ダンテ・アリギエリ『神曲 煉獄篇』(24-2)

3月1日(火)晴れ

 煉獄山は地球の南半球にある山でその麓には前煉獄があり、ウェルギリウスに導かれて、この前煉獄を遍歴し、第9歌で煉獄の門をくぐったダンテは、七つの大罪に対応した煉獄の環道、高慢の罪を浄める第一環道、嫉妬の罪を浄める第二環道、憤怒の罪を浄める第三環道、怠惰の罪を浄める第四環道、貪欲(吝嗇と浪費)の罪を浄める第五環道を通り、飽食の罪を浄める第六環道に達した。第五環道について歌った第21歌から、キリスト教の信仰を隠して生きていたために長く煉獄でその罪を浄めていたローマ白銀時代の詩人スタティウスが2人に加わる。
 第六環道で、ダンテは彼が若いころに戯詩を交換しあった旧知のフォレーゼの魂に出会う。ダンテは、ここで罪を浄めている魂たちの名と贖罪の理由をフォレーゼにたずねる。まず名前が挙げられたのが、ダンテたちとは文学的に対立していた、今日の文学史用語ではシクロ=トスカーナ派と呼ばれる詩派に属する詩人のボナジュンタ・ダ・ルッカであった。フォレーゼはさらにその他の、飽食の罪を煉獄で贖っている魂たちの名を挙げるが、ダンテにとって一番気になり、また相手のほうでもダンテと話したがっている様子を見せていたのはボナジュンタの魂であった。彼はダンテに向かい、「・・・ここに私が見ているのは/新たなる詩を取りだした人物なのか、その書きはじめは/『愛の本質を解する貴婦人達よ』」。(354ページ)
 「愛の本質を解する貴婦人達よ」というのは、ダンテの『新生』の書き出しである。『新生』はダンテとベアトリーチェの出会いと、2人の間の精神的な愛の経緯を詩と散文で表現した小説である。50年以上昔に読んだ記憶はあるが、その頃は、歴史的・哲学的な文脈は無視して、ただの恋愛小説として読むことしかできなかった。
 ダンテは「私こそは、愛が私に息吹を吹き込んだ/その時に記し、そして愛が私のなかに口授する/そのままを言葉に置き換えていくその一人だ」(354-5ページ)と、彼がボナジュンタと対立する詩派に属していることを語る。

 ボナジュンタは、ダンテのこの名乗りを聞き、彼がどのように詩を書いているかを知って、その優位を認める。
「兄弟よ、ようやっと私に――彼は言った――今聞いている清新体と比して、
かの公証人とグイットーネと私を
後方に引きとめる、足をとらえる罠が理解できた。

私には君達の羽が
書きとらせる者の後を離れずつき従うことが分かった。
それは私達の羽には決して起きなかった。

そしてさらに先に探求を進ませた者には、
一つの詩派と別の詩派がそれ以外に分かれているとは見えぬのだ」。
それから、彼はそれでほとんど満足してしまい、沈黙した。
(355-6ページ) 自分たちの様式を清新体と呼んだのは、ほかならぬダンテだったようである。ボナジュンタが「かの公証人」と呼んでいるのは、フェデリコ2世の宮廷で活躍したシチリア派の詩人ジャコモ・ダ・レンティーニ(生没年不詳、1230-40年頃活躍)であり、彼はソネット形式を発明した。シチリア派により、詩は歌と別れ、読まれるものとなったと傍注に注記されている。グイットーネというのはシクロ=トスカーナ派を代表する詩人グイットーネ・ダレッツォ(1235-94)であり、都市国家中心主義的な詩を書いたといわれる。「羽」は羽ペンのことで、「羽」「罠」というような語が用いられているのは、ここで詩人が鳥にたとえられているためである。「書きとらせるもの」は神を暗示する表現であるという。精神的な愛の霊感を重視する清新体派は、そのような詩に対する考え方から、神の意思にもっともよくそった詩を作り事ができ、それゆえ、先行するさまざまな詩派をしのいでいることをボナジュンタは認めざるを得なかったのである。それまでの詩派の詩人たちが歌った「愛」が世俗的であり、都市国家のような狭い地域に限られるものであったのに対し、清新体派は普遍的で、神と結びついた愛を歌う点で優位にあると、ダンテは考えたのであった。現実に、ダンテたちの詩は、今でも広く読まれているが、ボナジュンタやグイットーネの詩はほとんど読まれていない。

 ボナジュンタの沈黙をきっかけとして、3人の周りに集まっていた魂たちは散らばっていく。その中で去らずにいたフォレーゼは自分たちがいつ、ほんとうに再会できるかを問う。ダンテは、フィレンツェの運命が気になって、まだしばらくは生きているつもりであると答える。使者であるフォレーゼはある程度未来が予見できるので、彼の兄であるコルソと、彼がダンテたちの政治活動に加える弾圧や、フィレンツェ市の運命などについて、言える範囲での暗示的な示唆を与えて、他の魂達の後を追って去ってゆく。

 第24歌は、重要な内容を含んでいるように思われるので、今回を含めて3回に分けて紹介するつもりである。したがって、次回もまだ第24歌について論じることになる。 
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