ダンテ・アリギエリ『神曲 煉獄篇』(31-3)

7月17日(月)晴れ、暑し。

 煉獄山の頂点にある地上楽園に達したダンテは、彼の旅を計画していた神の恵みの象徴=ベアトリーチェと出会う。彼女は、ダンテの最初の作品である『新生』のヒロインでもあった。10年前に、若くして世を去った彼女は、自らの死後に、ダンテが進むべき道を踏み外して人生の暗い森にさまよいこんでいたことを責め、罪の悔悛を迫る。ベアトリーチェに彼が何を裏切ったのかをよく理解するように、自分の姿を見るように言われ、ダンテが顔を上げると、キリストを象徴するグリフォンを見つめるベアトリーチェの姿が目に入った。ダンテは心からの悔悛を行い、それまでの思想と詩と人生を振り返って、神の道からの逸脱が受ける罰について考え、己自身の罪を悔いて気敵を失った。
 彼が目を覚ますと、地上楽園で彼が最初に出会った貴婦人が彼をレーテの水に漬けていた。洗礼を思わせるようにレーテの水の中に漬けられ、生まれ変わるかのように罪が払われることを歌う「私を清めてください」という声が聞こえ、ダンテは罪を払われてレーテの向こう岸、ベアトリーチェ、つまり<神の恵み>のいる側に渡った。

 渡り終えたダンテを人間の倫理に対応する4つの枢要徳=賢明、剛毅、中庸、正義を象徴する4人の貴婦人たちが彼をベアトリーチェのところに連れていこうとする。4人は、ベアトリーチェの地上降臨の前からその侍女となるべく決まっていたと語るが、これは人類に真理の啓示が与えられる前から、枢要徳は神慮によりそれに仕えるよう定めらえていたと解釈されるという。つまり、キリストの降臨する前から人間には道徳性が与えられていたということが詩的に語られているということである。そしてまた、これは歴史的に見れば、キリスト誕生の準備が異教のローマにおいて、枢要徳の働きによりなされたということであるという。
「・・・
あの方の瞳の前まであなたを連れていきましょう。けれども瞳が宿す
歓喜の光の中で、あなたの視力を鋭くするのは
向こうにいる三人。彼女たちはもっと深く見通せるのです」。

歌いながらこう話しはじめた。そして次に
グリフォンの胸の前に彼女達自ら私を連れて行った。
そこではベアトリーチェが私達の方を向いていらした。
(466ページ) 「向こうにいる三人」は対神徳である慈愛、希望、信仰の象徴である。人間はこれらなしでは真理を受け取ることができない。

彼女達は言った。「視力の限りを尽くしなさい。
私達は、かつてそこから愛があなたを武器で射抜いた、
エメラルドの瞳の正面にあなたを置きました。」
(466-467ページ) ベアトリーチェの瞳はエメラルド色であるが、これは希望を象徴する色であり、また<奥義を知ること>という意味をベアトリーチェに与えるものであるという。

 ベアトリーチェが死んでから10年の間の思いを込めて、ダンテはベアトリーチェの目を見ようとする。
炎よりも熱い幾千もの望みが
わが目をそのきらめく目に結びつけた。
それはひたすらグリフォンだけに向きつづけていた。

まさしく鏡の中の太陽、それとまったく同じように
二重の種の生物はその瞳の中で、
今は片方の種の姿、次にはもう一つの種の姿を見せながら光を放っていた。
(467ページ) ダンテに視線を移そうとせず、ベアトリーチェは自分の目の前のグリフォンだけを見つめ続ける。グリフォンは胴体が獅子、首が鷲という空想の動物であるが、それがあるときは黄金の鷲、ある時は白に赤の混じった獅子と姿を変え続ける。それは神であり、人でもあったキリストを象徴する姿である。

 ベアトリーチェの目の前にいるグリフォンはその姿を変えないのに、彼女の瞳の中の像は姿を変えていることにダンテは驚く。そしてキリストの神性と人性が一体になっていることを知る。
 すると、対神徳を象徴する3人の貴婦人がベアトリーチェに、彼女の面紗を取って、素顔を見せるように懇願し、彼女は素顔とその微笑を明らかにする。ダンテはその美しさに言葉を失う。

おお、永遠の命の光が放つ輝きよ、
パルナッソス山の森にこもって
青白くなるほど努力し、あるいはその詩泉の水を飲んだとて、

あなたを描こうとすれば、
知性が至らぬと思われぬものがいるだろうか。
空が調和を奏でながら、いわばあなたの気配を描き出している場所で、

広がる大気の中に面紗を脱いだその時に現れた、そのままのあなたを。
(469ページ) ベアトリーチェの微笑みは肉体的なものではなく、神的な何かの顕現であった。その美しさを描き出すためには、詩のあらゆる技法は無力である(と言いながら、ダンテはしぶとく、詩行を重ねていく)。こうして31歌は終わる。
 
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