シャーロット・マクラウド『ヴァイキング、ヴァイキング』

2月24日(水)曇り、一時小雨

 2月23日、シャーロット・マクラウド『ヴァイキング、ヴァイキング』(創元推理文庫)を読み終える。
 ニューイングランドのどの州に属するのかはわからないが、バラクラヴァ郡にあるバラクラヴァ農業大学の応用土壌学の教授であるピーター・シャンディが活躍するシリーズの『にぎやかな眠り』、『蹄鉄ころんだ』に続く第3作。しばらく絶版になっていたが、この度新版が刊行された。原題はWrack and Runeで『残骸とルーン文字』とでも訳せばよいのだろうか、原題と邦題の意味は、物語の展開を読めば、おのずと理解できる。

 バラクラヴァ郡の地方週刊新聞の記者クロンカイト・スウォープは間もなく105歳の誕生日を迎えようとしているミス・ヒルダ・ホースフォールをインタヴューしている。彼女の農場の近くにはルーン文字を刻んだ石碑があるという話を聞いて、その石碑を探し出そうとしていると、農場で作男として働いていたスパージョン(スパージ)・ランプキンが奇怪な死に方をするという事件が起きる。農場での作業を手伝いに来ていた(いつもは学生たちと一緒なのだが、夏休み中なので、1人だけでやってきている)応用土壌学の教授であるティモシー(ティム)・エイムズが事件に不審を感じて、シャンディ―に連絡を取る。

 農場の経営は厳しく、ヒルダとその甥のヘンギスト(ヘニー)・ホースフォールはスパージの助けを借りて細々と農園を維持してきたのである。それで、この土地を開発しようとする不動産業者が2人にうるさく迫っている。さらに農場の近くで怪しげな古道具屋を経営している2人の人物の姿も見え隠れする。また、この土地の相続をめぐって親族の間での小競り合いもあるようである。しかも、ここしばらく、2人に対する嫌がらせ事件が続いているが、警察署長は事件を取り上げようとせず、スパージの死についても事故死として片づけてしまう。何しろ、警察署長の妹が不動産業者なのである。

 ところが1人でルーンの石碑を探しに出かけたクロンカイトがとってきた拓本を見ると、本当にルーン文字で何かが書かれているようである。そこでシャンディ―とティム、クロンカイトは大学の学長でスウェーデン出身であり、古代スカンディナヴィアの文化に詳しいスヴェンソン学長に意見を求めに出かける。学長の7人いる娘のうち5番目のビルギットが結婚することになって、その結婚式に列席するためにスウェーデンからやってきている学長の大叔父の102歳になるスヴェンは英語は自由に話せないが、この問題についてはさらに詳しいという。
 スヴェンが解読したところでは、石碑には「オルム・トーケッソンがみつけたのは、まずい酒と気むずかしい女たちだけだった。ここは呪われている」という文言が刻まれていた。どうやら、中世にニューイングランドまで到達したヴァイキングの1人がこの石碑を残したらしい。このニュースをクロンカイトが書き立て、新聞の号外を配ったために、多数のやじ馬が押しかける騒ぎとなり、その一方で、この「呪い」を証拠立てるような怪事件が続いて起きる。さらにスヴェン老人は、ヒルダに熱を上げ、合計年齢207歳という「大」恋愛が進行しはじめる…。

 合計年齢207歳の「大」恋愛に代表されるおおらかで温かなユーモアが満ちたコージー・ミステリ―であるが、農民たちの土地を奪おうとする者に対する怒りのようなアメリカ文学の伝統的な正義感も物語を支えている。中世ヨーロッパを席巻したヴァイキングと呼ばれる北欧の海の民たち――その代表的な1人が、この物語でも言及されているイングランド、デンマーク、ノルウェーの王であったカヌート(c.993-1035)である――が、アイスランド、グリーンランドを発見し、さらに北アメリカに到達したという言い伝えがある(この他にも、コロンブス以前に北アメリカに達した人物がいるという伝説はいくつかある)。だから、ヴァイキングにまつわる遺物が発見されれば、大発見ということになる。バラクラヴァ郡はなぜか、この州の他の郡と違って、北欧系の名前をもつ人々が多いという設定なので、大騒ぎが起きることも理解しやすくなっている。作者であるシャーロット・マクラウドはその名前から考えてスコットランド系(或いはアメリカに多いアルスター・スコッツと呼ばれるスコットランドから北アイルランドに、そしてアメリカに移住した人々)であろうが、スコットランドと北欧の距離は近いので、親近感があったとも思われる。
 ルーン文字というのは中世にゲルマン人たちによって、ゲルマン諸語を書き記すために使われていた音素文字であり、鋭角的というのかな、その独特の字形が印象的である。その後はラテン文字(ローマ字)に取って代わられたのだが、北欧と英国ではこの文字を記した遺跡が発見されることがある。文字資料だけでなく、ヴァイキングの隠した財宝が発見されたというニュースも英国では時々報じられてきた。

 スパージを殺した犯人は誰か、ヒルダとヘニーが耕している土地は守られるのか、正当に相続されてゆくのか、石碑とその上に記された文言は真実を語っているのか、そして合計207歳の恋の行方は…もともと奇想天外で波乱にとんだ物語は、さらに波乱を重ねながら、思いがけない結末へと進んでゆく。共通の祖先をもつ古くからの家柄の一族の入り組んだ関係が物語の進行に絡み、その関係を頭に入れないと展開が理解しにくいのが欠点ではあるが、ユーモアたっぷりの語り口は、最後まで読者の興味をそらさない。

 物語とはあまり関係がないのだが、スヴェン老人が英語をあまりよく話せず、発音もあやしいというのが、その年齢設定とともに興味深い。種田輝豊さんの『20ヵ国語ペラペラ』という書物の冒頭に、英語ができないスウェーデン人が登場する。この書物を何度も読み返したらしい、黒田龍之助さんが英語ができないスウェーデン人というのは信じられないという意味のことを書いていると記憶するが、かなり昔のスウェーデンにはそういう人がいたのかもしれない。 
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