遠藤慶太『六国史――日本書紀に始まる古代の「正史」』(2)

3月5日(土)晴れ後曇り

 2月26日付の当ブログに書いたように、この書物の第1章では『日本書紀』、第2章では『続日本紀』と『日本後紀』、第3章では『続日本後紀』、『日本文徳天皇実録』、『日本三代実録』という構成で、《六国史》の内容とその特徴を述べている。『日本書紀』が30巻、『続日本紀』が40巻、『日本後紀』が40巻(現存10巻)、『続日本後紀』が20巻、『日本文徳天皇実録』が10巻、『日本三代実録』が50巻というそれぞれの巻数だけでなく、それぞれの書物が扱っている年代の幅も考慮されて、このような構成になったものと考えられる。今回は、第1章「日本最初の歴史書――『日本書紀』」について取り上げることにする。

 『日本書紀』は天地が初めてできた神代から持統天皇の時代までの歴史を記し、養老4年(720年)に舎人親王(676-735)によって天皇に提出された書物である。「内容は多岐にわたり分量も多い。『日本書紀』は神話・伝承を含んで物事の起源を明らかにする面と、6世紀以来の歴史記録の面が同居している」(27ページ)と著者はその特徴をまとめている。

 『日本書紀』を始めとする《六国史》の特徴の1つは、それがさまざまな材料を集めて編纂した書物だということである。著者は坂本太郎(1901-87)の『日本書紀』は8つの材料からなっているという説を継承している。その8つの材料とは:
①帝紀(大王の系譜)
②旧辞(神々や英雄の物語)
③墓記(所氏族の系譜・歴史)
④風土記(諸国に伝わる伝承)
⑤寺院の縁起(元興寺の縁起など)
⑥個人の手記・日記(『高麗沙門道顕日本世記』『伊吉連博徳書』『難波吉士男人書』)
⑦外国文献(『魏志』『晋起居注』『百済記』『百済新撰』『百済本紀』)
⑧政府の記録
である。問題は、このように多様な材料がどのような意図をもって、まとめ上げられたか、あるいはただ雑然と並べられているだけであるかということではなかろうか。この問題を判断する手がかりとなるのは、編纂者が個々の材料をどのように評価していたかを知ることである。
 著者はこれらのうち最も重要なのは<帝紀>であるという。「帝紀とは、天皇の系譜や継承関係、その治政での重要事項などを記した記録である」(28ページ)。帝紀は「日嗣」とも呼ばれ、葬送の儀礼で読み上げられるだけでなく、書き記されたものが存在していたという。

 著者はまた、これらの材料の中で風土記が利用されていることに注目している。「風土記とは、和銅6年(713)5月の命令により、各地方の物産や土地の肥沃状態、地名の由来を提出させた報告書である。完全な形で残るのは出雲だけで、省略・欠損のある常陸・播磨・豊後・肥前と合わせて5ヵ国分がよく知られる。この他にも逸文(他の文献で引用された断片)で日本各地の風土記が残る」(30-31ページ)。
 ところで、雄略紀には浦島伝承が記されていて、これは現在、逸文で伝わる丹波国風土記の伝える伝承と重なっているという。このように、地方の情報が盛り込まれていることも『日本書紀』の特徴であるという。(『万葉集』に高橋虫麻呂による浦島伝承を歌った歌が収録されていることを著者は無視している。)

 それにしても不思議なのは、浦島伝承が具体的な地名や年代をもって歴史書に記されていることである。「浦島伝承の記事がある雄略天皇22年は西暦の478年、『宋書』夷蛮伝の倭国条によれば、倭王武が宋の皇帝に使者を派遣して上表文を奏上した年にあたる」(33ページ)。浦島伝承はおそらく、漠然と雄略天皇の時代の事柄として意識されていたのを、『日本書紀』の編纂者が無理やりに具体的な年代を与えて書き記したのだと著者は考えているが、これは無理のない推測である。(『万葉集』の最初に出てくるのが雄略天皇の作と伝えられる歌謡であり、『日本霊異記』の最初の説話が雄略天皇に関するものであることなど、この天皇を取り巻く伝承は多いのである。)

 そこで、『日本書紀』の編纂者が「年代」についてどのように考え、書物の中でどのような扱い方をしているかが次の問題となる。第1章の紹介を今回1回で終わらせるつもりであったが、問題が込み入ってきたので、この後の部分はまたの機会に続けていくことにする。私見をいくつかカッコ書きで記しておいたが、この書物の著者は、一方で『日本書紀』が伝承・説話を含む(それどころか歌謡も収録している)ことに目を向けながら、文学作品も含めた広い精神史的な文脈の中で『日本書紀』をとらえ直すという姿勢はとっていないように思われる。『日本書紀』と『古事記』を対照して論じる個所がないのも、著者の考え方の特徴を表すものではないかと思うが、この点については次回以降、詳しく論じてみたい。
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