娘・妻・母

9月28日(水)曇り、夕方から雨が降り出す

 9月26日、神保町シアターで「伝説の女優 原節子」の特集上映から、『娘・妻・母』(1960、東宝、成瀬巳貴男監督)を見る。このところ、体調が悪く、この日は定期健診で東京の病院に出かけて体温を測ったり、血圧を測ったりしただけでなく、採血までしたのだが、どうも東京まで出てくると、そのまま帰りがたく、映画を見に出かけたのである。おかげで、体調は依然として改善せず、書物の内容を要約するというような作業は避けて、映画の感想を書くことにした次第である。原節子が出演した最後の成瀬作品であるこの映画はまだ上映が終了しておらず、明日、明後日と神保町シアターで上映されるので、興味のある方はご覧ください。

 東京の中流家庭坂西家は母(坂西あき=三益愛子)、会社の部長である長男(雄一郎=森雅之)、その妻(和子=高峰秀子)、孫(義郎=松岡高史)に未婚のOLである三女(春子=団令子)が同居する3世代家族である。長女の曽我早苗(原節子)は日本橋の大きな商家に嫁いだのだが、折り合いが悪く、夫を放り出して実家に帰っている。次女・谷薫(草笛光子)は幼稚園の先生をしながら、学校の教師である夫の英隆(小泉博)、夫の母加代(杉村春子)と同居しているが、この共働き生活を加代は気に入らず、薫は家を出てアパートを借りることを夢見ている。次男の礼二(宝田明)はカメラマンで、喫茶店経営者で年上の妻美枝(淡路恵子)とアパートで暮らしている。

 早苗が実家に戻っている最中に、その夫は業者の慰安旅行で伊豆に出かけ、バスが転覆して死亡する。そのことで早苗は立場を失って実家に戻されることになる。ただ生命保険が100万円手に入り、それが唯一の財産なのだが、それを軽々しく口に出すところが世間知らずである。早苗が戻ってくることを知った和子はそれまで雇っていた女中のたみ(江端秀子)に暇を出す。はっきりと表に出ないのだが、高峰秀子が演じている和子と、原節子の演じている早苗、長男の嫁と長女の間で暗闘が展開される。一家が裕福な時に成長し、裕福な家庭に嫁いだためにおっとりと世間知らずの早苗が外出を続ける一方で、頼るべき親戚もなく、苦労して育ってきた和子が無言で家事に取り組んでいる姿の対比が映画の基調をなしている。早苗が紅茶を淹れるのが得意なのに対し、和子が夫とコーヒーを楽しむようにしているというのも対照的である。物語の進行の中で、早苗には、年下の黒木(仲代達也)という恋人?ができたりする。

 和子のただ一人の肉親である鉄本庄介は町工場を経営しているのだが、資金繰りが苦しく、勇一郎は縁を切りたいのだが、そこを何とかと借金をさらに申し込んでくる。早苗の友人の戸塚菊(中北千枝子)は最初、一家に離職の話を持ち込んできたのだが、後半になると早苗の再婚話のために奔走する。

 明確な悪意を抱いている人物はいないのだが、利害の衝突が次第に一家を離散に至らしめそうである。この映画の登場人物たちは最新式のアパート住まいの礼二夫妻は別として、当然のように、畳の部屋に布団を敷いて寝ており、昔の話だなぁと思うのだが、その一方で、遺産の相続と配分とか、嫁姑の同居・別居、老親をだれが引き取るかというような問題は現代にいたるまで一向に変わっていないことを考えさせる。
 
 家族の問題を取り上げた映画としてみるか、原節子と高峰秀子の共演ぶりに焦点を当ててみるかは観客の自由である。もちろん、それ以外の楽しみもあるはずである。映画の中ですでに8ミリの映画撮影機が登場し、それが物語の進行と微妙にかかわっている。自分が家事をしている姿を戯画的に移された和子が機嫌を損ねる場面は実感が出ている。(うーん、原節子と高峰秀子を比べると、私は高峰秀子の方が好きであることを告白せざるを得ない。) 蛇足までに付け加えると、映画の最初の方で礼二がポスターのための写真の撮影をする場面があり、そこでモデルの役を演じているのが、その後、日活と専属契約を結んで活躍した笹森礼子でヌードでも水着でもないのは残念(まあ当たり前の話)だが、ちゃんとセリフがあるので、注意してみてほしい。
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