アガサ・クリスティー『蒼ざめた馬』

4月17日(水)曇り

 『蒼ざめた馬』(The Pale Horse)はクリスティーが1961年に発表した彼女の52篇目の長編小説である。『ひらいたトランプ』(4月5日)で書いたように、この作品はポアロもマープルも登場しない代わりに、ポアロを主人公とする作品にしばしば登場する女流推理作家のアリアドニ・オリヴァと、マープルが登場する『動く指』に登場していたケーレブ・デーン・キャルスロップ牧師夫妻が姿を見せている。さらに『ひらいたトランプ』のデスパート少佐がアン・メレディスの友人であったロウダ・ドーズと結婚しており、ロウダは物語の主要な語り手で探偵役のマーク・イースターブルックの従姉という設定になっている。クリスティーの作品を多く読めば読むほど面白さが増してくるという性格の作品である。

 『蒼ざめた馬』はこの作品中に登場する古ぼけた館の名称で、もともと旅館であったときの屋号と<蒼ざめた馬>を描いた看板とを残す、普通の住宅になっている。しかしその中に住んでいる人たちにはどこか疑わしいところがある。

 物語は原稿執筆のためにチェルシーに部屋を借りているイースターブルックが、立ち寄ったコーヒー店で2人の若い女の喧嘩を目撃する場面から始まる。一方が他方の髪の毛をごっそりと引き抜く。その1週間ほど後になってイースターブルックは髪の毛を引き抜かれていた若い女が死んだことを新聞で知る。喧嘩の直後に店員から彼女の名を聞いていたのである。イースターブルックは教会の募金活動への協力を依頼にオリヴァ夫人のもとを訪れた折に、この話をする。

 ある霧の夜、ロンドンのある下宿屋である女性の臨終に立ち会い、その告白を聞いた神父が帰り道で撲殺された。彼は靴の中に奇妙な紙切れをもっており、その紙切れには9人の名が書き連ねられていた。その9人には何のつながりもないように思われたが、そのうち数人は既に謎の死を遂げていた。

 イースターブルックは劇場からの帰りのおしゃべりの中で<蒼ざめた馬>という言葉を耳にし、翌朝にオリヴァ夫人からの電話でまた募金を行う教会の近くにある<蒼ざめた馬>という名の館の存在を聞かされる。友人である医師のコリガンから最近起きた怪事件について聞き、興味を持ちはじめる。教会に出かけたイースターブルックは<蒼ざめた馬>に住む3人の女が魔法で人を呪い殺すという噂を耳にする。一連の事件とこの館は関係があるのか。

 謎解きよりも物語の展開を支える雰囲気づくりに興味がわいてくる作品である。いかにも邪悪な人々と、善良な人々、その間の人々が入り混じって不思議な人間劇を展開している。「蒼ざめた馬」は新約聖書の黙示録6-8に出典をもち、物語の終わり近くでデーン・キャルスロップ夫人がこの個所を読みあげる場面があるが、その意味については読者の自由な解釈に委ねられていると考えてよかろう。『マクベス』の3人の魔女についての言及についても見られる。英語世界の3大ベスト・セラーというと聖書とシェイクスピアとアガサ・クリスティーの作品だと言われるが、これはそのクリスティーが他の2者に言及している作品だという点でも読む価値がある。
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