『何故彼女等はそうなったのか』『風の中の子供』

5月18日(水)晴れ

 シネマヴェーラ渋谷で「没後50年メモリアル 孤高の天才・清水宏」特集上映の中から、『何故彼女等はそうなったか』(1956、新東宝)と『風の中の子供』(1937、松竹)の2本を見た。この監督の作品を見ることが、今までなかったことを残念に思う。プログラムによれば、「独特の移動撮影と天衣無縫な演出で小津や溝口から天才と称賛され、”早すぎたヌーヴェルヴァーグ”とも評される清水宏は現在では、あらためてその作品を見直すべき時に来ている作家の1人なのかもしれない。

 『何故彼女等はそうなったか』は、四国の城下町にある教護施設を舞台にした、社会派のドラマでこの施設に入った少女たちへの世間の偏見が、少女たちの非行を拡大している状況を指弾する内容であるが、少女たちに寄り添い、その更生を願っている小田先生を演じる香川京子の演技が映画の中心になっている。それに加えて、施設に収容されている少女たちを演じているのが、池内淳子、三ツ矢歌子、原知佐子、それにこの施設を脱走してで戻ってくる少女を演じているのが宇治みさ子と、当時としては特に目立つものではなかったのかもしれないが、今になってみると話題が豊富な女優陣が配役されている。
 俳優についてもそうなのだが、監督についてみても、清水以外にも、まだまだ、適切な評価を得られない作家が何人もいるのではないかと、そんなことばかり考えていた。出演者の中で、先生役の香川京子さんが健在で、少女役を演じている池内さん、三ツ矢さん、宇治さんが他界されているのも皮肉に思われる。物語の進行を通じて、何によらず、自分の思いを正直に打ち明けられる人間関係というのが好ましいのは言うまでもないが、それが最も必要とされる施設において、それが最も困難だという現実がそのまま描かれていることに大いに考えさせられた。

 なお、クレジット・タイトルによると、この作品でチーフ助監督を務めたのは後に新東宝、東映で活躍した石井輝男であり、映画を撮り進める立場と、ただ単に面白がって映画撮影の現場の周辺をうろうろしているのとでは、現場の雰囲気のつかみ方が大きく異なることを考えさせられる。石井が清水の映画作りから何をどのように学んだのかを考えることも、重要ではないかと思う。

 『風の中の子供』は、坪田譲治の同名の児童文学作品を原作とする。地方都市で会社を経営している父親の2人の息子善太と三平を描く作品である。優等生の善太と遊び好きでガキ大将の三平の兄弟は、喧嘩もするが、本当のところ仲はよい。ところが会社を経営している父親が、会社の乗っ取りを図る株主たちの訴えで逮捕され、三平は母親の兄で、山奥の村で医院を開業している伯父のもとに引き取られることになる。ところが、もともとやんちゃな三平は、高い木に登ったり、たらいに乗ったまま急流に流されたり、かっぱが出てくるという言い伝えの池に出かけたり、曲馬団に入ろうとしたり…しかしそれはもともと住んでいた家で、父母、兄と一緒に暮らしたいという三平の願いから出た行動であった…。

 坪田の児童文学作品は現在ではあまり高く評価されていないように思われるが、鈴木隆『けんかえれじい』の最後の方で、喜多方の(旧制)中学を退学になって東京に出た主人公が、曲折の末、早稲田大学に入って、そこでまた曲折があって、坪田譲治に出会い、彼こそ、生涯の師であると思い、児童文学に志す。そのきっかけになったのが、坪田譲治の『善太と三平』シリーズを彼が読んでいたことであったのである。なお、新藤兼人によるこの作品の脚色を、さらに書き直した鈴木清順監督の『けんかえれじい』では主人公が北一輝に出会って(本当に彼に出会ったかどうかはあいまいなままの描き方がされている)、2・26事件の報道に接し、上京するところで終わっている。映画のこの結末は、原作が大学時代を描き、そこからさらに人生の進路を見つけて前進しようとする姿を描きだしているのと大きく違っているだけでなく、原作本来のテーマや方向性もゆがめているように思われる。

 それはともかくとしても、『風の中の子供』は今から80年ほど前の子どもたちがどの木登り、・チャンバラ・川で遊びまわる姿を描いて、その点だけでも懐かしい(といっても、現在70歳を数える私から見ても、かなり昔の生活ぶりである)ように毎日を過ごしていたかについて詳しい描き方がされているように思われる)。川遊びの場面で、子どもたちがふんどし姿になったり、父母の家の台所になっている土間のへっついに映画が作られた時代が描きだされているだけでなく、兄弟がそのへっついの火をおこして飯炊きをする場面なども強い印象を残す。清水宏という作家への再認識を迫られた作品である。 
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