だれかの木琴

9月17日(土)晴れたり曇ったり

 シネマート新宿で『だれかの木琴』(東陽一監督)を見る。

 専業主婦である小夜子(常盤貴子)は、警備保障関係らしい会社に勤める夫と中学生の娘の3人暮らし。最近、郊外の新居に引っ越してきた。新しい土地で見つけた美容院で少し髪を切る。彼女を担当した海斗(池松壮亮)という若い美容師からその日のうちにお礼の営業メールが届く。ふつう、この種のメールには返信しないものだが、彼女は返信する。

 彼女の夫は営業担当なのだろうか、オフィスの外で走り回っている。中間管理職で今のところ仕事は順調のようであるが、その分、小夜子は置き去りにされている。中学生の娘も学校で忙しい様子である。そんな中で小夜子は海斗に何通もメールを送り、たびたび美容院を訪ねて彼を指名する。彼がふと漏らした言葉から、そのアパートを突き止めて呼び鈴を押してしまう。

 海斗には唯(佐津川愛美)という付き合っている女性がいて、小夜子が海斗のアパートを訪れた時も一緒であった。海斗は唯に、小夜子の中学生の娘が美容院に出かけ、母親と間違えたことから、娘の髪も切ったことを話したらしい。この辺りまでは笑い話ですむことであったかもしれない。しかし、小夜子が唯の職場に出かけておそらくは着ることがないだろう高額のワンピースを買ったり、その服を夜中に海斗のアパートの戸口に置いたりということになると、話は違ってくる。その前に、海斗に髪を短く切ってもらった小夜子は、海斗と唯の行きつけの居酒屋で唯と騒動を起こし、顔にけがをしたりする…。

 小夜子の住む家は警備過剰のところがあって、彼女はしばしば警報に悩まされる。しかし、外敵の侵入よりも彼女が体調を崩したり、孤独に苦しんだりすることのほうが問題なのではないか。彼女の娘が父親に言う、鍵があればそれで大丈夫じゃないかというのはその意味で的を射た意見である。とはいえ、小夜子が海斗を追いかける事件と並行して、美容院の周辺で頻発している放火事件の顛末も描かれている。だから警備が無駄だとは言えないのである。その一方で、小夜子の夫の浮気も描かれる。夫婦がそれぞれ別の方向に突っ走りかけているという危機について、一番よく察知しているのは娘のようである。

 『だれかの木琴』という題名は、ヒロインが子どものころに見かけた、誰もいないように見える大きな家の中で、小さな女の子が1人で木琴をたたいている音を聞いたという記憶に基づいている。この記憶がどの程度正確なものかはわからない。映画は時々、登場人物の一方の側から描いた場面を、他方の側から描きなおして、観客に注意を呼びかけることをしている。実はこの映画は、海斗がアパートで朝を迎える場面から始まっているのだが、海斗が和風の食事にこだわっているのに対して、小夜子が家族のために洋風の食事を作っているのも2人の意識の微妙なずれを示すものであるかもしれない。それでも、警報音や雑音の多いこの映画の中で、ヒロインが音楽というよりも音楽以前の音にこだわっているのは、郷愁だけの問題ではないようである。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR