ジル・チャーチル『大会を知らず』

4月8日(金)曇り

 ジル・チャーチル『大会を知らず』(創元推理文庫)を読み終える。主婦探偵ジェーン・シリーズの第14作である。この後、チャーチルは同じシリーズに属する作品を2編書いているが、それらはまだ翻訳されていない。本屋の棚に1冊だけ残っていたのを買って読んだということと合わせて推測すると、あまり売れ行き良好とは言えないシリーズのようであるが、この作品を読んだかぎりでは面白かった。彼女の他の作品も読んでみようと思う。

 交通事故で夫を亡くした専業主婦のジェーン・ジェフリーは3人の子どもたちの子育てに奮闘中だが(第14作のこの作品では、子どもたちも大きくなって、世話がかからなくなってきている)、身近なところで殺人事件が起きたりすると、隣の家に住む親友のシェリイとともに事件の解明に活躍してきた。
 その彼女たちが住む町のホテルで、ミステリ作家や出版関係者が集まる大会が開かれると知り、ジェーンは喜び勇んで参加を決める。会場となるホテルにシェリイの夫が投資をしている関係で、スイートルームが確保してあるという。この部屋を使えば、大会に入り浸っていられるわけである。長らくジェーンが乗り続けてきたおんぼろのステーション・ワゴンがまったく動かなくなったので、これを機に新しい車を買う。2人はこの車でホテルに向かう。
 ジェーンはこれまでずっと小説を書き続けてきた。この大会に参加する編集者か代理人に、どうやら書き上げたその作品を読んでもらうことも大会参加の目的である。女性作家に厳しいことで知られる批評家のザック・ゼブラや、かねてから愛読している女流作家のフェリシティ・ロアンがホテルにチェック・インしている姿を見かける。そうかと思うと新進作家のヴェルネッタ・ストラウスマンが夫と2人で西部風の派手な衣装で現われるのにも出逢う。
 ジェーンがフェリシティ・ロアンの本を読みながら、様子を窺っていると、ご本人から声をかけられる。ジェーンとシェリーはフェリシティとすっかり意気投合し、彼女から大会参加者についての情報を得る。大会には大物編集者のソフィ・スミス、書籍販売人と自称するがミステリについては誰よりも詳しいチェスター・グリフィス、それにこの種の大会には必ず参加して、その場にいない作家の悪い噂を探りだす謎の批評家ミス・ミステリが来ているという。
 開会式で演壇に立ったソフィ・スミスが体調を崩して病院に運ばれるという出来事はあったが、大会は順調に進行し、ジェーンとシェリーは手分けをしてセミナーに出席し、いろいろなことを学んだり、出席して損したと思ったりする。そのうちザック・ゼブラが行方不明になり、負傷して発見され、命には別条ない様子であるが、折よく居合わせたジェーンの恋人であるメル・ヴァインダイン刑事(大会で講演をするためにホテルにいたのである)から現場の様子を聞いた彼女にはどうも腑に落ちないことがある…。

 ミステリ作家の大会という、おそらくは著者にとってなじみの深い場所を舞台にして、殺人や強盗といった事件は起きないけれども、作家にとってみると大事な問題をめぐっての事件が展開する。登場人物の性格や行動はユーモアを交えて誇張されているが、それなりの現実感がある。翻訳者である新谷寿美香さんはこの作品でのジェーンの姿が、作家としてデビューする以前のジル・チャーチル自身の経験を踏まえて描かれているのではないかと推察しているが、出版会の内情を知るという意味でも興味の持たれる作品である(ただし、作品発表から10年以上たっているので、出版にかかわる事情は多少変わってきているかもしれない)。

 内容からすれば、『大会を知らず』という題名はおかしいのだが、「(井の中の蛙)大海を知らず」のもじりということだろう。原題はBell, Book and Scandalで、これは映画俳優・監督・製作者であったリチャード・クワイン(1920-89)が1958年にキム・ノヴァク主演で監督した『媚薬』(Bell, Book and Candle)の題名をもじったものだそうである。この主婦探偵ジェーン・シリーズの題名はすべて何か他の作品の題名のもじりで、Grime and Punishment (ゴミと罰)とか、War and Peas (エンドウと平和)などというのはすぐに元の題名が分かるが、この作品についてはわかりにくい。リチャード・クワインというと、一時キム・ノヴァクとロマンスがあり、彼女をヒロインにした凝った(気取った?)映画を作っていた監督として知られるが、ミステリも何作か手掛けている(『刑事コロンボ』も何本か監督している)。あるいはジル・チャーチルさんはこの監督の作品がお気に入りなのかもしれず、『媚薬』という映画を私は見ていないのだが、映画の中で<媚薬>がどのように使われたかが分かれば、そこからこの作品の命名の理由が分かるかもしれないと勝手に想像している次第である。
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