ジェイン・オースティン『ノーサンガー・アビー』(2)

7月24日(日)晴れ(とはいうものの、雲が多かった)

 イングランド南西部のウィルトシャーのフラートン村に住む牧師の娘で17歳になるキャサリン・モーランドは、年頃になって美しくなってきたが、それ以外には性格の良さだけが取り柄だという平凡な女性である。ところが、15歳を過ぎて小説を読む楽しさに取りつかれ、自分がヒロインになるような人生の冒険にあこがれるようになった。村の大地主であるアレン夫妻は子どもがいなかったので、キャサリンを可愛がっていたが、アレン氏が持病を治すために南西部の有名な保養地であるバースに滞在する際に、彼女も同行するように取り計らう。バースでキャサリンはヘンリー・ティルニーという若い牧師と知り合い、彼に惹かれる。その一方でアレン夫人の旧友で、バースで偶然再会したソープ夫人の長女で、派手な美人であるイザベラと仲良くなり、彼女と行動を共にすることが多くなる。イザベラの兄であるジョンは、キャサリンの兄ジェイムズとオックスフォード大学での学友であり、ジェイムズはイザベラに夢中になっている。それだけでなく、ジョンはキャサリンに興味があるらしいが、キャサリンは気づいていない。ヘンリー・ティルニーにはエリナーという妹がいて、イザベラとは対照的な清楚で気品のある美人で、キャサリンは何とかして彼女と親友になろうと考える。

 キャサリンは機会をとらえてエリナーと二人だけで話し合うことに成功し、二人は仲良くなる。キャサリンがヘンリーに恋していることにエリナーは気づく。舞踏会でヘンリーと踊っていたキャサリンは、年配の紳士が彼女を熱心に見つめていることに気付く。彼はヘンリーの父親のティルニー将軍であった。
 キャサリンはティルニー兄妹と散歩に出かける約束をしたのだが、ジョンとイザベラに言いくるめられてドライブに出かける。ところがドライブの途中でジョンが嘘をついていることが分かる。彼らに同行したジェイムズの馬車が遅いので、目的地に着くことができず、ドライブは終わったしまう。馬と馬車に興味があるジョンはモーランド家が馬と馬車に金を使わないのは筋が通らないと主張するが、キャサリンには彼の言っていることの意味が分からない(ジョンは、モーランド家が非常に裕福だと思い込んでいるのである)。

 翌日、キャサリンはミス・ティルニー(エリナー)を訪問して、事情を説明しようとするが、外出中だといわれる。その夜、観劇に出かけたキャサリンはティルニー兄妹に出会い、事情を説明する。劇場で、なぜかジョンがティルニー将軍と話をしていて、その後、キャサリンに将軍が彼女のことをほめていたと告げ、さらに彼女にお世辞を言い続ける。
 その翌日、キャサリンはイザベラとジョン、ジェイムズからまたもやドライブに誘われるが、必死に断って、ティルニー将軍の滞在先を訪ねる。そこで、ジョンがまたも嘘をついていたことが分かる。宿舎に戻ったキャサリンは、アレン氏からジョンとドライブに出かけるのは好ましいことではないと、彼女の行動を支持する意見を聞く。

 バースの近くのビーチン・クリフをティルニー兄妹と散歩したキャサリンは、ヘンリーが小説が好きで、自分よりも多くの小説を読み、しかもより広い視野で読み込んでいることを知る。兄妹の教養の深さを知って、キャサリンは恥じ入るが、ヘンリーはキャサリンにいろいろなことを教えることに喜びを見出したようである。
 「キャサリンは自分の無知を心から恥じた。だが実は、無知を恥じるのは間違っている。人に好かれたいと思ったら、むしろ無知であるべきなのだ。自分が何でも知っていると、相手に優越感を与えることができないし、相手の虚栄心をくすぐることができないからだ。分別のある人間なら、それは避けたいと思うだろう。とくに女性は、不幸にも豊富な知識を持っていたら、できるだけそれを隠すべきだろう。」(167ページ)

 翌朝、イザベラから手紙を受け取ったキャサリンは、彼女の宿所に赴く。イザベラはキャサリンが自分について何でも見抜いているようだというが、(純真と言おうか、鈍いと言おうか)キャサリンは彼女が何を言おうとしているのかわからない 。そしてやっと、イザベラとジェイムズが愛し合っているということだと気づくが、事態はそれよりも発展していて、2人が結婚の約束をしたことを知る。イザベラは勝手な思い込みでのぼせ上がっているところがあるが、少しばかり分別がついたキャサリンはあえて反対しないことにした。そして、小説に出てくるような出来事が身近で起きるのだと思ってうれしくなる。
 イザベラは結婚後の生活について次のような望みを述べる:
「私の望みは、ほんとにささやかなものなの… 何とか生活していけるだけの最小限の収入があれば、それで満足よ。お互いに本当に愛し合っていれば、貧乏そのものが豊かさになるわ。私は派手な暮らしなんて大嫌い。絶対ロンドンなんかに住まないわ。ひなびた村の小さな田舎家に住めたら最高に幸せだわ。リッチモンドに小さな素敵な家があるんじゃないかしら」(183ページ)
 愛し合っていれば、貧乏暮らしもいとわないという言葉の端から、古くから高級別荘地として知られてきたリッチモンドが引き合いに出される。イザベラは、人を感動させるような美辞麗句を連ねることが巧みなのだが、時々、こうしてぼろを出すように描かれている。
 2人の前にジェイムズが現れ、父母の結婚への許しを得るためにフラートンに向かうという。翌日、ジェイムズから手紙が届き、結婚への父母の承諾が得られたことがわかる。手紙が届くのをイザベラとともに待っていたジョンは、キャサリンに遠回しに求愛するが、キャサリンはそれが求愛だとは気づかない。宿所に戻ってアレン夫妻にジェイムズとイザベラの婚約について報告すると、夫妻は驚く様子を見せず、ジェイムズがバースに到着した時からこのことを予想していたといったので、キャサリンは拍子抜けする。

 さて、ジェイムズとイザベラの婚約は今後どのような経緯をたどるのであろうか。キャサリンはヘンリーと結婚するのか、あるいはジョンがキャサリンへの求愛に成功するのか、物語はこれまでのところ大きな起伏を見せないが、少しずつ変化の兆候を見せている。ソープ家の人々の言行の不一致や、首尾一貫性の欠如が明らかになる一方で、テイルニー将軍がまだまだ謎めいた存在であり続けている。作者はアレン氏を良識ある人物として描き出して、自分の意見を秘かに代弁させ、それに釣り合わない喜劇的な女性としてアレン夫人を描くことで、物語に幅を持たせている。

 キャサリンが小説の中の出来事と現実の区別がつきにくくなっているというのは、古くは『ドン・キホーテ』、19世紀では『ボヴァリー夫人』と共通する設定であるが、それほどの大波乱が起きずに物語が展開していくのが、いかにもオースティン風であるし、もう少し広げて言うと英国風、少なくとも古き良き英国の雰囲気を感じさせるのである。
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