宮下奈都『終わらない歌』

6月1日(水)曇り後雨

 5月31日、宮下奈都『終わらない歌』(実業之日本社文庫)を読み終える。5月17日付の当ブログで取り上げた『よろこびの歌』(実業之日本社文庫)の続編である。

 一次志望の高校の入試に落ちたとか、この学校なら特待生で授業料が免除になるとか、伝統のない学校のほうが気が楽だとか、それぞれあまり芳しからざる理由で比較的新しい学校である私立明泉女子高等学校に入学し、1年がたって偶々2年B組に所属することになった女子高生たちが、担任が音楽の先生であったこと、クラスの中に有名な音楽家の娘で声楽の道を志している御木本玲がいたこと、さらに玲の母であるヴァイオリニストの御木本響の演奏を聞いてすっかり音楽にのめり込むようになった原千夏がいたことにより、玲を指揮者、千夏をピアニストにして、校内の合唱コンクールに出場するが、全くまとまりのない歌唱をしただけで終わる。ところが、その後の校内マラソン大会でレイが再起をふらふらになって走っているのを励まそうと自発的に合唱が起き、それを聞いていた担任が卒業生を送る会でもう一度同じ歌を歌うようにと促す・・・。

 以上が(だいぶ省略したが)、『よろこびの歌』のあらすじであるが、『終わらない歌』は2年B組の生徒たちが卒業して、2年ほどたったところから始まる。6章からなるこの物語は、7章構成であった前作同様に、1章と最終章が玲の語り、その他の章が他の登場人物の語りにより構成されている。『よろこびの歌』が、玲、千夏、中溝早希、牧野史香、里中佳子、佐々木ひかり、玲の語りで構成されていたのに対し、こちらは、玲、早希、佳子、2年B組の1人であった東条あやが就職した会社の同僚の清水菜生、千夏、玲という語り手の構成になっている。クラスのリーダーだったひかりと、霊能がある史香にかわって、前作では目立たない存在だった東条あやが佳子の語るクラス会の場面で、北陸の眼鏡会社に就職することになる。それには複雑な事情があるらしく、それがあやに関心をもつ会社の同僚の菜生の語りによって部分的に明らかにされる。

 部分的に先走って紹介してしまったが、2年B組の生徒たちは、それぞれ、大学(玲、早希、佳子)、短大(ひかり、あや)に進学し、千夏はミュージカルの劇団に所属し、レッスンを受け、アルバイトをして生活している。史香もクラス会に出席しているのだが、少しやせてきれいになったと佳子に記されているだけで、詳しい動向はわからない。玲は音楽系の大学に進学したが、自分の才能をどのようにして伸ばしていくかをめぐって悩んでいる。千夏は劇団の中で少しずつ頭角を現し、役が付いたりしているが、首脳陣はもっと欲を出して頑張ることを期待しているようである。早希はスポーツ・トレーナーを目指して運動科学部に進学したが、思いがけないところで音楽家の久保塚に出会い、自分の世界が広がる――広げていかなければならないと思いはじめる。そして、ひかりといっしょに千夏の舞台を見に出かけて感動する…。

 彼女たちのドラマと、少し別のところであやのドラマが展開され、それを語っている菜生にも彼女なりの物語がある。宮下さんの小説は、構成が複雑である一方で、読者の想像力にゆだねられる物語の空白部分も大きい。ただ、その中で物語の軸になっているのは、2年B組にいたときに彼女たちが、一緒に合唱したという経験であり、音楽が彼女たちの人生で何らかの意味を持っているということである。その意味を、或いは一生の中での自分にとっての音楽の意味を考えることが、彼女たちの生き方にかかわっている。音楽を職業とする人もいるだろうし、職業としての音楽といっても様々なかかわり方がある。一流の音楽家たちにはそれぞれの個性があるし、一流とは言えない音楽家だってそれぞれの個性を持っている。音楽を趣味とする人もいるだろうし、ただ、聞き流すだけの人もいるだろう。

 宮下さんの小説には空白部分が多いと書いたが、物語は最後にさらに大きな空白を投げ出して終わる。最期の歌がどのような反響を呼び起こすのかを知りたいと思う読者は少なくないだろうと思う。『終わらない歌』という題名は、これで物語を語り終えるという意思表示のようにも思えるが、登場人物たちはまだまだ若く、それ以上に未完成である。前作で(中学時代にソフトボールの名投手として活躍しながら、肩を壊して競技生活を断念して)16歳にしてすでに余生だと悟ったようなことをいっていた早希も新しい自分の可能性を見出したように思われる。学生生活の先どころか、その先、先の先だってあるのである。物語がここで打ち切られるのか、あるいは新しい物語を組み込みながらさらに3部作、4部作として語り継がれていくのかはわからないが、読者としては、さらに続いていく方を期待したい。(あるいは物語が統一性を失って、早希やあやの物語が独立していくということになるという可能性も予期しているのである。)

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