お嬢さん社長

8月21日(日)曇り

 横浜シネマ・ベティで「ひばりチャンネル」第78回の『お嬢さん社長』の上映を見る。この企画で、この作品を見るのは2回目である。美空ひばりが歌に踊りに活躍するこの作品は、昭和28(1953)年12月29日に封切られた松竹の正月映画である。ひばりの愛称の「お嬢」はこの作品がきっかけとなって定着したものだそうである。この後、ひばりは東映と専属契約を結び、映画スターとして新たな一歩を歩みだすことになる。また、この作品を監督した川島雄三と、出演者の1人である月丘夢路は間もなく日活に移った。いろいろな意味で、区切りとなる作品である。

 16歳の大原マドカ(美空ひばり)は日本一乳菓という製菓会社の社長の孫娘である。祖父の溺愛を受けて育った彼女はわがままいっぱいで、今日もSKDの男役スターである江川滝子(本人)を連れ出してゴルフを楽しみ、開演時刻に間に合いそうもなくなった彼女をタクシーで国際劇場に送る。劇場の舞台監督をしている秋山五郎(佐田啓二)は彼女が人気スターを独り占めしようとするわがままさを批判する。マドカは彼の言葉に心を改め、浅草の稲荷横丁の秋山の住まいを訪ね、そこで幇間の三八(桂小金治)、インダストリアル・デザイナーの並木啓吾(大坂志郎)、近所に住む娘の森川菊子(小園蓉子)たちと知り合う。三八の師匠である一八(坂本武)は、マドカの後姿を見て、何か気にかかることがある様子である。

 日本一乳菓はマドカの祖父小原重三郎(市川小太夫)がワンマン社長として君臨し、薄利多売をモットーとして経営してきた。経理部長である赤倉(清水一郎)が社長の方針に不満を漏らしたために解任し、その後任としてくしゃみをする癖が抜けない貝谷鉄太郎(有島一郎)を据える。貝谷の娘である由美子(月丘夢路)は社長の秘書である。重三郎は自分の血圧が高く、体調が思わしくないことから、孫娘を社長にしようと考えているのだが、肝心のマドカは歌が好きで、歌劇スターを夢見ている。実は彼女の母親は歌劇のスターだったのである。

 水上バスで浅草に出かけたマドカは案内放送をしていた菊子に呼び止められ、稲荷横丁に出かける。秋山と再会した彼女は、自分も母のようになりたいという夢を語るが、秋山は相手にしない。そこでマドカは演芸大会に飛び入りで出場して自慢のうたをうたい、秋山を納得させるが、その時、祖父の重三郎が倒れたという知らせが入る。急いで駆け付けたマドカは社長に就任するように言われ、渋るが、由美子が会社は新しい力を必要としているといって、彼女を説得する。(ここで、マドカは「皇太子さまです」というのが、現天皇の皇太子時代の人気というのを思い出させて、奇妙に納得した場面である。あの頃、『平凡』だの『明星』だのという雑誌には、「皇太子さま」の記事があふれていたものである。)

 社長に就任したマドカは、由美子の助言もあって、社員が昼休みに歌を歌うことを提案する。こうして社内の空気は少し明るくなったが、その一方で、重三郎に首にされた赤倉は会社の乗っ取りをたくらみ、専務の安田(多々良純)らと謀議を凝らしている。貝谷経理部長もその仲間に引き込まれているのを、由美子はうすうす気づき始める。
 様々な書類に社長印を押してばかりいるのに飽きてきたマドカは少しずつ社長業に目覚め始め、不審に思った書類を並木に点検してもらう。そして、並木を社員に採用して、経営戦略の見直し、テレビを利用した宣伝活動を展開することを提案・実行する。テレビの『日本一アワー』という番組に社長自らが歌手として出演し、視聴率を稼ぐのである。その演出にあたったのは秋山である。こうして、経営の革新を図るマドカに対し、専務の一派もさまざまな手を用いて妨害活動を行い、会社の乗っ取りを画策する。・・・
 
 この後に制作されるひばり主演の時代劇のかなりの部分がそうであったように、この映画の物語の大筋は、「お家騒動」であり、さらに、これにマドカは彼女の父が、一八の娘であった歌劇スターとの間に設けた子どもであるという出生の秘密と、会社社長と幇間という2人の祖父の間の確執がもう一つのストーリーを作る。(さらに、マドカの秋山に寄せるほのかな恋心と、秋山と由美子の間の恋、さらには並木と菊子の間の恋の行方も絡む。) 物語の作り方は、このように伝統的な手堅い構造をもっていて、その中で新旧の対立が語られているわけである。こうした物語の進行の随所にひばりの歌がはめ込まれていて、川島の右腕であった脚本の柳沢類寿の構成に感心する一方で、川島監督が実景とセット撮影とを組み合わせながら、時代の風俗を巧みに描ききっていることも注目したいところである。

 はじめにも書いたが、これが松竹で製作された最後のひばり主演映画であり、その後の彼女の出演策への一つの跳躍台となる作品であったように思われる。川島の前作、『東京マダムと大阪夫人』への出演者が、「東京マダム」を演じた月丘をはじめとして、「大阪夫人」の夫役であった大坂志郎、坂本武、桜むつ子、多々良純、小藤田正一、稲川忠寛と7人に及ぶ(もっといるかもしれない)。桂小金治は川島がその師匠であった桂小文治を口説いて映画界入りさせたという、川島組の常連の1人であり、小園蓉子は『とんかつ大将』で目の不自由な若い娘の役を演じた出演歴がある(ひばりとは『リンゴ園の少女』で共演したことがある)。というわけで、川島は正月映画としてのこの作品の撮影に当たり、気心の知れた俳優を集めているようである。(大坂志郎について、高橋治がその小津安二郎論で書いていることを念頭に置けば、「気心の知れた」ということの意味がもっとよくわかるはずである。) ついでに言うと、この作品のチーフ助監督は中平康で、おそらくは彼の段取りの良さも手伝って、映画の撮影は快調に進んだものと思われる。

 おまけにつけ加えると、私はこの映画を見るために、横浜駅前から滝頭行きのバスに乗ったのだが、横浜市磯子区滝頭は美空ひばりの出身地なのである。
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