いことがわかるかもしれない。唯一残念なのはイタリアの火星観測家のスキャパレリの名前と「運河」の話は出てくるが、アメリカで火星を観測した(日本にも縁の深い)パーシヴァル・ローウェルの名前が出てこないことである。
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