スティーブ・ジョブズ

2月20日(土)雨

 横浜駅西口ムービル5で『スティーブ・ジョブズ』(2015、ユニバーサル)を見る。アップル社の創業者の1人で、その優れた企画開発力と強烈な個性によって、IT産業と技術に革新をもたらした企業家スティーブ・ジョブズ(1955-2011)の生涯を、ウォルター・アイザックソンの書いた評伝に基づいて、アーロン・ソーキンが脚本を執筆、ダニー・ボイルが監督した映画である。ソーキンの脚本は、評伝に沿って彼の生涯を追うのではなくて、1984年のMacintosh,1988年のNeXT Cube,1998年のiMacの3つの製品発表会の舞台裏に焦点を当て、一種の対話劇としてまとめており、その中で彼の製品の性能へのこだわり、経営や営業実績をめぐる他の会社幹部との対立、元恋人のクリスアンとの口論、2人の間の娘であるリサとの距離感などが浮かび上がる、人間としてのジョブズの実像を描きだそうとした作品になっている。

 映画の中で、ジョブズ(マイケル・フェスベンダー)と、彼とともに技術開発に携わってきたアンディ(マイケル・スターバーグ)、営業担当として彼の事業の展開を支えてきたジョアンナ・ホフマン(ケイト・ウィンスレット)、アップル社の社長であったジョン・スカリー(マイケル・スタールバーグ)らの登場人物のと関係が、回想場面を挿入しながら描かれる。大部分の人々が現存しているので、このあたり描きにくかったかもしれないが、会話の様子がいかにも芝居がかっていて現実感が乏しいことは否定できない。

 フェスベンダーが、『ジェーン・エア』でかつてオーソン・ウェルズが演じたロチェスターの役を演じていたからかもしれないが、情報産業界の巨人を描くという映画の主題と、回想場面を織り交ぜる映画作りの手法は、『市民ケーン』を思い出させる。映画の進行の中で主人公の生い立ちの謎の部分が明らかになっていくところも共通している。この作品は『市民ケーン』のように、さまざまな視点から主人公を描くというやり方はとっていないけれども、その代わりにジョブズが事業を展開させていく中で生じた多様な個性のぶつかり合いを描いているので、その点での見応えがある。それから独善的で横暴ではあるが、魅力的で憎めないところがあるジョブズの性格の描き方が、ケーンを思い出させることも確かである。

 ジョブズはボブ・ディランとビートルズを愛していたようで、そのあたりのことがしっかり描かれていて、それがアメリカの精神史の一コマの証言になるように思われる。ジョブズの年齢からいうと、彼は少年時代にこれらの音楽と接したはずで、その意味では、彼が養子として育った少年時代のことが会話の中で語られるだけで済んでいることに物足りなさがある。彼の新製品のプレゼンテーションが熱狂的な支持を受けた様子はかなり克明に描かれているのだが、支持者たちがどのような環境のなかにいる人々であったのかが描かれていないのも物足りない点である。

 とはいうものの、ジョブズという優れた個性を描いたという点で一見の価値のある映画である。そこからどのようなメッセージを受け取るかによって、観客一人一人が自分の個性を読み解く一つの機会となるだろう。
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