オヴィディア・ユウ『アジアン・カフェ事件簿② 南国ビュッフェの危ない招待』

3月11日(金)曇り

 オヴィディア・ユウ『アジアン・カフェ事件簿② 南国ビュッフェの危ない招待』(原書房:コージーブックス)を読み終える。
 シンガポールのフェミニスト作家オヴィディア・ユウによる、シンガポールでカフェを営むアンティ・リーが活躍する推理小説シリーズの第2弾。原題はAunty Lee's Deadly Specials (リーおばちゃんの死を呼ぶ特別料理)とでも訳せばいいだろうか。

 前作に引き続き、カフェ〈アンティ・リーズ・ディライト〉の主人であるアンティ・リーが持ち前のお節介な気性をあらわにして事件の解決にあたり、そのメイドであり、何か事件があればその手足となって活躍するフィリピン人のニーナ、前作にも登場しているが、今回からカフェの従業員という新しい役どころを与えられたチェリルがいわば探偵事務所員で、警察本部のラジャ長官、地区担当のサリム警部がヒロインと協力して事件の真相を解明する警察関係者、前作で活躍したティモシー・パン巡査部長は他の部署に「栄転」したという設定ながら、重要な役割を演じるというところまでは前作を引き継いでいるが、新たにきわめて官僚的な女性のパンチャル巡査部長が登場する。
 その一方で、アンティ・リーの夫の先妻の息子であるマークと、その妻であるセリーナが、カフェの経営権を手に入れようとあの手この手の作戦を繰り出して、物語の展開をややこしくする、「敵役」的な役柄を与えられている。マークは自分の愛好するワインを客に飲ませて、その嗜好を広げることを考えているのに対し、アンティ・リーはおいしいものを楽しめばいいという考え方である。とはいうものの、前作に比べるとその「敵役」性は薄らいでいるように思われる。

 アンティ・リーは法律事務所を経営するメイベル・スゥーンが、実の娘であるシャロンに事務所の経営権を譲ることを記念するパーティーのケータリングを頼まれる。シャロンは、このようなパーティーを開くことには反対である。彼女は、事務所の経営がかなり悪化しているという事実の確証を得ている。メイベルと、医師であるその夫のヘンリーの間にはシャロンのほかに、レナードという息子がいるが、アメリカに留学して、いくら金を掛けても学位をとることができずに帰国してきたというこのレナードについてはさまざまな噂がある。

 パーティーにはこのレナードの主治医であるというヨーンをはじめとして怪しげな、あるいはアンティ・リーがどこかで出会ったような人物が出席しているのだが、裏門で、自分の知り合いがこの邸で働いているはずだと押問答をする男性が出現し、その後、アンティ・リーが持ち前の好奇心でこの邸のあちこちを偵察していると、旧知のドリーンに出会い、いろいろと話をしていると、メイベルとレナードの死体が発見されたという知らせが入る。自殺か、他殺か、あるいは事故死か。死因は、このパーティーの料理を提供したアンティ・リーの店のつくったアヤム・ブア・クルアという鶏肉料理による食中毒だという噂が流れる。それどころか、ヘンリーの周辺から、アンティ・リーの店についての非難が寄せられ、彼女のカフェは営業停止になる。この措置に納得がいかないアンティ・リーは例によって独自の捜査を展開し、事件の背後に臓器の移植をめぐる闇組織の活動が見え隠れしていることを突き止める…

 シンガポールは国際的な「学力」テストにおいて、常に上位を占め、その大学も世界的に高い評価を得ている。だとすると、そこで養成された医師とか弁護士という専門職の人々は、国際的に見て極めて優秀な人々であるかというと、そうでもなさそうだ…というのがこの作品の出発点のようである。アンティ・リーも、チェリルも大学卒という学歴は持たず、もともとの頭の良さとその後の経験から学ぶことで、事件に対処する推理力を身に着けてきた。これに対して、より高い学歴をもつ人々のなかには現実を見極めずに、学歴やその他の外見的な特徴だけで相手の人間性を判断する例が少なからずみられる。もちろん、これは小説の作者による設定であって、それがどこまでシンガポール社会の現実を反映・描写しているかは疑問である。

 それでも、登場人物の多くがどこか無理をしながら、夢を追いかけているのに対し、ちょっと立ち止まって現実を楽しむことを考えようと呼びかけているアンティ・リーの姿勢には教えられるところがある。このことと関連して、多民族が移住・共生し、新しい文化を造り上げようとしているシンガポールには独特の魅力が感じられることも否定できない。多文化の共生には時間がかかり、利害関係者の相当の忍耐を必要とするのである。そういうなかで、忍耐の苦しみを和らげる可能性があるのが料理であるというのがこのシリーズの主張の1つであろう。東京には何軒かシンガポール料理の店があり、私もある研究会の流れでそのうちの1軒に出かけたことがあるが、さらに新しい店を発掘する努力を続けていくつもりである。 
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