コロンブスの卵

5月21日(土)晴れ

 NHKラジオ「攻略!英語リスニング」では”Columbus' Egg"(コロンブスの卵)を話題として取り上げた。
It refers to an idea or an invention or a discovery that, on hindsight, looks amazingly easay, like anyone could do it.
(後から見れば、拍子抜けするほど簡単で、誰でもできると思うような考えや発明や発見のことを指していう。)

 コロンブスがアメリカに「到達」したのちに、スペインの貴族たちと食事をしていた際に、貴族たちの1人が、コロンブスがアメリカに到達したのは運がよかっただけだといったところ、コロンブスは卵を持ってこさせて、貴族たちにその卵を立ててみろと迫った。貴族たちは立てられなかった。
Then Columbus tapped it lightly on one end so that it broke slightly and then balanced it on the table.
(するとコロンブスは卵の端を軽くたたいて少しだけ割って、テーブルの上に立ててみせた。)

 この逸話は、コロンブスと同じイタリア人のジローラモ・ベンゾーニ(Girolamo Benzoni)という人物が1565年に刊行した『新世界史』(The History of tne New World)という書物に初めて登場するのだが、どうも作り話らしいといわれている。ルネサンスの偉大な建築家、フィリッポ・ブルネレスキ(Filippo Brunelleschi, 1377-1446)と、彼が設計したフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のドームをめぐって、同じような話が伝えられているからである。

 番組では触れられていなかったが、このブルネレスキの逸話が、コロンブスの逸話の原型だと指摘したのは18世紀の大思想家ヴォルテールである。ヴォルテールがどこで、ブルネレスキの逸話を知ったのか、わからないので、ひょっとするとブルネレスキの方も作り話かもしれないと、疑い深くなっているところである。少なくとも、ヴァザーリの『ルネサンス彫刻家建築家列伝』にはこの話は出ていない。なお、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のドームの建築をめぐって、ブルネレスキがそのライバルであったギベルティと争った件についてのヴァザーリの記述は、立ち読みで済ませるにはもったいないほど面白かった。そのうち、きちんと読んでみようと思う。

 コロンブスは新世界を<発見>したわけではない、というのは既にそこに住んでいる人がいたからであり、ヨーロッパからの「到達」ということについても、彼以前にアメリカ大陸に接近・上陸した事例があることが指摘されている。早くも昭和16年(1941年)に花田清輝は「架空の世界」(戦後『復興期の精神』に所収)の中で次のように書いている:
「アメリカは、ヴァイキングの間では、「葡萄の国(ヴィンランド)」として、はやくから知られており、その最初の発見者は、グリーンランド生まれのリーフ・エリクソンだというので、コロンブスの名声を真向から否定しようとする人々がある。その他、種々の記録は、コロンブス以前にアメリカを発見した男の、いくたりもあったことを物語る。時間は、コロンブスの死後も、その復讐の手をゆるめないらしい。遮二無二、歴史の一頁から、かれの名前を抹殺しようとして、躍起になっているかのようだ。」(講談社文庫版、80ページ)

 この直前の箇所で、花田は新大陸の名前が「フィレンツェの商業資本家の手さきであった、アメリゴ・ヴェスプッチの名前からとられた」(同上、79ページ)とも書いている(「商業資本家の手さき」という規定が正しいかどうかはわからない)。余談になるが、日本にある唯一のボッティチェッリの作品にその肖像を描かれたシモネッタ・ヴェスプッチは、アメリゴの一族である。もう一つ付け加えれば、トマス・モアの『ユートピア』のカタリて、ラファエル・ヒスロディがアメリゴ・ヴェスプッチの航海に同行したと書かれていることをご記憶の方もいるだろう。閑話休題、ここで花田が主張しているのは、どのようにコロンブスの業績を否定しようとも、彼によって新しい時代が始まったことは否定できないということである。

 コロンブスは新世界の「発見」の功績により、さまざまな特権と称号を得るのだが、それを1500年に剥奪される。コロンブスの息子であるディエゴ・コロン(?‐1526)はその特権と称号の復活のために奔走し、その一生を終えることになるのだが、さらにその息子であるルイスの時代に妥協が成立して、ベラグア公爵の称号を得た。この家系はスペインの貴族として続き、現在の当主は18代目で、先祖と同じクリストバル・コロンを名乗っているそうである。だから、この点ではコロンブスは時間によって復讐され続けたわけではないようである。
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