レスリー・メイヤー『バレンタインは雪あそび』

2月16日(火)晴れ

 レスリー・メイヤー『バレンタインは雪あそび』(創元推理文庫)を読み終える。1999年に発表された、主婦探偵ルーシー・ストーンをヒロインとするシリーズの第5作である。原題はvalentine Murder(ヴァレンタインの殺人)で珍しいほどの大雪の中、「雪あそび」などとのんきなことをいっていられないような事件が展開する。
 アメリカの東北部にあるメイン州の田舎町ティンカーズコーヴに住むルーシーには夫で修復専門大工であるエドとの間に1男3女がいて、その子育てだけでも大変だが、地元の週刊新聞『ペニー・セイヴァ―』の臨時記者を務め、さらにブロードブルックス図書館の理事の職務まで引き受けてしまった。図書館は目下増築工事中である。図書館の理事会に初めて出席しようとしたのだが、定刻に遅れ、司書であるビッツィの様子を見に行くと、彼女が殺されていることに気付く。彼女は何者かに射殺されたようである。

 慌てて警察に通報したところ、顔なじみのはずの州警察のホロヴィッツ警部補は、第一発見者である彼女を容疑者扱いにしただけでなく(実際に、第一発見者が犯人である可能性は少なくない)、事件に首を突っ込まないように釘を刺される。事件発生当時理事たちは全員図書館に集まっていた。だとすると、その中の1人が犯人だということであろうか。
 理事を務めているのは、理事長である、つい数か月前までウェストミンスター大学の学長を務めていたジェラルド・アスキス、他の5人の理事は長らくこの図書館の司書を務めていたジュリア・ウォード・ハウ・ティリー、ケータリング業者のコーニー・クラーク、弁護士のチャック・キャナディ、建築請負業者のエド・バンパス、アンティーク店の共同経営者であるヘイデン・ノースクロスである。この理事たちには、それぞれ秘密、あるいは抱え込んでいる問題がある。(それは読んでいくうちに分かる…)

 図書館の入り口ホールには、ティンカーズコーヴに最初に定住したヨーロッパ人であるジョサイア・ホプキンズの子孫によって寄贈されたふたつき大ジョッキ(タンカード)が飾られているのだが、さらにその後、このタンカードが盗まれ、間もなく、ヘイデンの死体が発見されて、その傍にタンカードが転がっていたので、ホロヴィッツはヘイデンがタンカードを盗み、それをビッツィに咎められて彼女を射殺、その後良心の呵責に耐えかねて自殺したという経過を推理して、一件落着を宣言する。(もっともこの物語はルーシーの立場から語られているので、本当にホロヴィッツがそう思ったのか、捜査上の作戦としてそのように言ったのかは、多少考える余地がある。ルーシーに余計な手出しをするなと言ったのも、同じように2つの解釈が可能である。)

 ルーシーの見るところ、ヘイデンは殺人を犯すような人物ではないし、同性愛者の彼が一緒に事業をしていたラルフも、彼の死が自殺ではなく他殺であるという考えである。さらにヘイデンの死体のかたわらに転がっていたタンカードはどうもニセモノらしい。ジェラルドが学長をしていたウィンチェスター大学では創立100周年の記念品として、ジョサイアのタンカードの複製品を作っており、複製には大学の紋章が刻印されているが、それを消すのは簡単であることが分かる。ヘイデンの葬儀の際に、ジェラルドが逮捕される。彼は賭博にのめり込んでいて、多額の借金をしていたらしい…。

 一方で家事と子どもたちの世話に終われ、新聞社から頼まれた特集記事を執筆し、図書館の理事会に出席し、他の理事たちと相談・協議しながら、買い物をしたり、友達とおしゃべりをしたりする。宝くじとコンピューターが人々の暮らしにとっての新しい刺激になっているのだが、ルーシーは宝くじについての原稿を書き、子どもたちに教わりながらコンピューターで調べ物をする。これまで通りの生活と新しい試みの中で、物語が進展していく。

 時は2月で、バレンタイン・デーが近づいているが、あいにく大雪と暴風が町を襲おうとしている。
 「・・・三人が考えていたことをラルフが口に出した。
 :「ニューイングランドの冬は、見た目は美しいが苛酷だ。しかも、今年の冬はとりわけひどい。そろそろ、大勢の人たちが自暴自棄になりかけているんじゃないかな。夏のあいだにどうにかためたわずかな蓄えは底をつき、灯油が食料を買う金もない・・・・・それなのに、きびしい寒さはまだこの先2か月はつづく」
 そのとおりだとルーシーは思った。田舎では貧困の度合いがひどくなる。森の奥に隠され、風雨にさらされた下見板にかこまれて見えないが、内実は悲惨な限りだ。・・・いまは福祉改革とやらで、大勢の人々が寒さの中に文字どおり置きざりにされ、自力で生きのびていくほかなくなっている。」(119ページ)

 社会正義を求める気持ちに加えて、ニューイングランド地方とそこでの暮らしに対するルーシーの愛着が強いだけに、事件の真相を突き止めようとする、またその背後にある事情を見つけようとする彼女の努力も止められないものになるのである。
 「日常の暮らしがカードの絵のようならいいのに。ルーシーはニューイングランドの暮らしが――小さな町、武骨な人々、毎年の町民会すら――大好きだった。独立独歩の精神、勤勉さ、つつましさ、良識、大型のボストンクラッカー。まるでターシャ・テューダーの絵本に出てくる子供のように、子供たちが頬を真っ赤にして帰ってくる瞬間が、大好きだった。」(247ページ) このような愛着があるからこそ、彼女の正義感と探求心が生まれるのであり、それが物語の底を流れていることを見落とすべきではないだろう。

 バレンタイン・デーの過ごし方をはじめ、ニューイングランドの暮らしぶりの中での主婦探偵の主婦らしさがしっかりと描きこまれているから、最後の方になるとホロヴィッツ警部補がほとんど登場しないとか、物語の運びにいろいろ問題があっても、それがあまり気にならず、展開についていける。アメリカの公共図書館やその事業についても、かなりありのままに近い姿が描かれているように思われて、興味深い。
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