黄線地帯 イエローライン

6月26日(日)晴れたり曇ったり

 6月23日、神保町シアターで「天知茂――ニヒルの美学」特集上映から、『女真珠王の復讐』(1956、新東宝、志村敏夫監督)、6月25日に、同じく『黄線地帯 イエローライン』(1960、新東宝、石井輝男監督)、『恋愛ズバリ講座』(1961、新東宝、オムニバス作品:第1話:三輪彰、第2話:石川義寛、第3話:石井輝男監督)を見た。ここでは主として、この中で最も注目すべき作品であると思われる『黄線地帯 イエローライン』について取り上げる。主な舞台が神戸であるこの作品について、神戸出身の映画評論家である淀川長治が好意と批判を織り交ぜた論評を当時の『キネマ旬報』誌に発表したという話であるが、あいにく、その批評は目にしていない。作品の舞台は神戸なのだが、実際には横浜でロケをしたという話で、私は横浜育ちである。横浜といえば、同じ1960年に石井輝男は横浜を主な舞台とした『黒線地帯』という映画を手掛けており、こちらは既に見ている。

 『黄線地帯 イエローライン』は、『黒線地帯』が白黒であったのに対し、カラーで撮影されており、それが効果を上げている場面がいくつかある。東京で税関長の会議があり、それに参加するために上京してきた神戸の税関長を殺害してほしいという依頼を受けた殺し屋が、殺害に成功するのだが、実は麻薬の密輸入にかかわっている連中がそれに対して厳しい態度をとる税関長の殺害を依頼したのである。依頼主に裏切られた殺し屋(天知)は、復讐を誓い、神戸に向かおうとしていたダンサー(三原葉子)を人質に取り、東京から逃げ出す。ダンサーの恋人である記者(吉田輝雄)が2人の後を追い、税関長殺人事件、神戸に存在すると噂される黄線地帯(外国人船員たち向けに日本人の女性をあっせんする売春組織)、そしてダンサー誘拐の謎を解こうとする。

 殺し屋とダンサーは神戸のカスバに逃げ込む(脚本も担当している石井らしい設定であるが、当時、神戸にこのような地域があったかどうかは不明)。ダンサーは一方で脳天気なところを見せながら、何とか外部と連絡を取ろうと様々な策を弄する。その一つ、メッセージを書き込んだ百円札をたまたま手にしたOL(三条魔子)は、黄線地帯に目をつけられていて、誘拐される。手間取りながら(そうでないと話が持たない)、記者は事件の真相に次第次第にたどり着く…。

 物語の展開はさておいて、冒頭の殺人の依頼主のクロース・アップとか、一種の迷宮である『カスバ』の幻想的な描写とか、神戸港(実は横浜港)のドキュメンタリー風の描写などに石井らしさが出ていると思うのだが、私は石井が『黒線地帯』で見せた同時代の横浜港周辺をドキュメンタリー風に(製作費が限定され、短時日で撮影されることを要求された映画作品であるが故の怪我の功名かもしれないのだが)とらえた演出が忘れられず、その分、いかにも作り物めいた(実際にセット撮影だそうである)神戸のカスバの場面には疑問が残る。この場面に城米彦造(私が敬愛する詩人の1人である)の亜流みたいな詩を売る詩人が登場するのには、あまり腹が立たないのであるが…

 カラーであること、三原葉子の演技と魅力に磨きがかかっていることは『黒線地帯』に比べてこの作品の長所であるが、その一方で狭い個人的な趣味にのめりこんで映画を作るという性癖が、より多く前面に出ているようにも思われる。石井輝男の新東宝時代の作品には見るべきものがあるが、次第次第に自分勝手な美学にのめりこんでいった作家という印象をぬぐい去ることはできない。

 残る2作品について少しだけ:
 『女真珠王の復讐』は、ある貿易会社の社長秘書・香川夏岐(前田通子)が専務(藤田進)の陰謀で自分の恋人(宇津井健)が社長殺害の犯人であり、自分も共犯者にされる。専務に随行して東南アジアに向かう途中でこのニュースを知り、彼女をわがものにしようとする専務の手から逃れて、ある島に漂着する。島には、同じく漂流した5人の漁師たちがいて、その中で彼女をめぐり争いが起きるが、彼女を守ろうとした2人の漁師(沢井三郎、天知茂)が生き残り、やがて島の海底から豊かな真珠を見つけて、巨万の富を築く… 死刑を宣告された自分の恋人を救い出そうと、彼女は女真珠王ヘレン南と名前、姿を変えて日本に戻る…
 南の島で、夏岐のふんする前田通子がオール・ヌードになる場面が話題を呼んだ。豊かな胸と、脚線美を持つ前田のヌードは印象に残るが、それを除くと、物語がいかにもご都合主義的に構成されており(そんなに簡単に天然真珠が採取できるわけではなかろう…)、前田のヌードを生かし切っているとはいいがたい。新東宝は、この後、同じようなエロティック・サスペンス映画を何本か製作することになるが、そのあとを受けて同じような作品を製作する映画会社はなかった。この点についていえば、この作品が曲がりなりにも<女性の勝利>を描いている点が重要であろう。

 『恋愛ズバリ講座』は1961年の(そして新東宝最後の)正月映画で、白黒で撮影されていることからも、この当時の新東宝の財政事情が垣間見られる。3話からなるオムニバス映画で、第1話はケチを信条とする男女2人の社長が、見事に騙されて財産を奪われるという話。男性社長を天知が演じている。第2話は原子力発電所の立地をめぐり、建設省から役人が来るというので、ある村が総出で歓迎体制を敷くが、村長の娘(池内淳子)の恋人(菅原文太)がやってきたのを役人と間違えて、騒動が起こる。第3話は結婚詐欺師(沖龍次)が狙ったカモの幼稚園の先生(三原葉子)が意外にしたたかであったという話である。正月映画として、このようなストーリーがふさわしいかどうかは疑問で、第2話をもっと膨らませて、明るく楽しく締めくくる方がよかったのではないか、そういうことが思いつけないほど、新東宝という会社が全体として追い詰められていたのかということを考えさせられる。今から思えば、まだ娘役だった池内淳子と、菅原文太が恋人同士の役どころを演じるというのは見ものであり、大空真弓が最後のほうでバスの車掌として登場するのも見逃しがたい。なお、新東宝の労働組合の最後の委員長が天知茂だったそうである。天知茂だけでなく、新東宝にはほかにも多彩な個性をもった俳優がいたのに、それぞれの潜在的な可能性を十分に生かしきれなかったのは残念だなぁという月並みな感想を抱きながら、これらの作品を見ていた。

 『女真珠王の復讐』の上映は終わったが、『黄線地帯』、『恋愛ズバリ講座』は、『あぶく銭』(1970、大映、森一生監督)、『孤独の賭け』(1965、東映、村山新治監督)とともに7月1日まで上映される(4本立てではなくて、1本ずつの上映なのでお気を付けください)。「天知茂 ニヒルの美学」の特集上映は7月8日まで続くので、興味のある方は、上映スケジュールを調べてみてください。 
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