ストリート オーケストラ

8月13日(土)晴れ

 横浜シネマ・ベティで『ストリート オーケストラ』、その後、シネマ・ジャックで『ブルックリン』を見た。ともに、人間が成長を遂げ、変化していく姿を描く作品であるが、前者は若者たちの群像が描かれ、後者は1人の若い女性に焦点が当てられている。今回は、『ストリート オーケストラ』を見て感じたことを書き留めておく。

 『ストリート オーケストラ』(セルジオ・マシャード監督)はブラジルのサンパウロのスラム街で1人のヴァイオリニストが弦楽器の演奏の指導を通じて、若者たちに音楽の喜びを知らせていくという物語である。
 黒人ヴァイオリニストのラエルチ(ラザロ・ハーモス)はサンパウロ交響楽団のオーディションの最終選考に残ったのだが、いざというときになると緊張してしまって、演奏できなくなる。子どもの時分には神童と呼ばれ、両親の期待を背負って育ってきた。どうもそのことが重荷になっているらしい。弦楽四重奏の仲間にも、イライラして当たり散らし、そのために1人が抜けて、演奏活動ができなくなる。家賃も払えなくなりかけた彼に、友人がスラムにある学校で弦楽合奏の指導をするという仕事を持ち掛けてくる。

 実際に学校に出かけてみると、生徒たちはやる気を見せない。教師の言うことを聞かず、ラエルチを「オバマ」と呼んだりして反抗的で、授業中もけんか口論が絶えない。それ以上に困ったことに、楽器の扱い方も知らない(その後、わかることであるが、楽譜も読めない)。これまでに2人の教師が担当したのだが、やめてしまったという。生徒たちの中には、サムエル(カイケ・ジェズース)のように音楽の才能を示すものがいる一方で、VR(エウジオ・ヴィエラ)のように少年院から戻ってきたばかりで、カードを使った詐欺を続けているだけでなく、スラムを支配している麻薬売人のボスの子分から借りた金の取り立てに直面しているというものもいる。もし音楽の授業をやめたら、VRは間違いなく少年院に逆戻りするだろうと校長はラエルチに言う。

 ラエルチはスラムのボスの子分につかまって演奏を強要され、パガニーニの曲を弾いて彼らを感動させ、それで少し、かれらの覚えをよくする(あとで、このことが物語の進行に意味を持ってくる)。ラエルチは、これまでの指導者に比べて優れた演奏家なので、そのことが教育を支える力になっていく。とはいえ、演奏の基礎を教えたら、やめて、また自分自身の演奏の可能性を探ろうと思っているのだが、生徒の方はだんだん、彼に信頼を寄せ始める。合奏の授業を受けているときは、自分が存在していることの意味を感じることができるというのである。

 サムエルは音楽が好きなのだが、彼の父親は昼働いて、夜勉強して、スラムから1日も早く脱出することを願っている。(音楽に専念する方が、スラム脱出の可能性は高いのだが、そのことが理解できない頑固者なのである。) それでVRの家で練習をしたりしていたが、親と衝突して、とうとう家を出ることになる。サムエルとVRが仲が良いこと、VRが非行から足を洗おうとしないことが、物語を複雑なものにしていく。

 生徒たちの技量はだんだん上がってきて、演奏会に向けて準備が進む(その間、スラムのボスの娘の誕生祝としてワルツを演奏させられたりする)が、ラエルチは再びサンパウロ交響楽団の今度はパートのリーダーのオーディションを受けることになる。モーツァルトのヴァイオリン協奏曲を演奏することになって、今度は自信をもって演奏することができた…。

 何かの理由で失意を味わった音楽家が、再起するというのは音楽映画の定番的なストーリーであるが、ここではスラムの若者たちに音楽を教えるという、これまでになかった取り組みが描かれている。これは、中南米で展開されているエル・システマと呼ばれる音楽を通じて若者たちの貧困からの脱出を支援しようとする教育プログラムの影響を受けてブラジルで展開されているバカレリ協会の音楽教育活動の実践をモデルにしているそうである。この取り組みを通じて、若者たちだけでなく、教える側のラエルチも変わっていき、失意を克服していく。変化が相互的であるのも特徴的である。(エル・システマについては、シネマJ&Bで配布されている『毎日クマ子の映画でイッパイいっぱい』215号によって知った。)

 貧困や非行について、あるいは登場人物の心理や行動の背景など、十分に描き切れているとはいいがたいが、映画のスタッフが音楽の力を信じて、映画を作っていく過程に、出演者も巻き込まれていくという感じが伝わってきて、大いに感動的である。
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