ジェイン・オースティン『ノーサンガー・アビー』

7月22日(金)雨が降ったりやんだり

 7月21日、ジェイン・オースティン『ノーサンガー・アビー』(ちくま文庫)を読み終える。19世紀前半の英国の女流作家ジェーン・オースティン(Jane Austen, 1775-1817)はそのあまり長くない生涯のうちに6編の小説を書いた。翻訳者である中野康司さんのあとがきによると、この小説は『スーザン』という題名で、作者が22~23歳のごろに書かれ、27歳の時にロンドンの出版社に10ポンドで売られ、広告は出たものの出版はされなかった。その後も再三出版を試みたが実現せず、結局彼女の死後に兄ヘンリーにより『ノーサンガー・アビー』と改題され、1817年12月最後の長編小説『説得(説き伏せられて)』(3月2日付の当ブログで取り上げた)との合本全4巻の形で出版された。「版権が売れてから出版の実現まで苦難の道をたどったが、後年の推敲がほとんどないと推測され、…若きオースティンの作風が、いちばんストレートに伝わる作品である」(391ページ)という。

 イングランド南西部ウィルトシャーの裕福な牧師の娘として生まれ育ったヒロインのキャサリンは、上に3人の兄がいて、下に6人の弟妹がいるという家庭で、親から十分な教育を受けることもなく、伸び伸びと育つ。そのために教養も才芸もあまり身につかなかったが、15歳を過ぎて急に美貌に恵まれるようになり、また性格がよいので、誰からも愛される娘になった。ただ、彼女の欠点は小説が好きなことで、当時流行のゴシック小説を読みふけり、現実と空想の境界がおろそかになってしまうところがあった。あまりヒロインらしくない平凡な田舎の令嬢であったにもかかわらず、彼女は小説に出てくるようなロマンスにあこがれていたが、なかなかその機会に恵まれずに過ごしていると、父親の教区で一番の大地主であるアレン夫妻が近くの保養地であるバースに出かけることになり、キャサリンを可愛がっているアレン夫人が、誰か素敵な相手を見つける機会になればと考えて彼女も同行しないかと誘ってくれる。両親の赦しを得て、キャサリンは夫妻に同行することになる。アレン氏は分別も知性もある人物であるが、アレン夫人はこの夫がなぜこの妻を選んだかとみんなから呆れられるような女性で衣装道楽しか能のない軽薄な性格の持ち主である。

 バースには社交会館(アセンブリー・ルームズ)という施設があり、そこの司会進行役である儀典長がキャサリンのダンスの相手としてヘンリー・ティルニーという24・5歳の青年を紹介してくれる。キャサリンにとって幸運なことに、この青年はまずまずの美男子で、態度も申し分なかった。二人は会話とダンスを楽しみ、時を過ごす。アレン氏はこの青年がグロスター州の名門の出身で、牧師であることを知り、安心して2人を見守ろうとする。

 翌日キャサリンはティルニーに再会することを期待して、午前中の社交場であるポンプ・ルームに出かけるが、彼の姿を見つけることはできなかった。ところがアレン夫人の学校時代の友人であったソープ夫人が、アレン夫人に声をかけ、しばらく話し合ううちに、彼女の息子のジョンがキャサリンの長兄であるジェイムズとオックスフォード大学の同じカレッジに在学していることが分かる。ソープ夫人には3人の娘がいたが、そのうち一番年長のイザベラは派手なタイプの美人で、キャサリンと親友になろうと言い出す。

 二人はうわさ話をしたり、小説を読んだりして楽しく時を過ごすが、その2人の前にキャサリンの兄のジェイムズと、イザベラの兄のジョンが姿を現す。ジョンはうぬぼれ屋で馬車に異常なほどの興味を抱いているが、キャサリンに一目ぼれしたらしい。その夜の舞踏会でキャサリンはジョンと踊る約束をするのだが、会場で美しい女性(妹のエレノア)を連れたティルニーに出会い、一緒に踊る申し込みを受けたが、先約のために断らざるを得なかった。その一方でジョンはキャサリンには「お待たせしました」というだけで、すぐに馬や犬の話ばかりするので、キャサリンはうんざりする。キャサリンはティルニーの妹と友人になろうとするのだが、なかなか思い通りにならない。

 翌日、キャサリンはティルニーの妹に会おうと思っていたが、ソープ兄妹と彼女の兄が馬車でのドライブに誘いに来る。前日にランズダウン丘陵にドライブに出かけると約束していたのを忘れていたのだが、それとは反対方向のクラヴァートン丘陵に出かけるという。キャサリンは断ろうとしたのだが、断り切れず、同行することになる。キャサリンはジョンがたずなを握る馬車に乗ったのだが、彼の意味不明(に彼女には思われる)のおしゃべりに悩まされる。
「キャサリンはその生まれ育ちのゆえに、おしゃべりな人間の癖を知らないし、過剰な虚栄心をもった人間が下らない主張をしたり、恥知らずな嘘をついたりすることを知らなかった。キャサリンの両親は、ごく平凡な現実的な人たちで、機知を楽しむ習慣はなく、父親はときどき駄洒落を言う程度だし、母親はときどきことわざを口にする程度だった。だから彼女の両親は、自分を偉く見せるために嘘をついたり、いまこう言ったのに次の瞬間に正反対のことをいったりするはいっさいなかった。」(92ページ)
 世慣れない彼女ではあったが、キャサリンはジョン・ソープが実に不愉快な人物だとはっきり自覚する。

 ジョン・ソープはキャサリンに興味をもっているが、アレン夫妻に子どもがいないこと、彼女がその財産を受け継ぐ可能性があるかどうかを嗅ぎまわるなど、感情高いところを見せている。キャサリンはティルニーに思いを寄せているが、かれにはまだ謎の部分が多い。彼女はこれからどのように自分の気持ちをまとめていくのであろうか。

 地方に住む裕福な家庭(地主か牧師)の娘が同じような社会階層の男性(たち)と出会い、衝突やすれ違いを経て、最後にはふさわしい相手と結婚するというオースティンの6編の長編小説に共通するストーリーが展開される。物語の進行は全体にのんびりした、起伏の少ないものであるが、その分登場人物の心理や性格が細かく描写されている。とはいうものの、6編の小説にはそれぞれの特色があって、特にそれの小説のヒロインの性格の描き分けは見事であるといわれる。この作品におけるキャサリンは人生経験が浅く、それに加えて少女時代に勉強を怠ったため無知で、この後どうなるかが心配なところがある。今回は、まだ全体の3分の1ほどしか紹介できなかったが、もう少し物語を紹介したうえで、この作品について本格的な論評を行うつもりである。
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