ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(1-2)

9月5日(月)晴れ、残暑厳し

 地球のまだ未知の部分であった南半球にそびえる(とダンテが想定した)煉獄山の頂上(つまり、天に最も近い部分)にある地上楽園に達したダンテは神の恵みの象徴であるベアトリーチェと出会い、彼が俗界で犯してきた罪を清める。こうして彼は天国を訪問するのにふさわしい状態となる。
 『天国篇』はダンテが天国を訪問した後に、地上に戻って書かれたという形をとっている。したがって、最初の方で自分が天国のことを正確に記憶しているかどうか心もとないが、全力で取り組むと述べる。そして『天国篇』を書きあげるために、古典古代の異教神であったはずのアポロンの助けを求める。これはルネサンス的な古典復興の気持からではなく、キリスト教と古典古代の文化の融合を目指そうとするものであったと解釈できる。
 地上楽園に降り立ったベアトリーチェは(神の光を象徴する)太陽を見つめ、その影響でダンテ自身も太陽を見ているうちに、自然に、気づかないまま飛翔していた。

 ダンテの考える(プトレマイオスの天動説的な宇宙観を下敷きにした)世界の中では、神は時空を超えた不動の至高天にいて、他の天体に神への渇望を持たせて回転運動をさせ、その運行の中で、神の完全性を表現する調和の音楽を奏でるとされていた。この音楽が聞こえるのは、ダンテに神的な力が備わったからである。そして、太陽の光が空に大きく広がっているのが見えた。
太陽の炎によって燃え上がる
空の広がりが私の前に現れた、雨も川も
これほど大きな湖をなしたことはなかった。

聞いたこともない調べと巨大な光は、
その原因への探究心を私のうちに
かつて感じたことがないほど強く燃え上がらせた。
(25-26ページ)

 ダンテが音楽や太陽の光の広がりの理由を知ろうとしているのを見抜いたベアトリーチェは彼がすでに地上楽園から飛び立っていることを教える。ダンテは、肉体をもつ彼がそれより軽い空気や火を越えて昇っていけるのか疑問に思い、それを彼女にたずねる。
 彼女は、森羅万象はすべて神によりそれ固有のあり方を与えられて作られ、かつ完璧な調和を保ち、その調和こそが神の似姿としての宇宙の「形相(この場合は本質)」であり、知性を持つ人類や天使は、その造られ方の中に神の創造の神秘を感得すると述べた。
高等な被造物たちは永遠の徳の刻印を
この秩序の中に見ています。この徳こそが、
今触れた創造の原理が志向するように整えられている到達点です。

森羅万象は、私の言う秩序の中で、
多様なその宿命、すなわち根源により近いか近くないかにより、
それぞれが固有の傾向を帯びています。

ゆえにどれもみなそれぞれ異なる港を目指して
与えられた本能に動かされて
存在の大きな海を進んでいます。
(28ページ) 地上の事物への間違った愛を、地上楽園で矯正したダンテは高等な被造物(人間と天使)としての神へと向かう本能に動かされて、天国へと昇っているのだという。

被造物は時にこの進路から
離れ、このように後押しされているにもかかわらず、
別の方向に逸れていく可能性を持っているのは真実です。
(30ページ) 神の似姿として、神に向かうように造られていても、道を踏み外す人間がいるのは確かである。とは言うものの、ダンテはその罪を清めているのだから、天に向かって上昇していても、それは川の水が高いところから低いところへと流れているのと同様に、不思議ではないことなのであるという。

ここで彼女は再び視線を空に向けられた。
(31ページ) ここで『天国篇』第1歌は終わる。

 ダンテはプトレマイオスの天動説にしたがって宇宙を描き出しているので、宇宙の中心にあるのは地球であり、月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星、恒星がその周辺を回っていると考えた。これまで読んだところでは、地球の内部に地獄があり、南半球に煉獄があった。これから月をはじめとする天界をダンテは歴訪するが、それぞれが天国の中に位置づけられている。
 宇宙の音楽という考えは、ピュタゴラス(派)が言い出したことで、それはプラトンに継承され、宇宙の数的な調和の中で音楽が演奏されているといい、それゆえ、中世・ルネサンスの大学では音楽が教養課程のカリキュラムの重要な一部を構成していた。翻訳者である原さんは、「西欧の大学で音楽美学が講座を持つのに対し、演奏する音楽の講座がない」(509ページ)のは、この伝統に基づくと書いているが、英国の大学では文学部に音楽科があって、演奏も教育している例があった。
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