ガリバー旅行記

8月16日(火)曇り、夕方から台風7号の接近に伴ってときどき激しい雨

 『ガリバー旅行記』はベティ・ブープやポパイの生みの親として知られるフライシャー・スタジオが、ディズニーの『白雪姫』の成功に刺激されて、1939年に手掛けたこのプロダクションとしては最初の長編アニメーション映画である。16ミリのフィルムによる上映で、日本語への吹き替え版であり、プリントの劣化が進んでいて、もともとの色彩が分からないのが残念であった。

 フライシャー・スタジオの中心になっていたのは、この作品の監督を務めているデーヴと、作画を担当しているマックスのフライシャー兄弟であり、1930年代を通じてディズニーに対抗した唯一のアニメーション制作集団であった。『白雪姫』にミッキーマウスが登場しないのと同様に、『ガリバー』にはポパイは登場しない。スウィフトの原作は4部から構成されているが、この作品は第1部のリリパット(小人国)の話だけのアニメーション化であり、原作を大きく書き換えて、小人の世界に漂着したガリバーがリリパットのリトル王と同じく小人の国であるブレフューセンのボンボ王との意見の些細な食い違いから起きた戦争をやめさせ、両国の間に平和をもたらすという物語になっている。

 さらに原作にはない、リリパットのグローリー王女、ブレフューセンのデヴィッド王子、町の触れ回り役人であるギャビー、ボンボ王がリリパットに送り込んだ3人のスパイであるスニーク、スヌープ、スナッチ、ボンボ王と3人のスパイの間の連絡を取る伝書鳩のトゥインクルトー(伝書鳩に見えないのがご愛敬である)などが登場する。
 ガリバーが漂着して、海岸に倒れているのを見つけたギャビーが、大騒ぎしながら王様に知らせに行く。王様は自分の王女であるグローリーと、ボンボ王の王子であるデヴィッドの結婚式を明日に控えて、それどころではない。ところが、結婚式の日に、リリパットのしきたりに従って「誓いの歌」を歌うか、ブレフューセンのしきたりに従って「永遠の歌」を歌うかをめぐり、けんかが始まり、ボンボ王はデヴィッド王子を連れて自分の国に引き上げてしまい、戦争の準備を始める。

 そこでようやくリトル王はギャビーの報告に耳を傾け、大勢の小人たちが動員されて海岸のガリバーを縛って、車に乗せ、王宮に運ぶ。目を覚ましたガリバーは彼を縛った縄を切ってしまい、小人たちは逃げ出す。と、そこにボンボ王に率いられた艦隊が攻め寄せてくるが、ガリバーの巨体を逃げ帰る。このため、リリパットの王様と国民はガリバーに対する警戒心を解き、歓迎するようになる。

 とはいうものの、ボンボ王は戦争をあきらめたわけではなく、3人のスパイを使ってガリバーのピストルを盗ませ、ガリバーを亡きのにしようと企てる。グローリー王女とデヴィッド王子の恋はどうなるのであろうか。また、ガリバーは自分の故郷に帰れるのだろうか。ガリバーをはじめ、王子と王女などはシリアスな役どころ、ギャビーや3人のスパイは喜劇的な役どころと、登場人物の性格付けがかなりはっきり分かれているが、喜劇的な役どころの方がよく造形されているのは、『白雪姫』の七人の小人たちと同様である。とはいえ、七人の小人たちに比べると彼らの性格設定は詳しくもないし、その役柄も十分に生かされているとはいいがたい。それから、『白雪姫』には白雪姫の継母である女王という明確な悪役がいるが、『ガリバー』にはそういうそういう明確な悪役がいない。物語は誤解、すれちがい、ディスコミュニケーションから展開されてゆく。『白雪姫』の勧善懲悪の描き方の方が分かりやすいことは確かである。

 しかし、社会における対立や悪を、はっきりとした悪役を設定して描くことと、自分たちのコミュニケーションの不徹底が原因だと考えることとでは、後者の方が俗受けはしないが、社会認識としてより深いものであることは否定できない。そうはいっても、『白雪姫』と『ガリバー旅行記』ではストーリーの豊かな展開とか、登場人物の性格の掘り下げなどの点において『白雪姫』の方が優れていて、それは結局、ディズニーの方がフライシャー兄弟よりも、有能なスタッフを集めて、そのスタッフの才能を生かすのに長けていたことに依ることも確かであろう。

 この後、フライシャー兄弟は『バッタ君町に行く』(1941)を製作する。実は、私の記憶に残るいちばん古い映画がこの作品で、その後60年ほどたってこの作品を見たところ、記憶している場面があったほどで、個々の場面やそこでのギャグには見るべきものがある。物語が大人向きであり、ハッピーエンドになっているとはいっても、それほど明るい内容ではないことも手伝ったのであろうか、興行的には失敗した。(今日では、傑作という評価を受けている。) ここでも虫たちと、かれらが住んでいる庭の持ち主である作曲家の一家のコミュニケーションが問題になっていることは記憶しておいてよかろう。(この点については森卓也さんの指摘がある。) 

 『ガリバー旅行記』の後、フライシャー・スタジオは解散し、『バッタ君町に行く』が興行的に失敗したことで、フライシャー兄弟が長編アニメーション映画を製作する機会もなくなったが、今日、フライシャー兄弟のアニメーションの発展に残した功績は高く評価されている。なお、『海底二万哩』や『ミクロの決死圏』を監督したリチャード・フライシャーは、マックス・フライシャーの息子である。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR