ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(3-2)

10月4日(火)曇り 依然として体調が悪くて、パソコンに向かいながら眠り込んでしまうことが少なくなく、そのため、皆様のブログを訪問することが難しくなっておりますが、ご容赦のほどを。

 1300年4月13日の正午に、煉獄山の頂点にある地上楽園からダンテはベアトリーチェに導かれて天界へと飛び立つ。彼らは地球から最も近いところにある天体である月天に到着する。そこには生前にその誓願を果たさなかった人々の魂が置かれている。ダンテは、ここで彼の親友であるフォレーゼ・ドナーティの妹であるピッカルダの魂に出会う。(フォレーゼにはすでに煉獄で出会っているのである。) ダンテは、相手が親友の妹である(自分の妻の従姉妹でもあることを知り、神から一番遠い場所である月天にいることに不満はないかと直接に質問してしまう。

彼女は、最初に他の影達とともにしばらく微笑み、
その後で私にとてもうれしげに答えた、
(54ページ) 天国ではあらゆる魂が神の一つと一緒になっているので、神の決定に不満を抱くということはありえないという。

 次にダンテは、彼女の身に生前何が起きたのかを尋ねる。
「ある貴婦人が完全なる生と高き功績により天空の
ひときわ高きにおわし――彼女は私に言った――その方の定めに従い、
下界のあなた方のいる現世で修道女たちは決められた服を着て面紗を被る、

慈愛ゆえに自身の御心に沿う誓願を
くまなく受け入れるかの夫と
死ぬまで寝起きをともにするために。

俗世を嫌い、その方に続くために、まだ若かった
私は出家し、その服に身を封じて
その方が創始した修道会の示す道に誓いを立てた。
…(57-58ページ) 「ある貴婦人」はアッシジの聖フランシスコ(1181/2-1226)の弟子で、聖キアラ女子修道院を創設したアッシジの聖キアラまたはクララ(1194-1253)を指す。彼女の女子修道院では厳しい清貧と禁欲生活を通じて、神の感想が目指された。イタリア語での読み方は「キアラ」であり、原さんもキアラと表記している。なお、有島武郎に彼女を主人公とした「クララの出家」という短編小説がある。「かの夫」はイエス・キリストをさす。ピッカルダはフィレンツェ近郊のモンティチェッリ修道院に入った。

その後で男たちが、彼らは善よりも悪に親しい者達だったけれど、
私を清らかな僧院の回廊から外にさらっていった。
その後で私の人生がどうなったのか、もちろんご存知のこと。
(58ページ) ピッカルダは1285年(1288年ともいわれる)に彼女のもう1人の兄コルソにより強制的に還俗させられ、フィレンツェの有力者であったロッセーリーノ・デッラトーザの妻とされた(つまり政略結婚の道具とされたのである)。

 そして彼女の右側でその運命を自らの運命のように聞いている魂の存在を紹介する。
・・・
こちらは偉大な帝妃コスタンツァの光。
彼女こそは、シュタウフェンの第二の風との間に
第三の風にして最後の威光をお産みになった方よ」。
(59ページ) 帝妃コスタンツァと呼ばれているのはノルマン朝シチリア王ルッジェーロ2世の娘、コスタンツァ・オートヴィル(1154-98)で、1186年、神聖ローマ帝国ホーエンシュタウフェン朝のハインリッヒ6世の妻となった。彼女が修道女であったのを無理やり還俗させて帝妃にしたというのは教皇党が、皇帝を攻撃するために作り出した噂だそうである。語り終えると、ピッカルダは「アヴェ・マリア」と歌い始め、歌声とともに姿を消していった。ダンテは改めて、ベアトリーチェに質問を始めようとする。

 ここではとりあえず、13世紀、14世紀の都会の裕福な階層の女性たちはあまり自由な生き方ができず、修道院が一種のアジールではあったが、それも万能ではなかったことに気付けばよいだろうか。帝妃コスタンツァはあまり面白くもない付け足しだが、ダンテとアッシジの聖フランシスコは100年とその時代を隔てておらず、聖フランシスコの生涯を絵画に残したジョットーはまさにダンテの同時代人であることを考えると、すでに干からびてしまったような歴史が少し、生き返ったような感動を覚えるのである。

 ここで、「煉獄篇」第11歌のあまりにも有名な評言を改めて引用しておこう。
チマブーエは確信した、絵画界で
天下をとったと。しかし今やジョットが覇を唱え、
ために彼の名声はかすんだ。
(煉獄篇168-169ページ) 

 この後でダンテは
この世のざわめきなど風の
ひと吹きにほかならず、今はこちらからそよぎ、今はあちらからそよぎ、
向きが変わるにつれ名を変えていく。
(煉獄篇169ページ)と書いているが、そういう時代の変化はあるにしても、彼の生活していたトスカーナ地方が人類の社会・文化にとって重要な意味を持った生活を実現していたことは否定できないだろうと思う。それから、「煉獄篇」と「天国篇」で『風』の意味が違っている可能性があることも気にかけておこう。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR