ダンテ・アリギエリ『神曲 煉獄篇』(29-1)

5月22日(日)晴れ

 地上楽園に到達したダンテは、そこで神の愛について歌う美しい貴婦人に出会った。彼女は地上楽園が、旧約聖書に記されたエデンの園であり、そこでの生活の記憶が古典古代の詩人たちによって黄金時代として歌い上げられたのであると説明する。

 説明を終えた彼女は、旧約聖書の『詩篇』の章句を引用して歌を続ける:
「罪を覆っていただいた者達は幸いなるかな」。
(426ページ) ダンテのかつての詩人仲間であったカヴァルカンティの詩に登場する貴婦人と違って、彼女は神の愛を常に意識しており、人間は自分たちの努力だけでは天国に入ることはできないと自覚している。
 それから彼女は、川に沿って再び歩きはじめ、ダンテもまた彼女と並んで、歩きはじめた。

私達がまだそれほど進まぬうちに、
貴婦人は全身で私のほうを向いた。
こう言いながら、「我が兄弟よ、見なさい、そして聞きなさい」。

するとここに不意に現れた一つの輝きが
この広大な森のすみずみにまで駆けめぐった、
あるいは稲妻だろうかと私が疑ってしまったような何かが。
(427ページ) しかしその輝きは、稲妻とは違って、光りつづけ、その光をさらに増していった。どうもこの光は、神的な何かが降臨することを示すもののようである。さらに光に満ちた大気とそれに調和する音楽が聞こえ、ダンテは、原初の人類エヴァへの非難を感じた。

 エヴァはすべてを知ろうと欲して神を裏切った。その罪は、人間の能力だけを頼りに、すべてを知ろうとする思想を暗示するものである。ダンテがそのような思想として念頭に置いていたのは、12世紀にスペイン、モロッコで活躍したイスラームの哲学者・医学者であったアヴェロエス(アラビア語ではイブン・ルーシッド 1126-98)の思想であり、彼に影響を受けた清新体派の詩人カヴァルカンティの思想であった。
 しかし、人間がその能力だけで到達できるのは地上楽園までであり、それは天国ではないとダンテは考えていた。だから
私が永遠の喜びの
先駆けとなる事物の間を、思考に集中して、
その中でさらなる幸福を望みつつ進んでいくと、

私達の前方では、緑の木々の下の大気が
目の前で、燃え上がった火の色に変わり、
そしてさわやかな音楽はすでに歌だと聞き分けられていた。
(428-9ページ)と、地上楽園は天国の「先駆け」であるという。その考えを裏書きするように、なにか神的なものの到来の予感がますます深まってくる。
 
 この後、現れてくるものを描くために、ダンテは「詩の乙女達」に呼びかける:
おお、神聖なる詩の乙女達よ、あなた方のために
飢えをしのぎ、寒さに耐え、眠らずに私がこれまで努力したのならば、
ゆえあってあなた方に心から助けを願う。
(429ページ) 古典古代の叙事詩では、詩人たちはその詩を歌いはじめる最初のところで、9柱の詩と学芸の女神であるムーサたちに呼び掛ける。キリスト教の詩人であるダンテが、この形式に倣いながらも、そっくりそのまま従っているわけではない点にも注目しておこう。
 なお、9柱のMuseは:
Calliope (書板と鉄筆を持ち叙事詩をつかさどる)、Clio (巻物(入れ)を持ち歴史をつかさどる)、Euterpe (笛を持ち音楽・抒情詩をつかさどる)、Thalia (喜劇のマスクを持ち喜劇をつかさどる)、Melpomene (仮面・ブドウの冠をつけ悲劇の靴を履き悲劇をつかさどる)、Terpsichore (竪琴を持ち、歌舞をつかさどる)、Erato (竪琴を持ち抒情(恋愛)詩をつかさどる)、Polyhymnia (賛歌をつかさどる)、Urania (杖を持ち天文をつかさどる)
である。ダンテが
詩神ウーラニアーに女神を率いていただき、
思うだけでも難きことを私が韻文にするのを助けてもらわねばならぬ。
(430ページ)と、天文学をつかさどるウーラニアーに呼び掛けているのが印象的である。

 その後、ついに空から神的な何かが降りてきて、神を賛美する「ホサナ」の声の声とともに、最初に聖霊からの7つの贈り物(賢明、知性、忠告、剛毅、学問、慈愛、神への畏れ)を示す7つの燭台の光をダンテは見た。
職台の上には美しく並んだ炎が
中旬頃の真夜中の
澄み切った空の月より明々と燃え上がっていた。
(431ページ)

 第29歌も3回に分けてみていくことになりそうである。ダンテは古典古代を、キリスト教の枠の中に収めようと、必死になっているが、私は古典古代の方に興味があるので、ダンテの詩行とは均衡の取れない解説になっているかもしれないが、容赦されたい。
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