ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(3-1)

9月27日(火)晴れ

 煉獄山の頂上にある地上楽園から、ベアトリーチェに導かれて飛び立ったダンテは、天国の一部である月に到達する。ダンテが月の表面に見える明暗がなぜ生じるのかを問うたのに対し、ベアトリーチェは神から伝えられた力の違いによるのだと回答を与える。

かつて私の胸を愛で温めてくださったその太陽は、
私に対し、立証と反証を行って、
美しい真理のさわやかな容貌を明らかにされた。
(48ページ) そして、ダンテはすぐに、自分の理解と感謝の気持ちをベアトリーチェに伝えようとしたが、

しかしある光景が現れて
私がそれに見入るよう心を惹きつけたため、
告白を忘れてしまった。
(同上) その光景とは、

まるで滑らかで透明なガラスを通して、
あるいは水底が見通せぬほどには深くない
澄んだ静かな水を通して、

私達の顔の輪郭が、私たちの瞳へと、
色白な額に飾られた真珠ほどにも
はっきりしないおぼろな姿で戻ってくる。

それと同じようにおぼろだが、話したそうな顔をいくつも私は見た。
(48-49ページ) これらの姿は、鏡に映った姿だと思ったダンテは後ろを振り返るが、何も見えなかった。そこでベアトリーチェの方を向くと、彼女はダンテの前に表れているのは月天の魂たちであるという。「はっきりしないおぼろな姿」であるのは、彼らの力が生前に神から与えられた力を十分に発揮しなかったことを暗示している。そして、ベアトリーチェは魂たちに話しかけてみるように言う。

そこで私は、誰より話したがっているように
見える影に向き合うと、それから
望みがありすぎて混乱している人の様子で話しはじめた。
(51ページ) 

 その魂は、「・・・
私は現世では修道女だった。
もしもあなたが自分の記憶をたどってみれば、
私がさらに美しくなってはいても、

見紛うことなくピッカルダだと分かるはず。
祝福されたこれらの人々とともにここに置かれ、
最も遅くめぐるこの天空で祝福されている。

私達の思いは、精霊の望みに合うように
燃え立たされているから、
その方の秩序に応じていることに喜びを感じるのよ。

これほど低く見えているこの境地ではあるけれど、
これが私達に与えられたのは、なぜなら私達が誓願を
おろそかにし、どこかしらが足りなかったから」。
(52-53ページ) その魂は、生前修道女であり、死後形相だけになったので生前の姿よりさらに自分らしい姿になり、美しくなったといったのちに、自分はダンテの詩友であるフォレーゼ・ドナーティの妹であるピッカルダと名乗る。ダンテはフォレーゼが煉獄の第6環道(煉獄篇第23歌)で飽食の罪を清めている姿を見ていた。さらにフォレーゼとピッカルダの兄であるコルソ(1250頃‐1308)は、ダンテをフィレンツェから追放したフィレンツェ政界の重要人物であったが、煉獄篇第24歌でその最後が予言されている(『神曲』は1300年に起きた出来事として描かれているが、実際に執筆されたのはもっと後で、コルソの死は事後予言なのである)。さらに、ピッカルダはダンテの妻ジェンマの従姉妹であった。彼女が月天にいるのは、自分が神に対して立てた誓いを破った、つまり誓願を果たさなかったからであるという。

 ダンテは、相手が親友の妹ピッカルダであることを知り、すでに、ピッカルダがダンテの質問を先取りして自分の事情を話しているにもかかわらず、
「・・・
だが私に教えてほしい。ここで幸せにしている君達は、
もっと神を見るため、さらに近しくあろうとして
より高い場所を望みはしないのだろうか。」
(54ページ) 相手が親友の妹だからということで、かなり聞きにくいことを聞いているが、ピッカルダの答えは、彼女のこれまでの発言と変わらないものである(その具体的な内容についてはまた次回)。

 いよいよ天国の魂たちとダンテとの交流が始まり、物語が動き出す。 
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