『江戸川乱歩の淫獣』、『死者との結婚』

3月22日(火)晴れ、温暖

 神保町シアターで「横溝正史と謎解き映画の快楽Ⅱ 本格推理作家の世界」特集上映から、加藤泰監督の『江戸川乱歩の淫獣』(松竹、1977)、高橋治監督の『死者との結婚』(松竹、1960)を見た。事前のプログラムでは、ジョルジュ・シムノンの「仕立て屋の恋」の翻案映画化である『その手にのるな』(松竹、1958、岩間鶴夫監督)が上映されることになっていたのだが、上映プリントの状態が非常に悪く、『江戸川乱歩の淫獣』が代わりに上映されることになったとのことである。『その手にのるな』は、高橋貞二の主演作品で、高橋の本格的な演技にあまり接したことがなかったので、楽しみにしていたのだが、上映中止は残念である。どこかで、もっと良い状態のプリントが発見されて、上映される機会が生まれることを期待したい。

 さて、『江戸川乱歩の淫獣』であるが、本格推理作家を自認する寒川光一郎(あおい輝彦)が、実業家の夫人である妖艶な美女・小山田静子(香山美子)から、昔の恋人から脅迫状が届いているという相談を受ける。その恋人というのは、謎の探偵小説家として知られる春泥であるらしい。寒川を担当している雑誌編集者の本田辰雄(若山富三郎)も、行方不明になっている春泥の正体を突き止めようと、寒川に協力し、捜索を始める。寒川は怪奇・幻想的な趣向を織り込んだ春泥の作風には批判的なのだが、彼の目前で展開し、その解決を求められる事件はむしろ怪奇・幻想的なものである…。

 上記以外にも、大友柳太郎、川津裕介、中山仁、仲谷昇、野際陽子、加賀まりこ、尾藤イサオ、藤岡琢也、菅井きん、花柳幻舟、倍賞美津子、クレジット・タイトルで見かけたが、画面で確認できなかった配役として桜町弘子、石井とみこというかなり多彩な配役で、日活ロマン・ポルノに出演していた田口久美が外国人女性の役で出演しているのも見どころには違いない。明暗をはっきりと対照させた画面構成や、見世物小屋のセットなど、加藤泰の腕が振るわれている場面も少なくないが、寒川が事件の真相に迫っていく過程がどうもまだるっこしく、名探偵には程遠いのが気になる。もっともあおい輝彦の個性が、寒川の愚図なところをうまく表現しているという評価もできよう。香山美子が物語の要求する妖艶さを十分に表現しているとは言えないのも気になるところではある。原作を読んでいないので、その点の評価が難しいのだが、探偵小説における「著者の特権」は映像化によって奪われる場合が多いことを考えさせられる作品であった。

 『死者との結婚』はウィリアム・アイリッシュ(コーネル・ウーリッチ)の原作小説の翻案・映画化で、脚本を高橋治と田村孟が書いている。恋人である競輪選手の中西(高野真二)に裏切られて、自殺しようとして死にきれないまま、光子(小山明子)は旅に出る。中国地方から四国にわたる連絡船の中で、また自殺を図るが、富豪の子息である保科忠一(春山勉)に助けられ、その妻の妙子(瞳麗子)と一晩語明かそうとするが、海難事故に遭う。光子は助かったが、保科夫妻は死亡し、たまたま妙子の指輪をはめていた光子は妙子と間違えられる。そして、四国の富豪である保科家の人々、とくに忠一の母であるすみの(東山千栄子)は彼女を温かく迎えるが、忠一の弟である則男(渡辺文雄)はかすかな疑いを抱く。しかし、光子が家族に尽くす姿を見ているうちに、則男の態度にも変化が生まれる。ところが・・・。

 光子には秘密があるために、態度が控えめになるのだが、それが家族に好感をもって迎えられる。観客は真相を知っているので、この好感がどこかで別のものに変わらないかとはらはらしながら見守る。旧制三高寮歌「逍遥の歌」(紅萌ゆる)が忠一の愛唱歌として演奏されるが、光子はこの曲を知らない…。どこで秘密が露呈してもおかしくない中で、ヒロインがけなげに頑張っていく。小山明子の美貌がサスペンス感を盛り上げている。物語の発端が発端であるだけに、単純な勧善懲悪に終わらないが、そこを無理しても、勧善懲悪にもっていった方が興行的には成功したかもしれない。四国が舞台であるのに、そういう風土の特色が浮かび上がってこないのはどういうことであろうか。

 監督である高橋はその後、作家に転身し、1984年に小説「秘伝」で直木賞を受賞したほか、小津安二郎の評伝『絢爛たる影絵』の著者としても知られる(小津の代表作に数えられる『東京物語』の5番目の助監督だった今村昌平が身内の不幸で参加できなくなったので、それに代わって助監督に起用されたといいう経歴がある)。
 あまり関係のない話題になるが、この作品に参加したキャスト・スタッフの中で、大島渚夫人となった小山明子だけでなく、渡辺文雄それに、脚本の田村孟も、その後大島渚作品の常連となったというのがなんとなく気になる。映画そのものだけでなく、映画がつっくられた時代の雰囲気とか、具体的な環境にも好奇心がわくところがあるのである。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR