ダンテ・アリギエリ『神曲 煉獄篇』(25-1)

3月14日(月)雨、肌寒い

 第24歌の終わりで、ダンテの一行は飽食の罪を贖う煉獄の第六環道から、淫乱の罪を贖う第七環道へと進むように促される。

休まず登らねばならないほど時刻は進んでいた。
(366ページ)と、ダンテは第25歌を歌いはじめる。今や午後2時である。

私達も、狭いために登坂者が
横に並べぬ隘路へと
一人ずつ階段に向かい、分け入った。
(同上) いよいよ煉獄山を取り巻く最後の環道へと彼らは登っていく。しかし、先を急ぎながらも、ダンテには一つの疑問が生じていた。なぜ死後の世界の魂達は食事をとらないのに、飽食の罪を犯した贖罪者たちは痩せ細るのか。このように問われたウェルギリウスは、同行しているスタティウスに疑問を解く役を譲った。

 スタティウスは説明する:
完全なる血液は、それを欲しがる
血脈に飲まれずに、あたかも
食卓から取り上げられた手つかずの食べ物のように残る。

それは、血脈を伝って届いた先で諸器官を形成する
血液と同様、心臓の中で
人間のあらゆる諸器官をなす、形相を与える力を獲得する。

それはさらなる熟成を受けて、話すより黙っているほうが
よい器官に降りてくる。そしてそこから次に
自然の壺の中にある他人の血液の上に滴る。

そこで双方の血液がいっしょになって一つに集まる。
片方の血液は作用を受けるべく定められ、もう片方の血液は
完全なる場所に由来するがゆえに、作用を及ぼすべく定められている。
(369-370ページ) 翻訳者の原さんは「哲学・神学的議論」とこの議論を特徴づけているが、むしろ医学的な議論のように思われる。人間はまず肉体をもつ地上の存在として、能動的な、アリストテレスが言うような意味での形相を与える力をもつ、完全な血液からできる男性の精液と、受動的な作用を受ける肉体、アリストテレス的な意味での質料を準備する女性の血液とが、子宮で一つになる。

そして男性の血液は、女性の血液と一体化すると、
最初に凝固させる作用を開始し、その次の段階では、
液体を質料にして形成した対象に生命を与える。
(370ページ) そして、形相を与える力の活動によって肉体が作られる。

能動的な力がなした
植物のそれであるところの魂、両者の唯一の違いは、
魂はまだ過程にあり、植物は終着の岸に着いていることにあるが、
(370-371ページ) 魂はその生命と形状とをもつ植物のような段階を経て、

それはあたかも海綿と同様に
早くも魂が動き、知覚するに至るまで作用を続け、その段階から
それ自身が起源である諸感覚器官を組織しはじめる。

この時に開くのだ、息子よ、この時に伸びていくのだ、
本性が肉体へくまなく伝えられる場所、
父親の心臓に由来する諸力は。
(371ページ) 感覚し、行動をする動物的魂である胎児が出来上がるのであるという。

しかし動物がどのようにして言葉を持つ人間になるのか
君にはまだ分かっていない。
(372ページ) 胎児はどのようにして、理性をもつ存在となるのか。ダンテは「言葉を持つ」と表現したが、「言葉」の問題は、『俗語論』の著者でもあるダンテにとってきわめて重要な問題であった。

・・・胎児の
頭脳の組織形成が完成したその瞬間に、

第一動者はこれほど見事な自然の技ゆえに
うれしげに胎児に向くと、諸力を完全に備えた、
新たな霊を吹き込むのだ。
(372ページ) 胎児の頭脳ができた瞬間、宇宙のあらゆる現象の根源的原因、第一動者である神が、その完成を喜びつつ愛を胎児に向け、自身に由来する諸力を完全に備えた新しい霊を胎児に吹き込む。

その霊は胎児の中で活動しているものと出会い、それを己の実体の中に
引き入れ、そしてただ一つの魂となる。
それは生き、感じ、自ら己をめぐり振り返る。
(372-373ページ) するとこの霊は、形相を与える力がつくった魂に浸透し、それを己のものとして一つの魂となる。

 このようにスタティウスは人間が霊魂を備えた存在として生まれてくるのはなぜかを説明した。しかし、これだけではまだダンテのもともとの問いに答えてはいない。スタティウスの説明はさらに続く。

 ダンテがここでスタティウスに語らせている説明を、非科学的だとか、男性を能動的、女性を受動的と規定するのはおかしいとか、批判するのは簡単であるが、彼がその時代のさまざまな学知を援用しながら、できるだけ合理的に物事を説明しようとしている努力は評価すべきであろう。と言っても、やはり現代の科学の目から見れば、彼のいっていることの多くが取り上げるに足りない議論となっていることも否定できない。
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