ジェーン・オースティン『説きふせられて(説得)』

3月2日(水)晴れ

 ジェーン・オースティン『説きふせられて』(富田彬訳、岩波文庫)を読み直し終える。当ブログの「日記抄(2月19日~25日)」の2月25日の項で取り上げたように、この日のNHK「ラジオ英会話」で、この小説の終わり近く、第23章で、ヒロインのアン・エリオットに宛てて、その昔の恋人であったフレデリック・ウェントワースが書いた手紙が紹介されたので、改めて読み直してみようと思ったのである。原題はPersuation で、岩波文庫版の翻訳者である富田さんは『説きふせられて』と訳しているが、「ラジオ英会話」では『説得』という訳語を使っていた。

 19世紀の初め、イングランド南西部のサマセット州に住む従男爵ウォルター・エリオットは3人の娘を残して夫人が死んだ後、再婚せず、夫人の親友であったラッセル夫人と友達づきあいをしながら、娘たちと暮らしていた。父親似の長女エリザベスは、父親と仲がよかったが、アンは父親には可愛がられず、むしろラッセル夫人によって、亡くなった彼女の母親の再来として大事にされていた。アンは19歳の時に海軍の若い将校であるフレデリック・ウェントワースと出会い、お互いに惹かれあって結婚を考えたが、ラッセル夫人の反対のために断念せざるを得なかった。その後、この地方でエリオット卿に次ぐ大地主の長男であるチャールズ・マスグローヴが彼女に求婚したが、今度は彼女のほうが乗り気にならず、むしろ三女のメアリがチャールズに熱を上げて、結婚したのである。

 エリオット卿には娘しかいないので、爵禄や土地財産は遠縁のウィリアム・ウォールター・エリオットという法律を学んでいる青年が継承することになっていた。エリザベスはこの男性と結婚することを望んでいたが、ウィリアムは身分は低いが金持の女性と結婚してしまった。そうこうするうちに、エリオット卿の家計は、次第にひっ迫しはじめ、ケロッグ邸をだれかに貸して、自分たちはよそでより質素な暮らしをすることになる。借りることになったのが海軍の軍人であるクロフト提督で、その夫人の弟というのがかつてアンの恋人であったフレデリック・ウェントワースで、その当時とは違い、大佐に昇進して財産もきずき上げていることが知れた。

 アンはバースに家を求めた父・姉と離れて、しばらくケリンチに近いアッパークロスに住む妹のメアリの許で暮らすことになる。メアリの嫁ぎ先のマスグローブ家はエリオット家のような気どりもなく、仲のよい一家であり、夫チャールズにはヘンリエッタとルイーザという2人の年頃の妹がいる。間もなく、ケロッグ邸の借主となったクロフト提督一家とも近所付き合いが始まり、間もなくフレデリックも顔を見せるようになった。こうしてアンとフレデリックはまた、ぎこちなく顔を合わせることになる。ヘンリエッタには従兄で僧職にあるチャールズ・ヘイターという仲のいい男性がいるのだが、フレデリックの出現で気が変わったようにも見える。その妹のルイーザは海軍の軍人に魅力を感じている。

 フレデリックには海軍の同僚でけがをして保養地のライムで暮らしているハーヴィル大佐という親友がいて、その話を聞いたマスグローブ家の人々とアンは、ライムに出かけ、ハーヴィル大佐夫妻と、ハーヴィルの妹の恋人であったベンウィック大佐に出会う。恋人を慕う気持ちがなかなか抜けないベンウィックにアンは同情心を覚えるが、ライムの旅館で、アンの美貌に見とれる男性に出会う。その男性こそ、姉のエリザベスを振ったウィリアム・ウォールター・エリオットであった。彼は妻を失ったばかりだったのである。一方、ルイーザはフレデリックとふざけていて、大けがをしてしまう…。

 アンは、そしてフレデリックは、誰と結ばれることになるのか。「彼らは前よりは思い遣り深くなり試練を経ていた。お互いに相手の性格や真実性や愛情をすっかり呑み込んでいた。今では実行する資格ができ、実行しても差し支えなくなっていた」(378ページ)という「彼ら」2人は、誰と誰なのか。
 ナポレオン戦争や産業革命に代表される社会の動きをほとんど構いつけないように、イングランド南西部の穏やかな風光の中で、地主たちのあまり広いといえない社交生活の中で、心理的なドラマが展開される。ちょっとした言葉のやり取りと、その解釈が人生を左右したりしかねない。作者の時代の社会情勢がほとんど無視されている一方で、ここで描かれている人間模様には現代に通じるものがあるように思えるところが、オースティンの作品の魅力であろう。

 ここで、少し、歴史的な注釈をいれておこう。従男爵baronetというのは英国の最下級の世襲位階で、baronの下、knightの上であるが、貴族ではない。オースティンの小説ではしばしば不動産の相続が問題になるが、これは単純不動産権、限嗣不動産権、生涯不動産権、期間不動産権、任意終了不動産権などというふうに慣習法によって複雑な権利が設けられており、男系相続が一般的(女系相続という場合もある)であることによるらしい。(『高慢と偏見』、『分別と多感』、この『説きふせられて』など、子どもが娘だけなので、家屋敷が血縁のある男性の手に渡るという話ばかりである。)

 「ラジオ英会話」で紹介されていたフレデリックの手紙は次のようなものである:
You pierce my soul. I am half agony, half hope. Tell me not that I am too late, that such precious feelings are gone forever. I offer myself to youo again with a heart even more own than when you almost broke it, eight years and a half ago. Dare not say that man forgets sooner than woman, that his love has an earlier death. I have loved non but you.
(あなたは私の魂まで突き通すのです。わたしは半ば苦悩し、半ば希望する者です。私に言わないでください、あなたは遅すぎたと、そのような愛しい気持ちなど永遠に消え去っていると。私は私自身を再びあなたにささげます、8年半前、あなたによって折れそうになり、今はより自分らしくなった心とともに。断じて言わないでください。男は女より忘れるのが早いとは、男の愛はより早く死を迎えるとは。わたしはあなただけを愛してきたのです。)
 小説中の手紙の中から省略された部分がある。それから、「男は女より忘れるのが早い」というのは登場人物の中のある人物の行為に対する評価と結びついている。これらのことについて、もっと詳しく知りたい方は、『説きふせられて』を読んでください。
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