『太平記』(125)

9月23日(金)雨が降ったりやんだり

 中先代の乱を平定して鎌倉に入った足利尊氏は、配下の武士たちから将軍と呼ばれた。また関東管領として新田一族の所領を彼らに分け与えたことで、尊氏と義貞の中は険悪になった。建武2年(1335)10月、鎌倉の尊氏のもとから、義貞を誅罰すべしとの奏状が朝廷に届けられた。それを知った義貞も、尊氏追討の奏状を上奏した。公卿僉議が行われたが、護良親王殺害の一件が朝廷の知るところとなり、また尊氏が諸国に発した将軍御教書が進覧されたことで、後醍醐天皇は尊氏討伐を決意された。11月19日、新田義貞は朝敵追討の宣旨を賜り、同日、官軍の大手・搦め手の軍勢は東海道と東山道を下った。鎌倉では、直義が兄尊氏に出陣を促したが、尊氏は天皇に恭順の意を示すべきだとして取り合わなかった。23日、直義は上杉らの勧めで出陣したが、27日、三河国矢矧の合戦で軍勢の数では上回っていたにもかかわらず敗れた。

 日がすでに暮れてしまったので、合戦はまた明日のことになるだろうと、足利勢は矢作川の東に陣をとっていたのであるが、何を思ったのであろうか、ここでは不利であると、その夜、矢矧から退却して鷺坂(静岡県磐田市匂坂)に陣を構えた。(前回述べたように、矢作川の東側の岸は高く、急斜面になっているので、守りやすいはずである。足利勢の敗因は、義貞の計略に引っかかって、その岸から降りて、川を渡って相手方に攻め込んだことにある。そのことが自覚されていない。)

 新田勢では宇都宮公綱(楠正成と天王寺で戦ったが、その後官軍に降参していた)、仁科、熱田大宮司、愛曽(伊勢の豪族)の武士たちが6,000余騎の兵を率いて遅れて到着し、矢矧の合戦に間に合わなかったのを無念に思ったためであろうか、すぐさま鷺坂へと向かい、矢を射かけることもしないで、一斉に刀を抜いて攻め寄せたので、浮足立っていた足利勢は、鷺坂の陣を支えることもできず、足も止めずに退却したのであったが、そこに足利直義が20,000余騎を率いて到着したので、これに力を得て、手越(静岡市駿河区手越、安倍川の西岸)に陣をとった。

 12月5日、新田勢は、矢矧、鷺坂で降参した軍勢を合わせて8万余騎となり、手越河原に近づいて敵の陣営を見ると、新しい軍勢が加わったらしく、前に見た時よりもその数が多い。たとえ何万騎の軍勢が新たに加わったとしても、敵の大半はこれまでの敗戦で意気消沈した士卒である。後方の軍勢が退却すれば、敵は立て直すことができないだろう。とにかく攻撃を仕掛けてみよと義貞が下知する。そこで義貞の弟の脇屋義助、下総守護の千葉貞胤、宇都宮配下の紀姓、清原姓の党の武士団6,000余騎の軍勢で安倍川の河原を東西に17度もわたりながら戦い続ける。

 夜になると、双方ともに人馬を休め、川を隔ててかがり火をたく。月初めの月が雲に隠れて、夜すでに深く暮れていたので、義貞の方から、強い射手を300人選んで、藪の陰から敵の陣近く忍び寄り、足利勢の陣営の後ろの方をめがけて雨が降るように多くの矢を射こみかけた。(前段にあるように義貞は足利方の後方の軍勢の動きが勝敗を左右すると考えていた。) この矢の雨に数万の足利勢は驚き慌てて、後ろの方から退却を始めた。新たに加わった兵も、命知らずの勇士たちも、退却すべきではないと声を限りに軍勢を止めようとしたのだが、逃げようとする軍勢の勢いには逆らえず、鎌倉まで落ち延びていった。

 官軍は、たびたびの戦闘に打ち勝って、伊豆の国府(現在の静岡県三島市)に到着したが、足利方の武士たちの中には、旗をまき、兜を脱いで、官軍に降伏するものが数え切れないほどであった。足利方であった宇都宮貞泰は、一族の惣領の公綱が義貞軍にいるので、その縁を頼って官軍に加わる。佐々木道誉は、弟の貞満と家臣の奴賀四郎が手越で戦死しただけでなく、手勢も少なくなったので、しばらくの間謀をめぐらして義貞の先陣として馬を進めていたが、敗走していた士卒を寄せ集めて、また500余騎になったので、箱根の合戦の時に、取って返して、また足利方として戦ったのであった。

 ここまでのところでは新田義貞の作戦がことごとく当たり、足利方を圧倒している。足利方は尊氏に戦意がないうえに、それ以外の上層部、直義、細川和氏、上杉憲房、高師直、佐々木道誉の足並みがそろっていない。戦局の有利・不利を見て、足利方から新田方に寝返る士卒も少なくない。手越の戦いの後では佐々木道誉までがいったん、新田方に降参したふりをした。新田方はこれまでのところ、数は少ないが、意思統一も取れ、義貞の指示も守られていたが、これから、怪しげな味方が増えてくるのがかえって不安材料である。 
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